コード“斎”14
まだ日付の変わる前の日曜の夜、一人焦燥感に駈られ飛び出した神華は微かな希望を胸に夜の摩天楼を走り回る。
途中何度も黒鴉からの通知が鳴るが完全に無視して有り得る筈もない想い人との邂逅を望む。
(他の神に見つかれば…そんなの嫌です!)
自分の危険を省みない行動の罰のように夕方頃に翔を襲った鬼女による襲撃場面に遭遇してしまう。
「何…これ…」
戦闘は一方的で住民を護るために立ち向かった覚醒者達がズタズタに敗北していた。
「…うァー!嗚呼ぁ!」
理性の失われた獣の瞳が神華を捉える。
神華の能力も理性の無くなった相手には通用しないだろうと足が震える。
(っ!助けて博士…っ!)
神華が諦め目を瞑ると闇夜を駆け抜け颯爽とスーツ姿の男が現れる。
「ふむ、我輩達の夜の街で狼藉働く愚か者は貴様であるな!」
吸血鬼のダンが神華と鬼女の間に割って入り伸びた麻痺爪による牽制を行う。
夜の闇に紛れて降り立つ邪魔物に鬼女は驚き舌打ちをする。
ダンに遅れて向こう基準でのイケメン魔物なホスト集団が神華を護るように現れる。
「大丈夫ですかな、お嬢さん」
「あ…え…は、はい」
ちょっと想像と違う助けに神華は目を丸くしながら頷く。
「彼奴は我輩に任せるである、皆は負傷者の救助を頼むのである!」
フォーマルなスーツの襟首を正すような仕草をしてから変身するようにパッと一瞬で吸血鬼らしい服装に返信する。
「ウアァ!コロスっ!」
「御主では無理なのであーる」
ドスを振り回す鬼女の攻撃を余裕の笑みで避け、体をコウモリに変化させバラバラになり背後に回り麻痺爪で背中を引き裂く。
「グァ!?」
「ムッ!意外と固いのであるな!」
ダンはすぐに一歩後ろに引き間合いを取り体勢を整える。
「フーッ!フーッ!」
麻痺が効いているはずだがまだまだ元気に武器をがむしゃらに振り回す。
「職業柄女性を手に掛けるのは些か気が引けるであるが…それが御主の矜持と言うならば!」
ダンは優雅に一礼してから再び体をコウモリに変化させ四方八方から麻痺爪の連打で完全に沈黙させる。
「月の無い夜に我輩に勝とうなどヘソで茶が沸くのである!」
優雅に勝利の一礼をする。尚、月はしっかり出ている模様。
「あ、グガ…」
口の端から泡を吹きながら地に伏す鬼女、その武器のドスをへし折る。
「これで抵抗できないのである!さて、ふん縛ってくれるのであーる」
縄か拘束に使えるものがないかと辺りを見渡して待避していた神華に気付いて丁寧にお辞儀をする。
「その…助かったわ」
感謝の言葉に勝利の余韻を味わおうとしていたダンの胸をへし折ったドスの刃が貫く。
「おろ?まーた…油断したので…あーる」
バタっと倒れて魔石になるダン、瀕死の鬼女が神通力を使い一矢報いる形となった。
「…流石にもう、起きないわよね…」
ホスト達があちゃーと言いたげに持ってきた縄と手拭いで鬼女を後ろ手に縛り目隠しをする。
「ダンのやつ土壇場でいつもしくじるんだもんなー」
ホスト達は仲間のやられっぷりを笑いながら魔石を回収する。裏で神華は携帯を確認する。
鬼のように黒鴉から『何処にいるの!』というメッセージの数にため息をついてメッセージを返信する。
すぐに通話が飛んで来て居場所と状況を報告する。
『何勝手な事してんのよ!秘書としての自覚持って頂戴!死んだら終わりなんだから!』
「怒っているんですか?心配して下さっているんですか?」
『両方よ馬鹿!』
動かなくなった鬼女から離れ黒鴉の到着を待つと荻原の車で黒鴉が鋭い目付きで降りてくる。
「ふぅ…怪我は?もう一人で勝手な行動禁止よ?」
荻原と一緒になって車に敵を積み込み黒鴉が神華の手を引く。街の惨状にうわぁと驚く荻原は縛られた敵に気付いて飛び上がる。
「うひぃ!ねぇ黒鴉ちゃん?こいつ死んでない?」
ピクリとも動かない敵を恐る恐る指差して荻原が尋ねる。
「どっちでもいいわ、持って帰るわよ!」
「あ、アイアイサー!」
神華は心の中で犠牲になったダンに感謝しながら車に乗り込んでいく。




