コード“竜”10
不本意ながら研究所に帰って来た翔は道中で黒鴉の小言を受け続けて疲労困憊になる。
戻ってからもすぐに呼び出されて個室で状況の詳細を何度も聞かれる。
「第三勢力といっても個人規模、お父様は行方知れず…」
黒鴉は翔から聞いた話を反芻して思案を重ねる。
「浜松、アンタはどうしたいの?神か人か…」
「俺は…決めてない」
翔の有耶無耶な言い方に黒鴉はジッと澄んだ瞳で翔を見つめてくる。
「私は浜松にも妹にも共にお父様の世界を守りたい…」
言葉を出した後に黒鴉は顔を赤くして恥辱にまみれた顔をして手を振りかぶり理不尽な暴力が翔を襲いそうになる。
「なに言わせてんのよ!」
翔は見え見えなビンタをサッと回避して焦りながら叫ぶ。
「何しやがる!」
「うるさい!避けるな!」
フーッと威嚇するような息を吐いてまた張り手を構える。
「味方に欲しいのにそういう所だぞ」
必死な形相の翔からの事実を指摘され黒鴉はピタリと止まり悔しそうに睨む。
「どこまでも私の感情を弄ぶのね!」
「空回りしてるだけだろ!」
沈黙、黒鴉は落胆したように肩を落としてしおらしくなる。
「私みたいに直情的で暴力的な…リーダーは嫌よね」
「同情を誘おうとするな…」
何度か見たいつもの手だと翔は呆れるが黒鴉を気に掛け肩をポンポンと軽く叩く。
「ほら、リーダーなら自信を持てよ」
不満そうに黒鴉は自分の頭を指差す。
「そこは撫でなさいよ」
「嫌だよ」
あっさり断られて諦めたのかそっぽを向いて黒鴉は流し目で結論を急かす。
「難しい事を急かすなよ…それにまだ皆に話してないだろ」
「話さないわよ、もう裏切りは勘弁だわ」
「それはそれで大丈夫じゃないような…」
翔の心配を無視して黒鴉が胸を張る。
「私はメンタルは弱いの!そういうのいいから!」
「良かない!鍛えろ!」
「…無理ー」
ツッコミに対してコロコロと表情を変える黒鴉に翔はそれ以上注意する気力が湧かなくなる。
「まぁ数日時間くれよ、俺も話を聞いて困惑してるんだからさ」
なんとか言い訳をして結論の先延ばしをしようとする。
「それも…そうよね、でも敵になるなら…分かってるわよね?」
釘を刺されて翔はへの字口になる。
話が終わり沈黙が流れ、部屋を出ようとする翔に黒鴉が呼び止める。
「…ねぇ」
「なんだ?」
翔が振り返ると黒鴉は俯いたまま質問をする。
「人の導く未来ってどんなのかしら…」
「今と変わらないだろ、異世界が無くなるだけさ」
顔を上げて目を少し輝かせる。
「それはそれで…もしかして私頂点に立てちゃう!?」
黒鴉のテンションの上がりように翔が慌てる。
「そこは主張を曲げるなよ!」
「…平和の頂点に立っても面白くないわよね」
「どこでも頂点には立ちたいんだな」
話がまた長くなりそうだとゆっくり後退りして適当に逃げようとする。
「アンタは面白くない世界がいいの!?」
「死と隣り合わせの世界よりはマシだろ?!」
「あ!そんな言い方!やっぱりアンタそっち派閥じゃないの!?」
逃がさんと黒鴉に飛びかかられて取っ組み合いになり音を聞き付けた黒姫が扉を開けてくる。
「何事ですか?!…あ、翔君…姉さん…」
面倒な勘違いになる前に黒鴉が意識が黒姫に逸れてる翔に強いビンタを放つ。
「あがっ!」
ビンタの一撃で半回転してうつ伏せに倒れた翔の後頭部を黒鴉がつつく。
「あらら、黒姫?私はこんなへっぽこ横取りしないから安心なさい」
「そんな事より翔君が!」
「この程度で死ぬ男じゃないわよー、さーてお父様の居場所を探さないとね」
一発御見舞いして満足したのか黒鴉はスッキリした様子で部屋を出ていく。
「理不尽過ぎないか…?」
「照れ隠しですよ…多分」
「アイツに関わるとろくな事にならないな…」
顔だけ上げて疲れきった様子の翔を黒姫は屈んで手を引いて立たせる。
「傍若無人、暴君め…なんで何時も俺なんだ…」
翔の愚痴に黒姫は苦笑いする。
「姉さん人付き合い苦手ですから」
「何回目だ…そろそろ慣れてくれ…」
くらくらする頭を何度か振って飛び飛びの意識を戻す。
「どちらにしても結論は出さないとな」
面倒くさそうに頭を掻いて困った様子で翔が呟くと黒姫が翔の心中を察して言う。
「第三の道ですか…?翔君、人の数だけ道があります。皆が望む結果は無いんです」
「急に哲学的だな、じゃあまた俺達は俺達の道を提示するか?…キリがないな」
結局最後は争いと世の常を嘆く翔であった。




