最終話 親子
「美希、心配かけてごめん・・・」
俺は美希が落ち着くのを待って話しかけた。
「本当ですよ・・・皆んな心配してたんですよ・・・!?私達の気持ちも知らないで、いつも無茶ばかりして・・・!」
そう言うと、美希は再度涙を浮かべた。
俺は彼女の髪を撫でてやる。
「皆んなは?」
「皆んなはロビーに居ます・・・少し休憩してくるって言ってました・・・。誠治さん3日も目覚めないから、皆んな心配して殆ど寝てないんですよ?」
「そうか・・・皆んなには迷惑を掛けたな・・・。美希、ちょっと肩を貸してくれないか?皆んなに会いに行きたいんだ・・・」
「駄目に決まってるじゃないですか!私が呼んできます!!」
美希がそう言い、立ち上がろうとしたが、俺は彼女の手を取って引き止めた。
「別に足を怪我した訳じゃないし、俺が会いに行きたいんだ・・・。頼む・・・!」
俺の言葉に、彼女は諦めたようにため息を吐き、俺を抱き起こして立たせてくれた。
「流石に3日も寝たきりだと、歩き辛いな・・・」
「だから私が呼んでくるって言ったじゃないですか・・・!どうせ、皆んなをビックリさせようって言う魂胆なんでしょう?」
美希にはバレていたようだ。
「ははは、美希にはバレてたか!」
美希は苦笑している。
俺達はロビーに着き、周囲を見渡して皆を探した。
「誠治さん、あそこです・・・」
美希の指差した方向をみると、重い空気をまとった集団が見えた・・・。
(なんともまぁ・・・迷惑な集団だな・・・)
俺の表情を見て、何を考えているか判ったのか、美希はため息を吐いた。
「行こうか?」
「はい、この際ですし、重い空気を吹き飛ばしてあげましょう!」
俺達は笑い合い、家族の元へ向かった。
「やぁ、おはよう!」
彼等は、俺が来た事に気付いていなかったらしく、俺が挨拶をすると素早くこちらを見て止まった・・・。
「おじちゃん・・・?」
最初に立ち直ったのは千枝だった。
千枝は俺を見て涙を浮かべ、抱き着いてきた。
「おじちゃん・・・死んじゃったかと思って心配したんだからね・・・!」
千枝は俺をキツく抱き締めてくる。
「ごめんな千枝ちゃん・・・心配かけたね・・・」
俺は、千枝の髪を左手で優しく撫でた。
皆もすでに立ち直り、涙を浮かべている。
「皆んなにも心配をかけてすまなかった・・・なんとか生き延びたよ!」
俺の言葉を聞いて、皆は頷き喜んでくれた。
「誠治さんはあれだな・・・しぶといとは思っていたが、ゴキブリ並のしぶとさだな!しかも、心配していた私達を驚かす余裕まであるんだからな!」
渚は怒っているような口調だが、目には涙がうかび、目は優しい。
「本当ですよ!誠治さんの冗談はたまに笑えないです!私・・・赤ちゃん流れちゃうかと思いましたよ・・・」
由紀子の発言に、場の空気が一瞬で凍り付く・・・。
「由紀子・・・お前の冗談の方が笑えない・・・」
隆二は由紀子をジト目で睨み、皆んなも由紀子を非難の目で見ていた。
「誠治・・・生きててくれてありがとな!」
元気は涙を浮かべて肩を組んできた。
「誠治君・・・君には何とお詫びしたら良いか・・・」
酒井と櫻木、そして玉置は俺に深々と頭を下げた。
玉置は可哀想なくらい憔悴しきっている。
「気にしないでください!あなた方には、お世話になりましたから・・・。だから、お互い様ですよ!」
その後、俺は皆んなに手荒い歓迎を受けた・・・。
「田尻さん、酒井さん・・・お世話になりました。本当に九州まで送って頂けるなんて・・・ありがとうございました」
俺は2人に頭を下げた。
俺は、病院で経過観察をしたあと、田尻と酒井の厚意により、九州まで送って貰った。
「いや、今回の件では本当に助かったよ・・・我々としては、この程度では君に対する恩を返せたとは思えないよ・・・」
「それは言わない約束だったじゃないですか!俺は気にしてませんし、それに、逆にこんな面白い物まで頂いて感謝してます!」
申し訳なさそうにしている2人に、俺は明るく言った。
俺の右目には、黒い革の眼帯が付いている。
そして右手には義手が付いている。
義手は2種類貰った・・・1つはネタとして貰ったフックだ。
「これで鉄腕キャ◯ベルとラウ◯デルの真似が出来ますよ!」
「エ◯ア88か!懐かしいな!」
俺と酒井は、漫画の話で盛り上がった。
「そこのフック船長!早く行きますよ!車待たせてるんですから、早くしてください!!」
俺と酒井は美希に怒られた。
「誠治君、君は彼女の尻に敷かれる運命のようだね・・・」
「えぇ・・・覚悟は出来てますよ・・・」
俺は酒井と肩をすくめて話をし、最後に握手をして別れた。
「さて、じゃあ行きますか!?」
俺は皆に言って車に乗り、俺の実家へと向かった。
港から車で2時間、俺の実家へと帰り着いた・・・。
「帰ってくるのは半年振りだけど、随分長い間離れてた気がするよ・・・」
「仕方ないですよ・・・色々ありましたからね・・・」
美希は俺の右側に寄り添い、千枝は俺の左手を握っている。
酒井さんが別れの際に、俺の両親には、今日戻る事を伝えてあると言っていた。
本当にマメな人だ・・・。
「なんか、緊張するな・・・」
俺が玄関の前で躊躇していると、皆が後ろで苦笑している。
ピンポーン!
俺は覚悟を決めてインターホンを押した・・・。
「はーい!ちょっと待ってください!」
中から懐かしい声が聞こえる。
夏帆が死んだ翌日、俺を勇気付け、励ましてくれた母の声だ・・・。
「お待たせしました・・・」
母が急いでドアを開けた。
そして、俺を見て固まった・・・。
「母さん・・・ただいま・・・」
「誠治・・・お帰りなさい・・・!」
母は嬉しそうに涙を浮かべ、俺達を迎え入れた。
家の中には父もいた。
俺が挨拶をすると、満足そうに頷き、目頭を拭っていた。
「父さん、母さん・・・紹介するよ。俺を今まで支えてくれた仲間だ・・・俺にとっては家族だよ・・・」
俺達は客間へと移動し、両親に皆んなを紹介し、今までの経緯を説明した。
2人は涙を流し、彼等に感謝した。
渚達に貸家を与えて欲しいと頼むと、息子の恩人で、家族ならばと二つ返事で了承してくれた。
「父さん、母さん・・・もう2つほど話があるんだ・・・」
俺が改まって言うと、2人は顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。
「俺は・・・この子と・・・。美希と結婚する!母さんは夏帆の事を可愛がってたから、複雑かもしれないけど・・・俺は美希と結婚したい・・・」
俺がそう言うと、2人は驚いていた。
ちなみに、千枝も驚いた。
他の皆んなは笑顔で頷いている。
「誠治・・・前夏帆ちゃんが言ってたけどね、もし私が死んだら、あんたには早く次の人を見つけて欲しいって言ってたよ・・・あんたに幸せになって欲しいって笑顔で言ってた・・・あんたを好きになった人にも、幸せになって欲しいって・・・。美希ちゃんと結婚する事であんたが幸せになるなら、夏帆ちゃんもきっと喜んでくれるよ・・・。だから、あんたはその子を幸せにしてあげなさい!」
母は涙を流して語った・・・。
俺は、あの日夢の中で夏帆が微笑んでいてくれたのは、俺と美希の事を認めてくれていたのだと思った。
「それで、もう1つの話は?」
父が話を促した。
「これは千枝ちゃんに関係してるんだけど・・・」
俺と美希は顔を見合わせて頷き、皆に聞こえるようにはっきりと言った。
「俺と美希は、千枝ちゃんを養子に迎えたいんだ・・・」
俺の言葉に、両親も渚達も驚いている。
千枝は、養子と言う言葉が理解出来なかったのか、不思議そうに俺を見ている。
俺は千枝に向き直り、千枝の目を見て話し始めた。
「千枝ちゃん、もし良かったら・・・おじちゃんと美希の娘になってくれないかな・・・?そうなると、千枝ちゃんと美希は姉妹じゃなくて親子になってしまう・・・。でも、俺達が千枝ちゃんが大切なのは、今までもこれからもずっと変わらない・・・。だから、千枝ちゃんが良ければ、俺と美希を君のお父さんとお母さんにさせてくれないか?」
俺の言葉を聞いて、千枝が考え込む・・・。
「おじちゃんがお父さんになってくれるの・・・?」
「あぁ・・・そうなりたいと思ってるよ・・・」
俺は千枝に優しく話し掛けた。
千枝はもじもじとして俯いている・・・。
「ありがとう・・・お父さん、大好き!」
千枝は俺を認めてくれた。
瞳に涙を浮かべ、嬉しそうに抱き付いてくれた。
皆は、俺達を見て喜んでくれた。
(俺はこの新しい家族を大事にしよう・・・。俺の幸せを願ってくれた夏帆のため・・・美希と千枝の幸せを願った悠介のためにも、彼女達を守り、幸せになろう・・・)
俺は死んでしまった大切な人達を思い出し、彼等に誓った・・・。




