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The End of The World   作者: コロタン
86/88

第85話 夢

  俺の目には、地獄となった広場が映っている・・・。

  奴等に蹂躙され、多くの人が餌食になっていた。

  その中には美希、千枝、渚、隆二、由紀子、元気・・・俺の愛する家族の姿がある・・・。

  無残に喰い荒らされ、いたるところに臓物を撒き散らし、死んでいる・・・。

  これは夢だ・・・それは解る・・・。

  だが、この悪夢は終わりは無い・・・。

  怒りに我を忘れた俺が奴等に単身で挑み、喰われて死ぬと、また振り出しに戻るのだ・・・。


  「くそっ!美希を離せ!!」


  俺は振り出しに戻った悪夢の中で、襲われる美希や仲間達を助けようと何度も挑み続けた・・・。

  だが、どんなに違う行動をしても、結局彼等は死んでいく・・・。

  奴等に喰いつかれ、涙を流し、痛みに叫び、俺に助けを求めながら死んでいく・・・。

  俺はこの終わらない悪夢を、すでに何十回と繰り返している。

  俺は、隆二と元気に言葉を残して、それ以降気を失ったのは覚えている。

  だが、それが遠い昔の出来事に感じてしまうほどに、この悪夢は振り出しに戻る・・・。





  「あぁ・・・これで何回目だ・・・」


  俺の精神はすでに限界を超えていた・・・。

  悪夢が始まった時点で、俺の右手は無く、右目も見えない・・・。

  俺が気を失った直後からこの悪夢は始まる・・・。

  何度繰り返せば良いのだろう・・・。

  あと何回愛する家族達の死ぬ姿を見なければいけないのだろう・・・。

  その悪夢は、俺の疑問を嘲笑うかのように、また振り出しに戻った・・・。


  「頼む・・・もうやめてくれ・・・!もう死なせてくれ!!」


  俺は、振り出しに戻った悪夢の中で叫んだ・・・。


  「もう耐えられないんだ・・・!これ以上家族の死を見たくないんだ・・・!」


  俺は泣き崩れた・・・。

  俺の願いは叶わず、俺は泣き崩れたまま奴等に喰われ、また振り出しに戻った・・・。


  「これが、人を殺した俺への罰なのか・・・?これが、家族を殺そうとした奴等を手に掛けた事に対する罰だと言うのか!!?ふざけるな!!奴等を殺さなければ、家族が死んでいた!!彼等は・・・俺の愛する人達は、あの時死んだ方が良かった存在なのか!?・・・頼む!誰か教えてくれ・・・」


  俺の呼びかけに答える者は居なかった・・・。


  「もういい・・・」


  俺は力なく項垂れ、手にしていたナイフを下顎から突き刺し自殺した・・・。






  目を開けた俺の前に、白い空間が現れる。

  初めて美希を抱いた日の夜に見た光景だ・・・。

  悪夢が続くと思っていた俺は、目の前に広がる真っ白な空間に言葉を失っていた。


  「ここは・・・あの時の部屋か?夏帆!いるのか!?いるなら、顔を見せてくれ!!」


  俺は夏帆に呼び掛けるが、返事はない・・・。

  しばらく経っても、何も起こらない・・・。

  諦めて自殺しようにも道具も何も無い状況だ。


  「今度はここで飢え死にか・・・。まぁ、彼等の死ぬところを見ないで済む分まだましか・・・」


  俺は力なく呟き、そのまま地面に座って目を閉じた・・・。






  どれ程の時間が流れただろう・・・。

  俺が目を瞑り項垂れていると、何か暖かい物に包まれた様な気がした。


  「誰かいるのか・・・」


  俺は期待半分で問い掛けた。


  『相変わらず無茶ばかりしているな・・・そんな事であいつらを守れるのか?』


  『そうですよ誠治さん!俺、美希と千枝を幸せにしてくれって言いましたよね!?』


  聞き覚えのある声が聞こえた・・・。


  「慶次と悠介か・・・?どこに居るんだ!?姿を見せてくれ!!」


  俺は顔を上げて語り掛けた。

  だが、彼等の姿は見えない・・・。


  「お前達の声が聞こえるって事は、俺は死んだのか・・・?」


  俺は正直安堵していた。

  あの地獄の様な悪夢を見なくて済むと安心した。


  『勝手に死なれちゃ困ります!私は、貴方に幸せになって欲しいんですから!あの子を大切にしてって言ったでしょ!?』


  今度は夏帆の声が聞こえた。

  かなり怒っている・・・。


  「ごめん・・・。でもさ、俺も噛まれたんだよ・・・。ずっと悪夢を見ててさ・・・その後は此処にいた・・・。目が覚めないんだよ!夢だって解ってるのに、覚めないんだ・・・!」


  俺は、夢とは言え彼等の声を聞くことが出来て嬉しかった。

  このままでも良いかと思っていた。

  でも、そんな俺を夏帆が叱責した・・・。


  「俺だって、出来る事なら生きたいよ・・・。夏帆には悪いけど、愛する人も出来た・・・。その子は、俺の子供が欲しいって言ってくれた・・・でも、目が覚めないんだよ・・・」


  俺は項垂れた。

  彼等は沈黙している・・・。

  俺は幻聴だったのだろうと諦めた・・・。

  すると、再度彼等の声が聞こえた。


  『諦めるなんて、あんたらしくないな』


  『そうです!そんなの、誠治さんらしくないでしょ!?俺達を気遣って、最後まで戦ってくれたじゃないですか!』


  『もし貴方が諦めるなら、私は貴方を許しませんよ!?貴方はまだ死んでない!私達は、貴方に生きて欲しい・・・。貴方を待っていてくれる人達のために生きて欲しい・・・』


  俺は、彼等の声を黙って聞いていた。

  頬を涙が伝っている。


  『あの悪夢は、貴方自身が罪悪感から見ていた夢よ・・・。私達を守れなかった事、人を殺した事・・・そんな自分を許せない貴方自身が、自分を責めるために見せていた夢なの・・・。もう、自分を許してあげて?償い方はいくらでもあるじゃない・・・!だから、貴方はこっちに来ては駄目よ?私達のために・・・貴方を愛してくれている人達のために生きて・・・』


  夏帆が語り終えた後、真っ白な空間に光が満ちるのを感じた。


  「ありがとう・・・君達も、俺の愛する家族だよ・・・」


  俺が呟くと、全てが光に溶けて消えた・・・。






  俺はゆっくりと目を開ける・・・。

  目に映っているのは天井だろうか?

  視界が狭く、やけにボヤけて見える。


  「ここはどこだ・・・?」


  俺は自分の身体を確認する。

  右手は無くなっている。

  左手で顔を触ると、右目の場所には包帯が巻かれていた。

  俺はゆっくりと周囲を見渡した。


  「病室か・・・?」


  俺は身体を起こそうとしたが、起き上がる事が出来なかった・・・。

  俺は、腹部に何か重い物が載っている感じがして、左目でそちらを見た。


  「美希・・・?」


  俺の腹部を枕にして、美希が眠っていた。

  彼女の頬には、涙の跡が残っている・・・。

  目覚めない俺を心配して、ずっとついていてくれたのだろう。

  俺は彼女の髪を撫でようとして、右手を伸ばし、途中で辞めた・・・。

  髪を撫でようにも、右手が無いのだ。

  俺は仕方なく左手で彼女の髪を撫でた・・・。


  「美希・・・」


  俺が彼女の髪を撫でて話し掛けると、彼女はゆっくりと目を覚ました。


  「美希・・・おはよう・・・」


  俺がはにかんで笑いかけると、彼女は顔をくしゃくしゃにして涙を流し、抱き着いてきた。


  「誠治さん・・・お帰りなさい・・・!」


  俺は彼女の身体を強く抱き締め、自分が生きている事を喜んだ・・・。

  

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