第84話 激痛
俺は夕飯と若干の休憩を済ませ、再度玉置と組み見廻りを始めた。
元気は櫻木と組み、隆二はサポートとして照明弾を持っている。
「さてと、元気!何かあったら必ず教えてくれ!暗いと奴等の数が把握出来ない!報せてくれたら、すぐにサポートに向かう!」
「了解だ!そっちも気をつけろよ!」
「隆二も頼んだぞ!奴等が現れたら、照明弾を撃て!」
「解りました!誠治さん、無茶はしないでくださいよ!?いつも無理するんですから!」
俺は隆二に釘を刺されてしまった・・・。
「仲が良いんですね」
「えぇ、彼等は俺の自慢の仲間ですよ!」
俺は玉置に笑顔で答えた。
「ここからは、さらに気を引き締めていきましょう・・・。何かあったら、必ずサポートしますから、あまり緊張しないでください」
玉置はガチガチだ。
いくら自衛官とは言え、彼女は奴等との接近戦の経験が無いのだ。
奴等は動きは鈍いが、掴む力は強い。
組み付かれたら、男でも振り払うのは困難だ。
女性の玉置では恐らく不可能に近いだろう・・・。
それに、本来守るべき俺達に逆に頼ってしまったのだから、悔しいだろう。
未知の恐怖と責任感や罪悪感で緊張してしまうのもわかる。
(仕方ない・・・俺が彼女を見ておかないとな・・・。彼女と櫻木さんに何かあったら、玄葉陸将や酒井さんに申し訳ないしな)
俺がそう思っていると、広場の左手側から照明弾が上がった。
俺達からは結構離れている。
「向こうに現れたみたいですね・・・」
俺は方向と広場からの音を聞いて様子を伺った。
「行かなくて良いんでしょうか・・・?」
「行ったら此処に穴が出来ます。向こうには部隊が向かったようですし、俺達はここを離れなくて良いでしょう。ですが、今のでさらに音が増えました・・・。照明弾も上がりましたし、もし他の方向からも奴等が来た場合、持ち場を離れては見張りの意味がありませんよ?」
俺は緊張の面持ちの玉置を窘めた。
ガサガサガサ!
俺が玉置を見て溜息を吐いていると、茂みから音がした。
「玉置さん、茂みから離れてください・・・。奴等が来た可能性があります」
俺が玉置をさがらせて元気達を見ると、彼等も異変に気付いたらしく、茂みから距離を取っている。
俺は武器を構えてライトを点け、茂みの奥を照らす・・・。
「隆二、照明弾を撃て!奴等の数が多いぞ!!」
光の先に照らし出されたのは、10体を超える奴等だった・・・。
光が届かない位置にまだいる可能性もある。
「玉置さん、この数では1体を2人で倒していては間に合わない!個別に撃破しましょう!」
俺は奴等に気付き、恐怖で動けなくなっていた玉置に指示を出した。
「元気!そっちには奴等はいないか!?」
「こっちも結構いるぞ!早く片付いたら、そっちの援護に行く!」
「分かった!無理はするなよ!!」
俺は元気達の状況を確認し、目の前の奴等を見る。
やはり死角にいたのか、数が増えていた・・・。
「結局こうなるのか・・・。玉置さんなるべくサポートします!奴等に組み付かれないように気を付けてください!隆二!照明弾はまだか!?急がないと間に合わなくなるぞ!!」
俺は玉置に指示を出した後、隆二に怒鳴った。
「さて、始めるか!」
俺は茂みから出て来た1体に、腰から抜いた刀を振り下ろした。
玉置も戦闘を開始したようだ。
流石は自衛官と言うべきか、緊張していても動きが良い。
「玉置さん、左からも来ています!一度距離を取ってください!」
周りを確認しながら指示を出す。
俺は3体目を斬り倒し、奴等と距離を取った。
隆二も照明弾を撃ち、今は戦闘に参加している。
「元気!そっちの状況は!?」
「うようよいやがる!しばらくはそっちには行けねえ!!」
「櫻木さんも気を付けてください!奴等に組み付かれたら、蹴り飛ばしてでも距離を取ってください!」
俺は皆んなに指示を出しながら、さらに近付いて来た1体を斬り伏せた。
「嫌っ・・・!離して!」
俺は声のした方を振り向いた。
玉置が組み付かれついる。
更にその近くには、他の奴等が2体近付いて来ていた。
「くそっ!玉置さん、今助ける!!」
俺は玉置に向かおうとしている1体を後ろから斬り、彼女の救助に向かう。
「早く助けて下さい・・・!」
玉置は必死に抵抗しているが、力では奴等に及ばない・・・。
玉置に組みついている奴が口を開け、彼女に喰いつこうとした瞬間、俺は咄嗟に手を伸ばした・・・。
ガリッ!
右手に鋭い痛みが走る。
俺は右手の平を噛まれた・・・。
俺はそれを気にせず、噛み付いた奴を力任せに玉置から剥がし、倒れたそいつを無視して、近付いていたもう1体を斬り倒した。
「誠治さん!!なんでそんな・・・!?」
一部始終を見ていた隆二が叫ぶ。
俺はそれを無視し、立ち上がろうとしている奴の頭に刀を突き刺した・・・。
「あぁ・・・ごめんなさい・・・!私を助けたばっかりに・・・!」
玉置が俺の手を見て泣き崩れる。
「どいてくれ!」
俺は玉置を押しのけ、近くにあったコンクリートのベンチに噛まれた右手を置き、腰に下げていた新品のマチェットを抜いて叩きつけた・・・。
ダンッ!!
俺の右手が飛ぶのが見える・・・。
それと同時に、右腕と右目に強烈な痛みが走った・・・。
右腕は、手首から先が無くなり、右目はコンクリートのベンチで折れたマチェットの破片が刺さっていた・・・。
「づっ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛!!いってぇ!!!」
俺はあまりの痛みに叫んだ。
「誠治!!どうした!!?」
俺の叫びに、元気と櫻木が駆け寄る。
「おまえら、呆けてる場合か!?周りをよく見ろ!まだ来てるぞ!!」
俺は痛みに朦朧としながら、皆に叫んだ。
俺は、ジーンズからベルトを抜き、右腕の止血をした。
チャップスを履いているので、ジーンズがずれ落ちる心配は無い。
数台の車の排気音が聞こえる。
部隊が近付いているようだ。
俺は左手にタイヤレバーを持ち、元気達の元に戻った。
「もう少しで部隊が到着する!それまで持ち堪えろ!!」
俺は叫びながらタイヤレバーを振り回す。
止血をしている右腕から血が流れている・・・。
噛まれた右手は切断したが、それで感染が防げたかは判らない・・・。
だが、今はそんな事を気にしている暇はない。
(戦わなければ・・・彼等を安心させなければ、彼等が死んでしまう・・・)
俺は自分に言い聞かせながら奴等を倒していった・・・。
「遅れてすまない!全員無事か!?」
到着した部隊が車から降りて、俺達の援護に入る。
「誠治さん!なんて無茶を・・・!?」
「誠治・・・あんた・・・」
救助に来た部隊と入れ替わり、隆二と元気が俺に駆け寄り、涙を浮かべている。
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・!私のせいで!!」
玉置は泣き、櫻木も項垂れている。
「取り敢えず・・・噛まれた右手は切断したが、どうなるか判らない・・・。もしもの時は・・・元気・・・頼んだぞ・・・!」
俺はその言葉を最後に意識を失った・・・。




