第82話 説得
俺は玄葉達との話を終え、建物の前にある広場へと向かった。
広場に着くと、複数の自衛官と、避難民それぞれのグループのリーダーが集まっていた。
「皆さん、お呼び立てして申し訳ありません。私はここを預かる陸将の玄葉と申します。本日お越しいただいたのは、お願いがあっての事です・・・!」
玄葉は皆の前に立ち、挨拶をした。
「今朝、広場に近い場所にある浜に、船が座礁しているのを発見しました・・・。我々の部隊が調査に赴き確認をしたのですが、その船には奴等のいた形跡があったとの事でした・・・。ですが、部隊はその報告の後に消息を絶ちました・・・」
集まった人々が騒めく・・・。
「お願いと言うのは、広場の見張りのお手伝いをして頂けないかというものです・・・!情け無い事に、ここに居る我々自衛隊だけでは、広場全てを見張る事が困難な状況にあります・・・。今まで辛い思いをされてこられた皆さんにお願いするのは、誠に心苦しいのですが、どうかお力をお貸し頂けないでしょうか!」
玄葉は深々と頭を下げた。
集まった人々に沈黙が流れている。
しかし、明らかに怒気をはらんだ表情だ・・・。
「ふざけるな!何がお願いだ!?」
「俺達を見捨てておいて、自分達だけじゃ足りないからって手を貸せだ?都合が良すぎるんじゃないか!?」
避難民のリーダー達は、頭を下げている玄葉に対し、口々に罵声を浴びせた・・・。
周りの自衛官は、言い返せずに俯いている。
「あんたら、それで良いのか?」
俺は、彼等と玄葉の間に割って入った。
「何だてめぇは!俺達は、こいつら自衛隊に見捨てられたんだ!今更協力なんてするつもりは無えんだよ!!」
「あんたら、彼等を何だと思ってるんだ?まさか、自衛隊を何か別の生き物と勘違いしてないか?彼等も、俺達と同じ人間だぞ!誰が好き好んで地獄に行きたがる!?あんたらだって、職場じゃあ上からの命令には従うだろ、彼等だってそうだ!確かに彼等は俺達を見捨てたかもしれない・・・だが、この四国や九州、北海道が無事なのは誰のおかげだ!?彼等自衛隊が居たからだろうが!」
俺は叫んだ。
彼等は俺の剣幕に驚き、口ごもる。
「彼等が俺達を見捨てたのは事実だ・・・だが、避難してきた俺達を手厚くもてなしてくれたのも、間違いなく自衛隊じゃないのか!?住む場所を与え、食料も用意し、風呂まで沸かしてくれたのは誰だ!彼等が風呂に入っているのを見た奴が居るか!?彼等は、俺達が風呂を済ませた後、その残り湯で身体を洗っていたぞ!飯だってそうだ!俺達には温かい食事を用意し、自分達は冷えたレトルトを隠れて食ってるのを知ってるか!?辛い思いをしてるのは俺達だけじゃない!彼等だってそうだ!!彼等の中にも、実家が関東の人がいるはずだ!その人達の家族はどうなったかわかる奴が居るか?自分の家族を見捨て、助けに行く事も出来ない彼等の気持ちがわかる奴が居るのか!?」
彼等は絶句していた。
「俺はあの日、恋人を亡くした・・・。プロポーズをしようとして駅で待ち合わせをしている時に巻き込まれ、恋人は死んだ・・・結局、恋人が生きている間にプロポーズは出来ず、指輪も渡せなかった・・・。翌日母からの電話で九州が無事なのを知って街を出た・・・。そして、仲間と出会った。今度こそは守ろうと誓ったが、結局2人も死なせてしまった・・・。でも、残った仲間達は、今でも俺を支えてくれている・・・。新しく愛する人も出来たし、守りたい家族も出来た・・・でも、彼等を守るには、俺だけじゃ無理なんだ・・・1人だけじゃ守りきれない・・・。彼等を守る為には、自衛隊の存在は不可欠なんだ・・・。あんた達だってそうだろう?自分の力だけで愛する家族を守り抜けるのか・・・?あんた達は自衛隊を恨んでるのかもしれない・・・でも、あんた達だけで生き残れるのか!?もし自衛隊に協力せず、彼等が死んでしまったら、次に戦うのは自分達だと理解しているか!?恨みを忘れろとか、自衛隊の為になんて綺麗事を言うつもりは無い・・・だが、今は協力して目の前に迫っている危機をどうにかするのが先決じゃ無いのか!?」
彼等は俯き黙っている。
自衛官達も、俺の言葉を黙って聞いていた。
「それでも嫌なら勝手にすれば良い・・・。だが、今後何があろうと彼等を恨むのも蔑むのも辞めろ。おまえ達に彼等をそんな目で見る資格は無い・・・。俺は、彼等の厚意に甘えておきながら、いざとなったら見捨てるような下衆に成り下りたくは無い。だから、俺は彼等と戦う・・・。戦う気の無い者は足手まといだ・・・そのまま黙って帰れ・・・」
俺は彼等を一瞥し、玄葉に向き直る。
「玄葉さん、今から俺と元気は仲間を集めてきます。少し待ってて貰えますか?」
「あ、あぁ・・・助かる・・・」
玄葉は唖然として答えた。
「わかったよ・・・俺達も協力する・・・。だけど、自衛隊に見捨てられた事は忘れねぇ・・・。あんた達が見捨てたせいで俺の子供が死んだのは事実だ!だけど、これ以上仲間を死なせたくない!だから、今回は協力する・・・」
1人の男が叫んだ。
それを聞いた他の者達も、口々に恨み言を言いながらも、協力を誓い帰って行った。
「うまく行きましたね・・・」
俺が笑って玄葉に話しかけると、彼は一気に脱力した。
「演技だったのか・・・役者にでもなったらどうだい?」
玄葉と酒井は苦笑している。
「いや、全部本心ですし、恋人の事も事実です・・・。自衛隊の方々には本当に助けられています。特に酒井さんと田尻さんには足を向けて寝られませんよ!あなた方がいなければ、俺や仲間達はここに居ません・・・。きっと、元気とも再開出来ませんでした・・・。だから、協力したかったんです」
「ありがとう・・・私達も君と出会えて良かったよ。君達みたいな人が居てくれるだけで、我々は頑張れる・・・」
酒井は小さく頷いて言い、俺達を送るため、車を手配しに去って行った。




