第77話 裸の付き合い
俺達は火葬場から戻り、訓練を行った。
「奴等の集団と近接武器で戦う時は、刃物より鈍器が良い。理由は、刃物は刺さると抜く手間が掛かるからだ。それと、自分のリーチは保つようにした方が良い。理由は解ると思うが、リーチを保てない状況なら、自分で作るんだ。俺の場合は、頭を潰した奴を蹴り飛ばすようにしている。蹴り飛ばせば、後ろの奴まで巻き添えをくって動きが鈍るからだ。これなら、囲まれた時にも後ろを対処する時間が稼げる」
俺は元気の仲間達に、身振り手振りで自分の戦い方を教えた。
この先何があるか判らない。
九州や四国、北海道が安全であり続ける確証はないからだ。
ならば、効率的な戦い方を共有し、いついかなる時も対処出来るようにしておく必要がある。
「俺達は何人かで対処してるが、誠治は基本1人なのか?」
元気が問い掛けてきた。
「まぁ、奴等の集団相手に接近戦が出来るのは俺だけだったしな。渚さんは近接武器より銃やクロスボウの方が得意だし、隆二は接近戦は出来るけど、俺のサポートが主だったよ。それに、奴等の集団を相手にするなら、他のメンバーの位置を確認しないと危ないからな・・・。俺は1人の方が気が楽だよ。ただ、滅茶苦茶疲れるけどな!!」
俺の言葉に皆んなは苦笑していた。
「誠治は銃やクロスボウは使わないのか?」
「使えない事はないが、あまり使わないようにしてるよ。狙う時には集中しないといけないし、その間は無防備だ。それと、銃は音で奴等を引き寄せてしまう・・・。いくら強くても、リスクが高くなるなら使わずに対処した方が良いと思ってな。仮に銃を使うとしたら・・・その時は、自分に使うよ・・・」
元気は俺の言葉に渋い顔をした。
「まぁ、銃やクロスボウなんて、普通はそうそう手に入る物じゃない。そんな物に頼って接近戦を疎かにしていたら、生きてはいけないよ」
「あんたの言う通りだな!銃を持ってたとしても、弾には限りがあるからな!んじゃ、今日はこの辺にしとくか!」
俺は元気の言葉を聞いて腕時計を見た。
16時を回っている。
俺の腕時計は電波ソーラー式の国産時計だ。
自動で時間を調整する上に、ネジを巻く必要が無いので気に入っている。
なかなか良い値段がしたが、今ではボロボロだ。
(あぁ・・・俺の給料2ヶ月分が・・・)
俺は、改めてボロボロになった時計を見て泣きそうになった。
「そろそろ夕飯の準備でもするか・・・」
俺が項垂れて言うと、元気が肩を組んできた。
「飯の準備は女衆に任せて、風呂に行こう!隆二君もだ!!」
俺と隆二は夕飯の準備を美希達に頼み、元気や他の男達と一緒に風呂に向かった。
「いやぁ、今日はありがとうな!うちの奴等にも良い勉強になった!」
「構わないよ。俺と隆二も、グループでの戦い方を聞きたかったんだ。お互い様だろ?」
「そうですよ!これで、いつでも誠治さんの役に立てます!」
俺達は、仮設の湯船に浸かって話していた。
「そう言やぁ誠治、お前さんは美希さんと付き合ってるのか?」
「ぶっ・・・!いきなり何を!」
俺は元気の突拍子の無い質問に噴き出した。
「いや・・・火葬場の控え室で、なんか良い雰囲気だったからよ・・・。もしかしてって思ってな!」
「誠治さん、別に良いんじゃないですか?隠す必要ないですし」
元気と隆二に言われ、俺は肩を落とした。
「そうだよ・・・付き合ってるよ。笑っても良いぞ!?俺みたいなおっさんが、あんな若くて可愛い子と付き合ってるなんて、当に美女と野獣だからな・・・」
俺は自分で言って悲しくなった・・・。
「別に笑いはしねぇよ!むしろ良い事じゃねぇか!あんたは、俺から見ても頼れる男だ!女が惚れるのも解るぜ!」
元気は、沈んでる俺を慌てて励ました。
「前から思ってましたけど、誠治さんってたまに面倒臭いですよね・・・」
隆二は呆れている。
「そうだ!美希さんも検査した方が良いんじゃないですか?」
「何の?」
「妊娠ですよ・・・。悠介から聞きましたよ?4回抱いたって」
俺は隆二の言葉に再度噴き出した。
(あの野郎・・・バラしてんじゃねぇよ!!)
俺は悠介に怒りを覚えた。
「隆二・・・。すまんな、4回じゃないんだ・・・6回だ!」
俺は開き直った・・・。
「やる事やってんじゃねぇか・・・。なら、尚更診てもらった方が良いんじゃねぇか?」
「誠治さん・・・。こんな状況でがっつき過ぎじゃないですか・・・?」
「仕方ないだろ・・・。由紀子さんの妊娠が判って、美希も俺の子供が欲しいって言ってくれたし、俺だっていつ迄生きられるか判らないし・・・。まぁ、それとなく勧めてみるよ・・・」
俺は2人に項垂れて呟いた。
「良い雰囲気って言えば、火葬場では、元気も渚さんと良い感じだったじゃないか・・・。千枝の相手してくれてた時、2人共楽しそうだったの見てたぞ?どうなのよ?」
俺が元気に聞くと、元気の顔が真っ赤になった。
隆二も興味があるらしく、元気をニヤケ顔で見ている。
「まぁ、何だ・・・。良い女だなと思うよ・・・。あの人は性格も良いし、何より子供好きだ。俺も、前の嫁が死んでから男手一つで息子を育ててきたが、あいつももう居ないしな・・・。良い相手が居ればとは思っちゃいるんだが・・・」
元気は少し寂しそうだった。
「まぁ、良いんじゃないか?渚さんに告白したらどうよ?昨日会ったばっかりだから無理かも知れないけど、俺達が九州に行くまで時間あるんだからさ!」
「その時は言ってくださいよ!全力でフォローしますから!!」
俺と隆二は元気を励ました。
「あぁ、その時は頼むわ!」
元気は力強く頷いた。
俺達は長い間風呂に浸かっていたため、若干のぼせたが、楽しい時間を過ごした。




