第68話 最後の見張り(悠介と隆二)
悠介視点の話しになります。
「それにしても、美希ちゃんは凄い剣幕だったな・・・。誠治さんと渚さん涙目だったぞ・・・」
「あぁ、美希は怒ると凄え怖いんだ・・・。あいつのビンタは世界を取れるよ!首が吹き飛ぶかと思ったからな!」
「あぁ、あの時か!お前、あの時は何をやって美希ちゃんを怒らせたんだよ?」
俺と隆二は誠治さん達と交代して、見張りについている。
外は静かで、奴等はいないようだ。
「あれなぁ・・・。あれは、誠治さんに美希を抱いたかしつこく聞いたんだよ・・・。しかも、美希の前でさ・・・」
「お前・・・ばっかじゃねーの!?」
項垂れて答えた俺に、隆二が呆れて言った。
「だって、誠治さんが美希を選んでくれたのが嬉しくてさ・・・。美希が誠治さんの事好きなの知ってたし、美希に自分から迫れってアドバイスしてたから、気になったんだよ・・・」
「そんな事言ったって、普通、美希ちゃんの前で聞くか!?そりゃああの子もキレるわ!」
返す言葉もない・・・。
「で、誠治さんは美希ちゃんを抱いたのか?」
隆二が周りを確認して耳打ちしてきた。
「何だよ、お前も気になるんじゃねーか!」
「そりゃあ気になるよ!当たり前だろ!?」
「良いか?誠治さんと美希には絶対に言うなよ?俺達殺されるぞ?」
俺は隆二に念を押して、耳打ちした。
「夜と朝で計4回したらしいぞ・・・」
「マジか・・・。誠治さんって30代だよな?」
「あぁ・・・。確か34歳って言ってた」
「誠治さん・・・若いな・・・!」
俺と隆二は顔を見合わせて頷いた。
「確か、由紀子にバレた時はキスしてたって言ってたが、たぶんヤってたよな・・・」
「たぶんな・・・。何か、自分から美希に迫れって言っといてなんだけど、ヘコむな・・・」
「何がだよ?」
項垂れる俺に隆二が聞いてくる。
「妹の情事の話しだよ・・・。誠治さんにも言われたんだよ。聞いて楽しいかってさ・・・。実際、聞いたらヘコむわ・・・」
「いや、それは聞いたお前が悪いだろ!?普通考えつくだろ!?」
隆二は呆れている・・・。
「気になったんだよぅ・・・!察してくれよぅ!」
俺は涙目になった。
「それにしても、あの人ほど理解出来ない人って居ないよな・・・」
あの人とは、誠治さんの事だろう。
「何が?」
「見た目強面だけどさ、話してみると気さくだし、さらっと冗談言ってくるし・・・。かと思えば、真面目な顔で語りだすしさ。しかも、それが的確なんだよな・・・。アドバイスとか凄え解りやすいんだよ」
誠治さんは不思議な人だ。
あの人は、仲間を危険に晒すのを極端に恐れる割に、自分の身の危険は厭わない。
奴等や敵である人間には鬼の様に振る舞うし、殺してでも排除するが、仲間や家族にはとても優しく接する。
「頼れる人だよな・・・。兄貴が死んだ時も、自分を盾にして俺を守ってくれてさ。励ましてくれて、一緒に泣いてくれた。嬉しかったよ・・・。あの時からかな・・・誠治さんを怖いと思わなくなったんだよな。その前までは、俺達を守ってはくれるけど、目的の為なら殺しも辞さない人って思ってたんだ・・・。でも、あの人の涙を見たら、この人も俺と同じなんだって解ったんだ・・・」
隆二はゆっくりと語った。
「俺も同じだよ・・・。あの人が、俺達兄妹を助ける為に、人を3人殺したんだ・・・。俺達を守ってくれたんだ・・・。それなのに、俺達はあの人を恐れたんだ・・・。なのにさ、あの人俺達を怒らなかったんだよ。しかも自分を怖がる俺達を気遣ってくれて、優しくしてくれてさ・・・。俺達があの人を支えたいって言ったら、泣いて喜んでくれたんだ。俺も、その時初めて誠治さんも俺達と同じで、辛い思いをして来たんだって解ったよ。だから、俺は守られるだけじゃなくて、あの人を守りたい・・・」
俺は隆二の目を見て語った。
隆二も頷いてくれた。
「あの人には、一生かかっても返し切れない恩があるからな!兄貴の時もだけど、由紀子の妊娠の件に関しても、感謝しても仕切れないよ!だから、俺もあの人を守るよ!」
「あぁ、俺もだ!夏帆さんの事もあるのに、美希を選んでくれた・・・。あいつが幸せだと思える様に努力するって誓ってくれた!だから、俺は2人が幸せになれるように頑張るよ!」
俺と隆二は互いに誓った。
「あのさ・・・。俺の事で熱く誓い合ってくれるのは嬉しいけどさ、もう少し声を抑えようよ・・・丸聞こえだよ君達?」
俺と隆二は声のする方を同時に振り返った。
誠治さんが居た・・・。
誠治さんは、恥ずかしそうに頬を掻いている。
「誠治さん・・・。何で居るんです?何処から聞いてたんですか・・・?」
「トイレに行こうとしたら、話し声が聞こえて・・・。俺ほど理解出来ない人は居ないってあたりから・・・」
「ほぼ最初じゃねーか!!なんで今更出てくるんだよ!?余計恥ずかしいわ!!」
俺と隆二は同時に叫んだ。
「ごめんよ・・・」
誠治さんは項垂れて謝って来た。
「誠治さん・・・。まったく反省してないみたいですね・・・」
誠治さんの後ろに美希が立っている・・・。
怒りのオーラが見える。
「ひっ!?俺トイレに起きただけなんだけど!?」
「言い訳は許しませんよ?トイレに起きただけなら、なんで兄さん達と話し込んでるんですか?」
美希は笑顔だ・・・だが、目が笑っていない・・・。
「本当なんだよ!信じてくれ!!」
誠治さんは涙目で訴えたが、正座をさせられた。
俺と隆二も一緒にだ・・・。
「まったく!見張りを任せてしまって申し訳ないとは思いますけど、夜中に騒ぐなんて非常識でしょう!?病みあがりの千枝や、身重の由紀子さんに負担が掛かったらどうするんですか!!」
美希の説教が始まった・・・。
「誠治さん、すみません・・・」
「いや、良いよ・・・」
俺が小声で誠治さんに謝ると、諦めた様に返してきた。
「誠治さんと兄さん!真面目に聞いてるんですか!?」
「はい!すみません!!」
美希に怒鳴られ、俺と誠治さんは同時に答えた。
騒ぎを聞きつけて渚さんと由紀子さんが起きてきたが、怒られている俺達を、哀れむ様な目で見た後、部屋へと帰っていった・・・。
俺達は、たっぷり1時間も美希に説教をされ、誠治さんは涙目で引っ張られて行った。
「なんか、ドナドナを思い出すな・・・。あの人、絶対尻に敷かれるな・・・」
俺は隆二の言葉に無言で頷いた。
俺は足が痺れて立ち上がれないまま、誠治さんが引っ張られて行った方を見ていた・・・。




