第67話 最後の見張り(誠治と渚)
「こうして誠治さんと見張りをするのも最後になるな・・・」
俺と渚は港町から帰り着き、皆んなに船を見つけた事を報告し、夕飯を済ませた後、最後になるであろう見張りをしている。
皆んなに船の事を報告した時、それはもう喜んでいた。
やっとこの地獄から抜け出せる目処が立ったのだ。
夕飯の席も、皆んな終始笑顔だった。
「そうだな・・・。渚さん達と出会ってから、まだ2週間位しか経っていないはずなのに、随分長い間一緒に過ごした気がするよ」
俺と渚は、見張りをしながら今までの事を思い出す。
本当に色々な事があった・・・。
「2人きりになるのは最後になるかもしれないから言わせて貰うが、私は誠治さんの事が好きだ・・・」
俺は渚の言葉に驚き、見事な二度見をした。
「え・・・。そんなフラグ無かった気がするんだが・・・?」
俺は混乱しながらも、何とか言葉を絞り出した。
「まぁ、実際に意識したのはここ数日だからな・・・。判らないのは仕方ないさ。それに、私が気付かれない様にもしてたしな」
渚は淡々と語っている。
「なんでまた俺なんかを?」
「そうだな・・・。慶次に似ていると思ったんだよ。誠治さんとあいつは、根本的な部分が似てるんだ・・・。だからかな?だが、勘違いはしないで欲しい!誠治さんには誠治さんの良い所がある!私は、そんな所も好きになったんだ・・・。まぁ、美希さんが誠治さんを好きな事は知っていたし、私が誠治さんを好きになったのは、誠治さんと美希さんが恋仲になったと知った後だったからな・・・。別に美希さんと別れろだの何だの言うつもりはないよ!ただ、知っていて欲しかった。それだけだ・・・」
「まぁ、何だ・・・。こんな事言うのは変かも知れないけどさ・・・嬉しいよ!ありがとうな!!」
「あぁ、それで良い・・・。誠治さんとは、変わらず憎まれ口を叩き合う方が楽しいよ」
渚はすっきりとした表情で笑った。
「あぁ、それと話は変わるんだが・・・私が誠治さんみたいになるにはどうしたらいい?」
「本当にかなり話しが変わったな・・・。今の話の流れからどうしてそうなるんだよ・・・」
「仕方ないだろう!?誠治さんみたいな考え方に憧れもあるんだ!」
俺が呆れて言うと、渚は真っ赤になった。
「俺の考え方って・・・具体的にどんな?」
「そうだな・・・。慶次が死んだ数日後、悠介君を諭したろ?それと、私が料理を諦めそうになった時や、由紀子の時のような考え方だ・・・。私は、理屈は解っても、言葉に出来ないんだ・・・なぜあんなにも直ぐに答えがだせる?なぜその考えに至った?それが気になるんだ」
渚は項垂れている。
「そうだな・・・。悠介にも言った事だけど、兎に角考えて、自分なりの答えを出す事だよ。それが、どんなに小さくてくだらない事でも、考えて答えを出すんだ・・・。その答えが、いつ必要になるかなんて分からなくて良い。もしかしたら、死ぬまで役に立たないかもしれない。でも、考えて答えを出すんだ」
「なぜそこまでして考える?意味の無い事を考えて何になるんだ?」
渚は不思議そうに聞いてきた。
「明日死ぬと思って生きなさい、永遠に生きると思って学びなさい」
「どうしたんだ、急に・・・?」
渚は俺の言葉に怪訝な表情をして聞いてきた。
「俺の座右の銘だよ。元々は、夏帆の好きだった言葉だ・・・。渚さんは、この言葉を聞いて何を思う?言葉通りに捉えれば、当たり前の事の様に聞こえるだろう?でも、それじゃあ駄目なんだ・・・。何も考えて来なかった人が、当たり前と言って馬鹿にしたらいけないんだ・・・何故か解るか?」
「いや・・・検討もつかないな・・・」
彼女は首を捻って答えた。
「さっきのはガンジーの言葉なんだけど、彼等昔の偉人と呼ばれる人達は、ただ生きるのにも苦労するような時代に、その考えに至ったんだよ・・・。貴重な時間を割いて、小さな事も見逃さず、考えたんだ・・・。それは、ただ日々を過ごしているだけじゃ考えもつかないだろう。実際、昔の偉人達の言葉が書かれている本を読むと、本当に小さな事に答えを出している人達が多いんだ。俺達が、普段見落としている物、見て見ぬ振りをしていた物・・・。俺も、最初は当たり前の事を書いてるだけだと思ったよ・・・。だけど、さつきのガンジーの言葉を夏帆から聞いて、自分が恥ずかしくなった・・・ただ何も考えずに日々を過ごしていた自分が恥ずかしくなったんだ・・・」
渚は、俺の言葉をただ黙って聞いている。
「明日死ぬと思って生きなさい、永遠に生きると思って学びなさい・・・。俺がこの言葉を聞いた時、1日1日を無駄にせず後悔の無いように生きなさい・・・と、そう言われたように思ったよ。人間はいつ死ぬかなんて判らない。明日かもしれないし、10年後かもしれない。それは誰にも判らないんだ・・・。だからこそ、1日も無駄にしてはいけない。永遠に学ぶと言うのは、日々の生活の中にこそ本当に学ぶべき物があり、それは死ぬまで尽きる事は無い。何にでも挑戦し、何でも学ぶ。そして、最期の時には悔いの無い人生だったと思えるように生きる・・・。そう言われた気がしたんだ・・・」
「なるほどな・・・。確かに、誠治さんの言った通り、考える事は大事だな・・・」
「日々の生活の中には、本当に色々な情報があるんだ・・・。映画やドラマ、ニュースもそうだし、音楽やゲーム、漫画、人との繋がりとか、そう言ったものの中には、本当に色々な情報が溢れているんだよ・・・。その中から、学ぶべき事を探して、自分なりの答えを出す。そうする事で、ただ知っているのでは無くて、知識として自分の物にする・・・。それが自分の成長や器を広げる事になると思うんだ・・・。自分が成長すれば、急な事態にも今まで蓄えた知識から答えを出せるし、人を諭す事も出来るんだ」
「そうか・・・。日々の積み重ねこそが重要なんだな・・・。私も今まで無為に過ごしていた・・・これからは気を付けるよ!貴重な話しをありがとう!」
渚は頷き、笑顔で言ってきた。
「まぁ、これは俺の考え出した答えだから、渚さんに合うかは判らない・・・。これから、渚さん自身の答えを見つければ良いんじゃないかな?」
「あぁ、私も自分なりの答えを探していこうと思う!だが、答えに詰まった時には助けて貰えるとありがたい・・・」
「その時は言ってくれ、力になるよ!まずは、昔の偉人達の本は良い勉強になるからオススメだぞ!あれは答えが書いてあるからな!」
「それは、カンニングじゃないのか・・・?」
「何を言ってるんだ!あれは確かに答えが載ってるけど、その言葉を見て、自分がどう感じるかとか、その人はなぜそのような答えに至ったかを考えるのに良いんだよ!答えから問題を考えるんだ!!」
俺は拳を握り力説した。
これは魂の叫びだ。
「誠治さん五月蝿いです!!今何時だと思ってるんですか!!?」
俺は、魂の叫びに目を覚ました美希に怒られた・・・。
「まったく、いい大人が夜中に何を力説してるんですか!渚さんもただ聞いてるだけじゃ無くて注意してくださいよ!」
俺と渚は正座をさせられ、見張りの交代時間まで美希の説教を受けた・・・。




