第64話 手掛かり
俺達は遅めの夕食の後、風呂を済ませて、思い思いに過ごしていた。
俺と美希は千枝の様子を見に来ている。
「千枝ちゃん、調子はどうだい?」
俺が話しかけると、嬉しそうに頷いた。
「大丈夫だよ・・・!」
喉の痛みが少し引いたようだ。
(夏帆に祈ったおかげかな?だとしたら、感謝しないとな)
俺はそう思いながら、千枝の頭を撫でた。
美希も嬉しそうに千枝を抱いている。
「あのね・・・さっき、お父さんの夢を見たの・・・。私の前から居なくなっちゃいそうだったから、服を掴んだの。そしたら、一緒に居るよって言ってくれたの!」
千枝は嬉しそうに語っている。
「良かったね、千枝!お父さんも、千枝が心配で会いに来てくれたのかもね!」
美希も嬉しそうにしている。
(やっぱり意識が朦朧としてたみたいだな・・・)
俺は苦笑した。
「でね、目が覚めてお父さんは居なくなっちゃったけど、おじちゃんが手を握っててくれたの!おじちゃんありがとう!」
千枝は嬉しそうに俺に抱きついてきてくれた。
「どういたしまして!千枝ちゃんが元気になってくれて嬉しいよ!」
俺は千枝を抱き締め、彼女の無事を喜んだ。
俺と美希は、あまり遅くまで起きていると千枝の身体に障ると思い、早々に千枝を寝かしつけ、リビングに戻った。
「誠治さん、美希さん・・・。さっきはありがとうな!それで、明日の予定なんだが、どうするんだ?」
俺と美希を見て駆け寄ってきた渚は、お礼を言い、明日の予定を聞いてきた。
「取り敢えず明日の朝は、俺と悠介で奴等の様子を見に行ってくる。渚さん達は、この家の中を見て回ってくれ。使える物が何かあるかもしれないからな」
「そうだな、一応毎日奴等の様子を見に行った方が良いだろうな。あの車がいつ迄もつか解らないしな」
「あぁ・・・。念には念を押さないとな。それじゃあ、家の方は任せるよ。午後からは俺と悠介も加わる」
「了解した!では、また明日!」
渚は俺達に告げ、自分の部屋に戻った。
今日の見張りは、俺と悠介と隆二だ。
そろそろ最初の見張りの時間だ。
「さて、見張りを頑張りますか!」
俺は気合いを入れて庭に向かった。
「悠介は奴等の様子を見に行くのは初めてだったよな?」
「ですね・・・。正直緊張しますね」
一夜明け、俺と悠介は郊外に引きつけている奴等の様子を見に来ている。
昨夜は引きつけているおかげか、奴等は全く現れなかった。
「さて、どれだけ集まってるかな?」
俺は街の近くにあった、丘の上の展望台から双眼鏡を覗いた。
「どうですか?」
俺は聞いて来た悠介に、無言で双眼鏡を渡した。
「うわぁ、凄すぎじゃないですか?どれだけいるんですかね?」
「さぁな・・・。少なくとも一昨日の倍はいると思うから、2000体くらいだと思う」
この街の人口からすると、それでもまだ奴等の数は少ないが、街の中に生きている人の気配は皆無だった。
何処かの建物の中にでもいるのだろうか?
「そろそろ戻るぞ。ここも確実に安全とは言えないからな」
俺は悠介に言い、拠点へと戻った。
「渚さん、ただいま。何か目ぼしいものはあったかな?」
「あぁ、誠治さんお帰り。武器になりそうなのが少々あったぞ」
俺と悠介は拠点へと帰り着き、渚達に物資の捜索状況を聞いた。
「そうか・・・。武器以外には?」
「今の所はそこまでは無いな」
渚は肩を落とした。
「解った。昼からは、俺は書斎を見てみる。ガレージにはダイビングの道具や釣り道具もあったから、もしかしたら船も所有している可能性がある。その手掛かりを探そうと思う」
「そちらの方は任せるよ。では、昼食にしようか!」
その日の昼食は、千枝も一緒に食べた。
やはり、皆んなとの食事は楽しいようで、千枝は終始笑顔だった。
「さて、始めるかな。それにしてもこの量はどうするかな・・・」
俺は昼食の後、この家の主人の部屋であろう書斎に籠もった。
「まずは、船を持っているか確認するか」
俺は大量のアルバムを探し出し、一冊一冊ページをめくって行った。
同じ船の写真があった場合、その船を所有している可能性が高いからだ。
「ふむ・・・。ここ2年間の写真に、同じ船が写っている写真が何枚かあるな・・・」
俺は、楽しそうに釣りやダイビングをしている写真を見つけ、手に取った。
その写真には、どれも壮年の男が写っている。
恐らく、この男が主人だろう。
「でも、船を動かしている写真が無いな・・・」
俺はさらにアルバムをめくり、その男が船を動かしている写真を探した。
「あった・・・。恐らく、この男が船を所有しているのは間違い無いな」
大豪邸に住んでいて、高級車を何台も所有しているのだ。
船を所有していてもおかしくはない。
だが、しっかりとした情報が無ければ、安心は出来ない。
「あとは、船の説明書や船舶免許用の参考書があれば確定だな!」
俺はさらに書斎の棚を探し回った。
「誠治さん、入るぞ!」
俺が本の山を漁っていると、渚が書斎に入って来た。
彼女は部屋の状況を見てたじろいでいる。
「どうした?」
俺は床に座り込み、書斎の本棚にあった物を片っ端から調べている。
「いや、凄い状態だな・・・。そろそろ夕飯だから、呼びに来たんだが」
渚はそう言い、呆れた様に俺を見ている。
「そうか、じゃあ残りは明日にするよ。流石に疲れた・・・。渚さん、疲れただろう?僕も疲れたんだ・・・」
「そんな冗談を言える元気があるのなら、まだまだ大丈夫だ!」
俺は、某名作アニメのセリフを真似て言ったが、渚はさらりと流して部屋を出て行った。
「酷いよ渚ちゃん!?」
「誰が渚ちゃんだ!!」
俺の呟きに、渚が返して来た。
どうやら、聞こえていたらしい。
俺は肩を落とし、リビングに向かった。
「それで、誠治さん・・・。何か目ぼしい情報はあったか?」
渚が夕食のすき焼きを突きつつ、俺に聞いて来た。
「ん?あるにはあったぞ?この家の主人は、船を所有している可能性が非常に高い。まだ確認中だが、恐らく確定だろう。おっ、豆腐に味が染みてて美味いな!」
その場の時が止まった。
「誠治さん・・・。いま何気なく言ってましたけど、それはかなり重要な話しでは?」
悠介は震える声で言った。
「まぁ確かにそうだが、これだけの金持ちで、さらにはガレージに釣り道具やダイビングの機材があったんだから、予想は出来そうなもんだろ?」
俺は悠介に言い、鍋から肉を取って口に運んだ。
「船を所有していたとして、すでにその船で脱出しているのでは?」
「その可能性もあるが、この家のガレージは5台分のスペースがあり、その全てが埋まっていた。一番荷物の載せられるレンジローバーも残っていた・・・。車も無しに港まで行けるか?ここに近い場所の港でも、車で1時間は掛かるぞ?それに、どのみち港から船で脱出する予定だったんだ。もしその船が残っているなら、使う以外にはないだろう?」
「そうですね・・・。他の船を探すのもそこまで手間は変わりませんし、ある可能性が高いなら、それに賭けても良いかもしれないですね!」
俺の話しに美希が賛同し、皆んなも頷いた。
(明日は船の説明書と鍵を探そう)
俺はそう思いつつ、すき焼きを食べた。




