第62話 手抜き雑炊
「おじ・・・ちゃん・・・!」
俺は、千枝の呼ぶ声で目が覚めた。
千枝は心配そうな顔で俺を覗き込んでいる。
「ごめんな千枝ちゃん、おじちゃんも一緒に寝ちゃってたみたいだ・・・」
千枝は、目覚めた俺を見て小さく笑った。
「千枝ちゃん、喉の調子はどうかな?ちょっとだけ口を開けてくれないか?」
俺は千枝に言い、喉の奥を見た。
「まだ赤いけど、腫れは少し引いたみたいだね!お薬が効いたみたいだ!後は、夕飯の後にもう一度お薬を飲んで、様子を見ような!」
俺は千枝に言い、頭を撫でてやった。
くぅぅぅっ・・・!
可愛い音が聞こえてくる。
「今日はあまり食べてなかったからね、夕飯まではもうちょっとあるから、何か食べようか?」
俺がそう言うと、千枝は恥ずかしそうに頷いた。
「千枝、美味しい?このプリンは、誠治さんが千枝のために作ってくれたんだよ!」
「おじ・・・ちゃん・・・!ありが・・・とう!美味しい・・・よ!」
美希は、千枝に少しづつプリンを食べさせている。
俺がプリンを取りにキッチンに行くと、夕飯のメニューに悩む美希と会ったのだ。
千枝の調子が良くなった事を伝えると、一緒について来たのだ。
「どういたしまして!気に入ってもらえたようで良かったよ・・・」
「甘さ控え目でしたけど、美味しかったですよ!このくらいが丁度良いです!」
美希も褒めてくれた。
「そう言えば、渚さんと隆二さんが、もう一度出てくるって言って、車で外に行きましたよ?なんか、昨日引き離した奴等の様子を見て来るって言ってました・・・。誠治さんが千枝と寝てたので、後から言うって言ってました・・・。止めた方が良かったですか?」
「いや、渚さんなら大丈夫だろう。それに隆二も一緒なら問題無いと思うよ。俺も奴等の様子を見に行こうと思ってたから、丁度良かったよ・・・」
渚は、何も言わなくても色々と察してくれる。
女性ながら頼りになる。
「出てどのくらい経つんだ?」
「1時間半ですね・・・」
「それなら、もう少しで帰って来るな・・・。彼等が帰って来るまで夕飯の準備をしとこうか?」
俺は美希に提案した。
俺と美希は、リビングに戻って来ていた悠介と由紀子に千枝を任せて、夕飯の準備を始めた。
「千枝ちゃんには、消化しやすくて喉に負担のかからないのが良いよな・・・」
「そうですね・・・。私もそれで悩んでました・・・」
俺は冷蔵庫を開けて中を確認する。
昼に食べた茶碗蒸しの残りがまだあった。
「よし、これを使おう!」
「茶碗蒸しを使うんですか?何かアレンジするんですか?」
「うん、きっと千枝ちゃんは気に入ってくれると思うよ!」
俺は美希に自信満々に言って調理を開始した。
まずは、大根を細かく刻み、出汁を水で薄めた。
「美希、小さな鍋を出してくれないか?」
俺は美希に頼み、炊飯器からご飯をよそってきた。
「誠治さん、準備出来ました・・・」
「ありがとう!じゃあ今から作るよ!」
美希は不思議そうに俺を見ている。
まず、美希の準備した鍋に、余り物の茶碗蒸しを少し崩しながら入れ、細かく刻んだ大根と、水で薄めた出汁を入れた。その上にご飯を投入し、少しかき混ぜてから、鍋の蓋を閉めて火にかけた。
「後は吹きこぼれないように煮て完成だな!」
「え!もうですか!?」
美希は唖然としている。
「誠治さん・・・手抜きじゃないですか?」
「何を言っているのかね、美希さんや!この茶碗蒸しは俺が作ったんだよ?それを俺が再利用してるんだ!茶碗蒸し分の手間は考慮していただきたい!」
俺はビシッと美希を指差し言った。
「それはそうですけど・・・」
美希は釈然としない顔をしているが、納得してくれた。
くつ くつ くつ くつ
鍋の中でご飯が煮える音が聞こえてくる。
「良い匂いですね・・・」
「だろ?自信はあるよ!まぁ、千枝ちゃんが気に入ってくれたら嬉しいけどね・・・」
「大丈夫ですよ・・・!良い匂いですから・・・!」
俺と美希は、完成するまでしばらく話をした。
「そろそろ良いかな?」
俺は鍋の火を止め、蓋を開けて確認する。
湯気に乗って良い匂いが広がる。
「よし、完成だ!」
「うわぁ!美味しそうな雑炊ですね!!」
美希は完成した雑炊を見て感嘆の声を上げた。
「千枝ちゃんの所に行こうか!」
俺は雑炊を皿に移すと、2人で千枝の部屋に向かった。
「千枝ちゃん、夕飯が出来たよ!」
俺と美希は千枝の部屋に入った。
「おぉ!良い匂いですね!!千枝ちゃんが羨ましいなぁ・・・」
「良かったな、千枝!美味そうな夕飯だぞ!!」
由紀子は相変わらず食い意地が張っている。
「茶碗蒸しを使った雑炊だよ・・・。味は大丈夫だと思うけど、どうかな?」
俺はスプーンですくい、千枝に食べさせた・・・。
「すごく・・・美味しい・・・!」
千枝は笑顔を浮かべて言って来た。
「そっか!気に入ってもらえて嬉しいよ!」
千枝はやはりお腹が空いていたらしく、最後まで残さず食べてくれた。
美希達は、千枝の食べっぷりを見て優しく微笑んでいた。
「ただいま〜!いやぁ、疲れた!!」
玄関から隆二の声が聞こえてくる。
どうやら、無事に帰って来たようだ。
「渚さん!隆二!こっちだ!」
俺は2人を呼んだ。
「おぉ!皆んなここに集まっていたのか!?どうだ?千枝ちゃんの様子は?」
渚が部屋のドアを開けて言ってきた。
「おぉ・・・!千枝ちゃん・・・!もう大丈夫なのか!?」
渚は千枝の姿を見て涙を浮かべている。
「渚さん達の持ってきてくれた薬が効いたみたいだよ・・・。だけど、まだ安心は出来ないから数日は様子を見ようと思ってるよ」
渚にそう伝えると、それが良いと了承してくれた。
俺と美希は、渚達に千枝を任せ、キッチンへと戻った。
自分達の夕飯を作るのを忘れていたのだ・・・。




