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The End of The World   作者: コロタン
59/88

第58話 前兆

  俺達は車の入れ替えを終え、夕飯の前に久しぶりの湯船を堪能している。

  堪能しているのだが、目の前には2人の人物がいる・・・。


  「どうしてこうなった・・・」


  「ですよね・・・」


  「おじちゃんとお姉ちゃんと一緒で楽しい!!」


  湯船に浸かる俺の目の前では、美希が千枝の頭を洗っている・・・。

  俺は、今から約10分前にリビングで行われた茶番を思い出し、ため息を吐いた・・・。


  「何人かでまとまって入れば時間の節約になるだろう?だから誠治さんは、美希さんと入れば良い!」


  「そうですよ!私は後で渚さんと千枝ちゃんと一緒に入りますから、ゆっくり浸かってください!」


  「俺は隆二と入りますから!男同士の友情を深めますよ!なっ!隆二!!?」


  「そうです!語らねばならんのですよ!!」


  渚達は、口裏を合わせたかのように言ってきたのだ・・・。

  皆ニヤついていた・・・。


  (こいつら・・・。からかってやがる・・・)


  俺と美希は、内心要らぬお節介だと思い、断ろうとしたが、渚達は聞く耳を持たなかった・・・。

  なんとか説得し、千枝と一緒に入る権利だけはもぎ取ったが、釈然としなかった・・・。


  「千枝ちゃんと一緒になったから、あいつら悔しがってたな!いい気味だ!」


  「ですね!千枝が一緒なら何も起こりようが無いですからね!」


  (そうそう彼等の思い通りにはならんよ!ざまぁ見ろ!)


  俺と美希は、少ないながらも、なんとか手にする事が出来た小さな勝利に気をとり直した。


  「まぁ、気遣いはありがたいんだけど・・・やり方がズルいと言うか、子供じみてると言うか・・・」


  「まぁ、やり方は少し気になりますけど、折角皆んなが気遣ってくれたんですし、久しぶりの湯船を堪能しましょう!千枝も誠治さんと一緒で嬉しいよね!?」


  「うん!嬉しい!!」


  ありがたい事に千枝は、俺と美希が一緒に入るのを、全く気にしていない様だ。

  

  美希と千枝は身体を洗い流し、湯船に浸かった。

  この家の風呂場はかなり大きい。

  湯船も、大人3人がゆっくりと浸かれる位の広さだ。


  「まぁ、この家の持ち主には悪いが、利用させて貰おう!」


  俺達は、久しぶりの湯船を堪能しつつ、会話を楽しんだ。






  「さて、悠介と隆二で風呂も終わる事だし、2人が上がったら夕飯にするか!」


  俺と美希は風呂から上がった後、他のメンバーが風呂に入っている間に夕飯の準備をしていた。

  この家の冷蔵庫は大きく、かなりの量の食材が入っていた。


  「おぉ!豪勢だな!?これは美味しそうだ!!美希さん1人で作ったのか!?」


  「わぁ!美味しそう!!美希さん、良いお嫁さんになれるね!」


  渚と由紀子は口々に美希を褒めた。


  「私だけじゃないですよ?誠治さんも色々と作ってくれました!」


  美希がそう言うと、渚がショックを受けて崩れ落ちた・・・。


  「よりによって、誠治さんにまで負けるとは・・・!」


  「男の独り暮らしナメんな!メシマズの貴様よりも出来て当然だ!!」


  俺が勝ち誇ると、渚は死んだ様な目でふらふらと立ち上がり、椅子に座って項垂れた・・・。

  真っ白だ・・・。

  某ボクシング漫画の主人公の様に白くなっている。


  「うん、美味しい!隆二も、誠治さんくらい料理出来たら良いのになぁ・・・」


  由紀子は、項垂れる渚を無視して、俺の作った料理を摘み食いする。


  (この子、渚さんの扱いに慣れてるな・・・。俺が言えた事じゃ無いけど、もう少し気遣ってあげようよ・・・。)


  俺は、全ての料理を摘み食いしている由紀子を見て思った・・・。

  風呂場からは、むさい男2人の楽しそうな笑い声が聞こえる・・・。

  なんだか、仲間はずれにされた気分だ・・・。


  「誠治さんはどんな料理が得意なんですか?」


  俺が悠介達を羨ましく思っていると、由紀子が聞いてきた。

  まだ摘み食いをしている。


  「由紀子さん、そろそろ摘み食いをやめないと、あいつらの分が無くなるよ・・・」


  「あっ!すみません!」


  由紀子は慌てて手を引っ込めた。


  「得意な料理は特に無いけど、色々と作れるよ?和食は味噌汁、肉じゃが、筑前煮とか作るし、洋食ならシチュー、グラタン、パエリアだね。あと中華なら酢豚、青椒肉絲とか色々・・・。でも、1番よく作るのはカレーだね!」


  俺は、摘み食いをやめた由紀子の質問に答えた。


  「誠治さん・・・。見た目怖いのに万能ですね・・・。なんでそこまで出来るようになったんですか?」


  (見た目は関係無いだろ!!?)


  俺は憮然としたが、気にするだけ無駄と思い、気をとり直して答えた。


  「それは・・・。前の彼女・・・夏帆が俺の家に泊まりに来た時なんかに、一緒に作ったりしてたから・・・。夏帆もあまり料理は得意じゃなかったから、一緒に勉強したんだよ・・・。まぁ、そこで項垂れてる元警察官よりはマシだったけどね!」


  「なんでそこで私を引き合いに出す必要がある!?」


  燃え尽きて真っ白になっていた渚が怒りの色に染まった。


  「だって、渚さんより出来ないと思われたら、夏帆に悪いしさ・・・」


  「だからって・・・。誠治さんは最近私の扱いが雑になって来てないか・・・?」


  「それ、兄さんも言ってましたよ・・・」


  「まぁ、悠介と一緒で気兼ねなく話せる感じがあるからな・・・。悠介は弟っぽいし・・・渚さんは姉・・・?」


  俺の答えに渚は項垂れた。


  「何度も言うが・・・私は誠治さんより年下だ!!」

  

  渚の叫びが虚しく響いた・・・。







  「ごちそうさまでした!いやぁ、温かい料理はやっぱり美味いですね!でも、まさか誠治さんが料理得意だなんて意外でしたよ!」


  隆二は腹一杯に食べ、お腹をさすりながら言って来た。


  「由紀子さんが、お前にももう少し頑張って欲しいって言ってたぞ。料理が出来れば何かと役に立つから、今からでも覚えた方が良いんじゃないか?」


  「わかりました・・・。自信は無いけど頑張りますよ!渚さんよりは上手くなる自信あります!!」


  「お前もか!?誠治さんと言いお前と言い、私を虐めて楽しいか!?」


  渚は涙目で訴えて来た。


  「渚さんは普段とのギャップが酷いからな・・・。だから、そればっかりが目立ち過ぎるんだよ。渚さんも勉強すれば良くなるんじゃないか?」


  あまり虐めると渚がいじけるので、取り敢えずフォローした。


  「そうかな・・・?うん・・・そうだな!そうに違いない!!隆二、見てろよ!絶対に貴様には負けん!!」


  (チョロいなこの人・・・。だんだん扱いが解ってきたぞ・・・)


        けほっ!  けほっ!


  俺が渚と隆二のやり取りを見ていると、小さく咳をするのが聞こえた。


  (ん?誰の咳だ?)


  周りを見回したが、もう誰も咳をしていない・・・。


  (気のせいか・・・?)


  「誠治さん、明日はどうする?」


  俺が首を捻っていると、渚が聞いてきた。


  「そうだな・・・。取り敢えず、明日はこの家を調べようと思ってる。何か良い物が無いか探そう!」


  「了解だ!これだけ広い家だからな、色々とあるかもしれないしな!!」


  俺達は、明日の予定を決め、夕食後は自由時間として、それぞれ楽しんだ。


  (まぁ、さっきの咳はたまたまだろ・・・)


  翌日、咳をしていた人物が判明し、慌てる事になるとは、この時は思いもしていなかった・・・。

  

  

  

  



  

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