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The End of The World   作者: コロタン
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第44話 シャワールーム

  「ふぅ・・・やっと着いたな・・・。流石に徹夜明けは堪えるな・・・」


  渚が首を回しながら呟く。

  俺達は、目的の町の入り口に着き、1度車から降りて町の通りを見回した。

  渚の顔にも、流石に疲れが見える。


  「徹夜が堪えるって・・・渚さんはまだそんな歳じゃないだろ?俺みたいに30を過ぎればそれもあるかもしれないが・・・」


  渚は俺をジト目で睨んでくる。


  「誠治さん、いくら私相手でも、女性に年齢の話をするのは良くないな・・・。流石の私も傷つくぞ?」


  俺と渚の会話を聞いて、他のメンバーが苦笑いをしている。

  渚は慶次と同い年の20代後半だ。

  確か27歳と言っていた。

  彼女は男勝りな性格ではあるが、身長が高く細身で中性的な美人だ。

  動きの邪魔にならない様に、髪を後ろで結い上げているので、スーツを着れば秘書やキャリアウーマンに見えなくもない。


  「おっと、これは失礼・・・」


  「まぁ、良いが・・・。誠治さんはそんな所が少し残念だよな・・・」


  「それはお互い様だろ?渚さんもたまに抜けてるだろ?」


  「確かにな・・・私も何かとやらかすからな・・・」


  渚はやれやれといった感じで首を振る。

  渚とのやりとりは、正直気が楽だ。

  一緒にいて落ち着けるのは美希だが、気軽に憎まれ口を叩けるのは渚の性格あっての事だろう。

  

  「ここから見たところ、奴等の数はそこまで多くは無さそうだが・・・」


  「そうですね・・・。でも、入って見ない事にはなんとも言えません・・・」


  町の様子を見て、悠介が呟く。

  悠介の左頬にはまだ手形のミミズ腫れが残っている。

  

  (悠介・・・その顔で真剣そうに言っても、カッコよく無いよ・・・)


  俺は、悠介を可哀想なものを見る目で見た。


  「誠治さん、俺の左頬を憐憫の目で見るのはやめてくださいよ・・・。折角痛みが引いて気にならなくなって来たのに・・・」


  「すまん・・・。いや、あまりにも見事な手形だなと思ってな・・・」


  ニヤケ顔で悠介に言うと、肩を落として項垂れている。

  悠介は美希に怒られた後、必死に彼女のご機嫌をとろうとしたが、奮闘虚しく相手にされなかった・・・。

  俺は悠介を不憫に思い、美希に悠介を許してやってくれと頼んだが、彼女は「兄さんにとっては良い勉強です!」と言っていた・・・。

  すでに怒ってはいない様だが、美希も素直になれていないらしい。


  (悠介・・・可哀想な子!!)


  俺は悠介を励ますため、彼の頭を少し乱暴にガシガシと撫でた。


  「ここに居ても埒があかない、そろそろ今日休む所を探そう・・・」


  俺は皆んなに言い、車に乗り込み町の中に入った。






  取り敢えず、今日休める場所を見つける事が出来た。

  ここ2日は消防団の詰所を拠点として利用していたが、今日は違う場所にした。


  「町の規模にしては、なかなか立派な交番だな!」


  俺達は、今日も消防団の詰所を探していたのだが、詰所が見つかるより早く交番を見つけた。

  この交番は、警察署と離れた場所にあるらしく、普通の交番より規模が大きい。

  渚は、その交番を見て感心している。


  「車庫にパトカーは無いな・・・。あったら無線機を調達出来たんだが・・・」


  「まぁ、仕方ないですよ・・・ここが見つかっただけでも十分です」


  俺の言葉を聞いて、美希は満足そうな顔で言った。


  「取り敢えず、中を確認しよう・・・。悠介と隆二君は車を車庫に入れといてくれ。俺と渚さん、慶次さんで中に奴等がいないか見てくる。美希と由紀子さんは、千枝ちゃんを見ながら、通りを見張っててくれ!」


  俺は武器を持ち、渚達と交番の中を見て回ったが、奴等はいなかった。

  交番の中には、当直用の仮眠室と休憩室、それとシャワールームがあった。

  昔聞いた事があるが、九州南部の交番にはシャワーがあったらしい。

  九州南部には活火山があり、よく噴火しては火山灰に悩まされると聞いた。


  「これなら、しばらくは大丈夫そうだな!無線機の調達や、車の窓にフィルムを貼る間はここに滞在しよう!」


  渚は嬉しそうだ。

  それはそうだ・・・ここにはシャワーがある。

  衝立で遮られていて、数は2つある。

  消防団の詰所には無かったので、沸かしたお湯で濡らしたタオルを使い、身体を拭いていたのだ。

  渚も女性だ・・・シャワーがあるのは嬉しいだろう。

  俺と慶次も渚の嬉しそうな笑顔を見て、笑って頷いた。


  (そう言えば、女性はいつだって綺麗で居たいって夏帆が言っていたな・・・)


  俺はふと夏帆に言われた言葉を思い出した。

  夏帆とのデートの最中、化粧をなおすためにお手洗いに行こうとした彼女に、必要ないのでは?と言うと、怒られたのを思い出した。


  「誠治さん、中は大丈夫でしたか?」


  俺達が交番の中を見ていると、美希が様子を見に来た。

  外は今、悠介と隆二が見てくれているらしい。

  

  「わあっ!ここにはシャワーがあるんですね!?」


  美希も嬉しそうだ。


  「美希、済まないが皆んなを呼んできてくれるか?今日はここで休む事にしたからさ!」


  「わかりました!由紀子さんも喜ぶと思います!」


  俺の言葉に、美希は明るく返事をし、皆んなを呼びに外に出て行った。






  「よし、皆んな集まったな?では、今日はここで休むが、先ずは入り口の扉をカーテンか布で塞ごう。ガラスだから、奴等に破られる可能性がある・・・。布で塞いだら、その後は板などで補給しておこうと思う」


  他のガラス窓には雨戸が付いているが、交番そのものの入り口には付いていない。

  外から丸見えになるのはマズい。

  

  「皆んな疲れているだろうけど、後少しだ・・・!ここにはシャワーもあるし、補強等が終わったら、先に女性陣からシャワーを浴びて貰い、その後俺達男が入ろう!」


  俺がシャワーの事を言うと、女性陣だけでなく、悠介や隆二も感嘆の声をあげた。


  「では、皆んな補強に必要な物が無いか、中と車庫を探そう!シャワーが済んだら夕飯だ!今日は皆んなお腹が空いてるだろうし、少しだけ贅沢にしよう!」


  俺の言葉に、皆んなは嬉しそうに頷き、2人組に分かれて資材の確認に向かった。






  「ふぅ・・・。やはりシャワーは落ち着くな・・・」


  「そうだな・・・。これで湯船があれば申し分無いんだが、贅沢はいっていられないからな・・・」


  俺は今、慶次と一緒にシャワーを浴びながら話をしている。

  シャワーを浴びるのは俺達が最後だ。

  女性は最初に渚と千枝、次に美希と由紀子が入った。

  千枝は美希と入るだろうと思っていたのだが、渚が「私が千枝ちゃんと入りたい!!」と固辞したのだ・・・。

  凄い気迫だった・・・。

  俺と美希は、昨日の事で心配を掛けてしまったのもあり、渚の気迫に折れて了承した。

  渚はそれはもう喜んだ。

  俺と美希は少し心配をしていたが、終始千枝の楽しそうな声が聞こえていたので、大丈夫だろうと安堵した。

  美希と由紀子も楽しそうに会話をしながら入っていた。

  ここを見つけられて本当に良かったと思う。


  「そう言えば・・・美希さんとは何かあったのか?」


  慶次が聞いてきた。


  「どうしてだ・・・?」


  俺は恐る恐る慶次に聞いた・・・。

  バレてしまったのか?と不安になった。

  出来れば、彼等には黙っておきたかったのだ。

  悠介には伝える義務があった・・・。

  だが、昨日心配して寝不足になってまで待っていてくれた彼等に、美希と関係を持ったと知られたら、士気に関わる・・・。

  あと、千枝にも黙っておこうと美希と悠介には言っている。

  千枝は喜んでくれる確信はある。

  だが、千枝の口から彼等にバレる可能性もある・・・。

  そして何よりも、もし俺か美希が死んでしまった場合、千枝に悲しい思いをさせてしまうからだ・・・。

  新しく、ちゃんとした家族に成れると期待させて、それが駄目になった時の千枝の悲しみは如何許りだろうか・・・。

  そう思うと、千枝には伝えられなかった。


  「いや、呼び方が変わっていたので気になった・・・」


  「特に何かあった訳じゃないよ・・・。彼女は今回の事で、俺を支えてくれた・・・。子供扱いは彼女に失礼になるって思ったんだ。それに、彼女にせがまれたんだよ・・・。兄さんだけ呼び捨てなのはズルいです!だってさ・・・」


  俺が慶次に説明すると、頬を膨らませてせがむ美希を想像したのか、噛み殺したような小さな笑い声が聞こえた。


  「そうか、俺はてっきり美希さんを抱いたかと思ってたんだがな・・・俺の予想は外れたか・・・。誠治さんも気付いているだろうが、美希さんはあんたに惚れている・・・他の皆んなも彼女の思いに気付いている。もし彼女が告白してきたら、彼女の期待に応えてやるのも良いんじゃないか・・・?俺達は、もしそうなったら祝福するよ。まぁ、亡くなった恋人に後ろめたい気持ちもあるだろうが、いつ迄もそんな訳にはいかないだろうからな・・・」


  俺は慶次の言葉にドキッとした。


  (ごめんよ慶次・・・昨日と今朝で、4回は致してしまったんだ・・・!)


  俺は慶次に心の中で謝罪した。


  「まぁ、責任感の強いあんたの事だ。そうなるとしても、無事に九州に帰り着いてからだろうがな」


  慶次は、沈黙している俺をフォローするように続けた・・・。

  慶次の気遣いが俺の良心を抉ってくる。

  

  「あぁ・・・解ったよ・・・」


  俺は声を絞り出し、それだけを言った・・・。

  慶次が頷いた気がした。

  俺は、ほとんど気を休める事が出来ないまま、シャワールームを後にした。






  




  

  

  

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