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The End of The World   作者: コロタン
42/88

第41話 夏帆の夢

  俺はその夜夢を見た・・・。

  天井も壁も床も無い、ただ真っ白な空間だった・・・。

  光で満たされている訳ではない。

  下を向くと、自分の身体ははっきりと見える。

  俺は自分の身体が見えるのを確認し、前を見た・・・先程までは誰も居なかったのに、そこには1人の女性が立っていた・・・。

  黒く長い美しい髪を持った細身の女性だ。


  「夏帆・・・」


  俺の前に立っているのは、夏帆だった・・・。

  彼女は、死んだ時と同じ様に微笑み、俺の事を見つめている・・・。

  彼女の着ている服は、別れの際に俺が着替えさせたものだ。

  だが、目の前にいる彼女は、あの痛々しかった喉の傷が綺麗になくなっている。


  「夏帆・・・ごめんな・・・君を愛し続けるとか言ってたのに、他の女性の事も、君と同じくらい好きになってしまった・・・。軽蔑するよな・・・?」


  俺は彼女に呟いた・・・。

  彼女は困ったような顔をしている。

  だが何も言ってこない・・・ただ、俺の話を聞いている。

  正直、罵られた方が良かった・・・。


  「それに、人も殺したんだ・・・。しかも5人だ・・・。君からは優しい人って言われてたのに、そいつらを殺す時、何も感じなかったんだ・・・。でも、その子は、それでも良いって言ってくれた・・・好きだって言ってくれた・・・一緒に背負って生きてくれると言ってくれたんだ・・・!」


  やはり、彼女は何も言ってこない・・・だが、今はまた微笑んでいる・・・。

  俺は、しばらく沈黙して彼女を眺めた。

  すると、周囲の明るさが増し、彼女の姿が霞み始めた。

  目が覚めてしまうのかもしれない。


  「もう目が覚めるみたいだ・・・。まだ沢山聞いて欲しい事があるけど、今日は無理みたいだ・・・。久しぶりに君を見れて嬉しかったよ。次はいつ会えるかわからないけど、また今度会う時は、君の声を聞かせてくれないか?」


  俺が言い終わると、その空間が眩い光に包まれた。


  『貴方を好きになってくれた女の子を、大切にしてあげてね』


  夏帆の声が聞こえた気がした・・・。





  俺はベッドの上で飛び起きた。

  頰が濡れている。

  泣いていたようだ・・・。


  「夏帆・・・」


  俺がそう呟くと、右手に柔らかく、暖かい感触があるのに気付いた。

  右を見ると、生まれたままの姿の美希が寝ている。

  昨夜、俺は互いを求めるように美希を抱いた。

  その直後に夏帆の夢を見た・・・罪悪感が半端無い・・・。


  「んっ・・・。誠治さん、おはようございます・・・」


  俺が頭を抱えていると、美希が起きて挨拶をしてきた。

  美希は、自分の姿を見て、居住まいを正している。


  「あの・・・昨夜はありがとうございました・・・。私の我儘を聞いてくれて、嬉しかったです・・・」


  美希は顔を赤らめながら言ってきた。


  「いや、俺も嬉しかったよ・・・。俺を受け入れてくれてありがとう」


  俺は美希にお礼を言い、彼女の髪を撫でた。


  「そう言えば、寝ている時に、夏帆さんの夢を見ました・・・。夏帆さんは何も喋らなかったけど、私の話をずっと笑顔で聞いてくれました・・・。最後、私の目が覚める直前に、一言だけ『誠治さんを支えてあげてね』って言って消えてしまいました・・・。夏帆さんの家で見た、アルバムから抜け出して来たような優しい人でした・・・」


  同じタイミングで夏帆の夢を見た・・・偶然だろうか・・・。

  もしかすると、俺と美希の事を認めてくれたのかもしれない・・・そう思うのは、あまりにも都合の良い話だろうか?


  「そうか、彼女は笑顔だったか・・・。そう言えば、挨拶を返してなかったね・・・美希ちゃん、おはよう」


  俺は、改めて朝の挨拶をした。

  だが、美希は不機嫌そうにしている・・・。


  (何か気に障る事でもしたか?)


  「美希・・・。美希ちゃんじゃなくて、私の事も呼び捨てにしてください!ずっと思ってたんですけど、兄さんだけ呼び捨てなのはズルいです!」


  「美希・・・おはよう」


  俺は、彼女の剣幕に狼狽し、改めて言った。

  すると、美希は満足そうに笑い、キスをしてきてくれた。

  俺は、美希を抱き寄せ、しばしお互いの温もりを確かめあった・・・。


  「誠治さん・・・台無しです・・・」


  すると、美希が俺の下腹部を見て、ジト目で言ってきた・・・。

  俺の下腹部がおはようと言っている・・・。


  「すまない・・・これは男である証なんだ・・・。朝は、男は無意識にこうなるんだ・・・!」


  俺が言い訳をすると、美希は小さく笑って俺の耳元で囁いてきた・・・。


  「誠治さんがしたいなら、私は構いませんよ・・・?」


  彼女の甘い囁きに、俺の理性は見事に吹っ飛んだ・・・。

  俺はそのまま彼女を押し倒し、再度彼女を抱いた。

  外はまだ暗い。

  ここを出るまではまだだいぶ時間がある。






  俺は、美希との情事の後、服を着て軽めの朝食を済ませた。

  時計は8時半を過ぎている。


  「さて、そろそろ行こうか・・・」


  俺は外を確認し、階段のバリケードを静かに取り払い、美希に言った。

  彼女は無言で頷き、俺の後に続いた。


  「美希、ここで待っててくれ・・・車を取ってくる。この階段に居れば安全だから、動かないでくれ」


  そう彼女に指示し、車を取りに行った。

  

  「お待たせ、車は無事だったよ!」


  俺は車を取って彼女の元に戻り、周囲を警戒しながら彼女が降りてくるのを待った。


  「ここからどうやって戻りますか?」


  「まず、このまま住宅地を抜けて農道に出る。そして、中心部を迂回しながら詰所に戻ろう・・・。順調に行けば、2時間位で着くはずだ」


  昼前には詰所に着かないとマズい。

  昨日、渚達に昼過ぎまでに戻らなければ、探しに来てくれと言ってしまった。

  彼女達が帰り着いて皆んなにその事を伝えていた場合、俺達が帰るのが遅くなってしまえば、彼等が捜索に出てしまう。

  そしたら、奴等の集団に囲まれてしまう可能性が高い・・・。


  「渚さん達が向こうを出る前に帰り着く必要がある・・・。少しスピードを出すけど、事故には気をつけるよ」


  「わかりました・・・早く戻って安心させてあげましょう!」


  美希の言葉を聞き、俺はアクセルを踏み込んだ。





  10時過ぎ、俺と美希は詰所の前に着いた。

  車庫のシャッターは閉まっていて、中に車があるかは判らない・・・。


      ガン!  ガン!  ガン!


  「誰か居るか!?誠治だ!!」


  俺はシャッターを叩き、中に向かって叫んだ。


  「誠治さん!?今開けます!!」


  悠介の声だ。

  俺達を待ってくれていたようだ。


  「美希!誠治さん!無事で良かった・・。!!」


  悠介は涙を浮かべて抱きついてきた。

  車庫には、渚達のSUVもある。

  無事に帰り着いていたようだ。


  「誠治さん!無事に戻ったか!!?」


  渚達が2階から走って降りて来た。

  心配で眠れなかったのか、目の下にクマが出来ている。

  渚達の後ろに千枝の姿が見える。

  目が赤い・・・泣いていたのだろう。


  「千枝ちゃん、心配掛けてごめんな・・・」


  「千枝、ごめんね・・・会いたかったよ・・・!」


  千枝は、俺と美希に走り寄り、抱きついてきた。


  「お姉ちゃんとおじちゃんのバカ・・・!心配だったんだから・・・!」


  俺と美希は、泣きじゃくる千枝を抱きしめ、何度も謝った。


  「皆んなにも迷惑を掛けてすまなかった・・・。待っていてくれてありがとう!」


  俺は、千枝を慰めながら、皆んなに謝罪した。


  「こうして無事に戻って来てくれたんだ・・・だから、謝らないでくれ!」


  「俺達は昨夜帰り着いたんですが・・・誠治さん達が帰って来てなくて心配したんですよ?」


  渚と隆二が俺の肩を叩いて鼻をすする。

  慶次と由紀子も、2人の後ろで、安心したように笑っている。


  「誠治さん・・・美希を・・・妹を無事に連れて帰ってくれて、ありがとうございます・・・!」


  最後に悠介がお礼を言って来た。


  「いや、俺の方こそ美希を危険な目に合わせてしまってすまない・・・。今後は気をつけるよ・・・」


  俺は、涙を流す悠介に頭を下げて謝った。

  

  「お姉ちゃん、おじちゃん・・・お帰りなさい・・・!」


  千枝が、涙で濡れた顔ではにかんだ笑顔をつくり、俺と美希を迎えてくれた・・・。


  「あぁ、ただいま!」


  俺と美希は皆んなに言い、詰所の中に入った。

  帰る場所と、迎えてくれる人が居るのは幸せな事だとしみじみと思った。

  

  

  

  


  

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