第31話 海沿いの町
俺達は、山頂から約10分程で町の入り口まで着いた。
運良く山道では奴等に出くわさなかった。
「美希ちゃん、すまないが運転を代わってくれないか? 」
俺は近くに奴等がいない事を確認し、美希に頼んだ。
美希は自動車免許は持っているが、ペーパードライバーだと言っていた。
なぜそんな美希に運転を頼んだかと言うと、俺が先を歩きながら、曲がり角などの安全を確認する為だ。
角を曲がった先に奴等の集団とはち合わせるなんて事はごめんだ。
「曲がり角の前では停まってくれ。 俺が確認したら合図を出すから、それまで待っててくれ」
悠介と美希に指示し、俺は歩き出した。
山頂から確認した通り、奴等の数が少ない・・・。
夏帆の実家の近くよりは多いが、それでも1人で処理し切れる数だ・・・。
俺は町の中を一通り歩きながら奴等を倒して行った。
時間は昼過ぎ、今日休む場所を探さないと暗くなりそうだ・・・。
俺は奴等を処理しつつ周りの建物を物色した。
しばらく歩いていると、丁度良い建物が目に入った。
「悠介、美希ちゃん、今日はあそこの消防団の詰所で休もう。 中を確認してくるから、ここで待っててくれ」
その詰所は、2階建の建物で、1階部分が車庫になっている。
車庫には小型の消防車両が3台停まっている。
俺は2人に指示して、奴等がいないか詰所の中を確認した。
奴等は、車庫に1体と2階の待機室に1体いたが、音を立てないように後ろから近付き始末した。
「悠介! 中はもう大丈夫だ! 消防車両を退かすのを手伝ってくれ!」
俺はキーを探し出し、悠介と2人で消防車両を移動させ、自分達の車を車庫に入れてシャッターを閉めた。
「ここならゆっくりと休めそうだな! 2階の待機室なら畳があるし、車で寝なくて済みそうだ」
俺は3人に笑顔で言った。
3人共、1人で歩きながら奴等を処理していた俺をかなり心配してくれていた。
まだ不安はあるが、少しでも安心させてやりたかった。
「幸先が良いですね! ここなら千枝をゆっくり休ませてあげられます!」
俺の笑顔を見て安心したのか、美希が喜びながら言った。
自分も辛いはずなのに、小さい妹を常に気にかけている・・・優しくて良い子だ。
「悠介、車から今日の分の食料を出しておいてくれ。 俺はその間外を見張る・・・少なからず音が出るから、奴等が来ないか念の為見ておく」
「わかりました、誠治さんもさっきので疲れてるだろうし、気をつけてくださいね」
俺は悠介に荷下ろしを頼み、裏の勝手口から外に出た。
悠介が荷下ろしをしている間、外は不気味な程静かだった・・・。
途中奴等が5体ほど来たが、まとまってはいなかったので、焦る事も無く処理出来た。
「静かすぎるな・・・美希ちゃんが幸先が良いと言っていたが、良すぎるのも不安になるな・・・」
俺は呟き、車庫に戻ろうとしたが、通りの奥から人影が近いて来るのを見つけ、持っていたクロスボウのスコープを覗き確認した。
「人間だ・・・!」
男1人女2人で、それぞれ鉄パイプやナイフを持っている。
3人組は、襲って来る奴等を手際良く連携して倒しながら、俺の方に近付いて来る。
俺は、自分の後ろの通りに奴等がいない事を確認し、3人組が20m程の距離に来たのを見計らい話しかけた。
「この町の生き残りか? 何をしに来た・・・?」
俺は、クロスボウを構えながら3人組に言った・・・。
「無理だとは思うが、そう警戒しないで貰えないか? 決して貴方達に危害を加えるつもりはないんだ・・・」
先頭を歩いていた女が俺の質問に答えた。
背が高く細身ではあるが、立ち居振る舞いは毅然としている。
歳は俺と同じ位か少し下のように見える。
「なら、何の用だ・・・」
俺はクロスボウの狙いを外さずにもう一度問いかけた。
「貴方達が町の外から来るのを見つけ、悪いとは思ったが後をつけさせて貰った・・・だが、さっきも言った通り、危害を加えるつもりじゃない! ただ、情報が欲しいんだ!」
俺はその女の言葉を聞き、彼等の後ろに向けて矢を放った。
彼等の後ろに奴等が1体近付いていたのだ。
彼等は奴等に気付いていなかったらしく、俺がクロスボウを射った瞬間身構えた。
言わなかったのは悪いが、周りを見ていなかった彼等も悪い・・・。
「わかった・・・今倒した奴で最後みたいだ・・・しばらくそこで待っててくれ! 仲間に話して来る!」
「助けて戴いて感謝する! わかった! ここで待たせてもらうが、出来れば早めにお願いしたい!」
俺は女の言葉を聞き、詰所に入って悠介と美希と話し、彼等を中に招き入れた。
「いきなりの訪問で申し訳ない・・・私は御門 渚、後ろの2人は伊達 隆二と南 由紀子だ・・・何か情報を持っていないかと思い、失礼を承知で伺った」
おそらく、先頭に居たこの女性がリーダーなのだろう。
彼女は、自己紹介と訪問の内容を簡潔に、なおかつ理路整然と話した。
「こちらこそ先程はすまなかった・・・こんな状況とは言え、クロスボウで君達を狙っていた。 俺は井沢 誠治、後ろにいるのが進藤 悠介、向こうに座っているのは、その妹の美希と千枝だ」
悠介は俺の斜め後ろ、美希と千枝はさらにその後ろにいる。
何かあった時に守れるようにする為だ。
「そちらには子供もいるようだし、警戒して当然だ・・・それに、先程は貴方が奴を仕留めなければ、由紀子が襲われていた・・・本当に感謝している」
渚は千枝を見て微笑み掛けた後、俺に頭を下げて礼を言った。
「いや、注意してから射つべきだった・・・いらぬ誤解を与えたようだったし、申し訳なく思う・・・。 それはそうと、情報が欲しいと言っていたが、俺達が知る情報が君達に有益かどうかはわからない・・・それでも良いか? それと、俺もこの町について聞きたい事がある・・・」
「あぁ、それでも構わない。 なにせ、私達は騒動の当日から今まで、この町に籠っていたから、外の状況がわからないんだ・・・色々教えて貰えると助かる。 この町については色々と教えられると思うから、何でも聞いてくれ」
渚達は、俺の言葉に明るい表情を見せ、承諾してくれた。
「まず、こちから聞いても良いか?」
「あぁ、頼んだのは私達だ。 先にそちらからの質問に答えるのが筋だろう・・・」
「ありがとう・・・俺達は、この町に入る前に、山頂から双眼鏡で町の様子を見たんだが、町の規模に対して奴等が少なすぎる・・・最初は見えない位置に集まってるのかとも思ったが、歩きながら探っても奴等が少なかった・・・何故なんだ?」
俺はこの町に対してずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「それは・・・」
渚の表情が暗く沈む・・・。
「何か理由があるんだろうが、それがこの町で一番知りたい情報だ」
俺は渚に言って答えを促した。
「・・・わかった。 胸糞悪くなる話だが構わないか・・・?」
渚は、暗い表情のまま語り出した・・・。




