第18話 引っ越し
俺は、彼等の前でひとしきり泣いた。
悠介と美希は、俺が涙を流すのを黙って見て、待っていてくれた・・・。
「おじちゃん、大丈夫?」
千枝は俺の頭をずっと撫で慰めてくれていた。
彼等は、人を殺した俺を怖がった・・・だが、それを恥じ、俺の力になりたいと言ってくれた・・・支えたいと言ってくれた・・・。
俺の中で、彼等は守るべき対象だった・・・だが、今は違う・・・彼等は仲間だ。
苦楽を共にする仲間になれたのだ。
だからだろうか?彼等に涙を見せるのを恥ずかしいとは思わなかった・・・。
「すまない・・・時間をとらせた」
「良いんですよ! 考えてみれば、誠治さんに会ってから、俺等は泣いてばかりでしたからね・・・。 誠治さんの涙を見れて嬉しいですよ! 仲間として認められたんだなって思いますよ!」
謝る俺に悠介がそう言ってはにかんだ。
「よし! 気を取り直して、車と物資の確認をするか!」
「ですね! ちゃっちゃと済ませましょう!」
俺の言葉に悠介が賛同し、美希が頷いた。
俺達はワンボックスカーのリアハッチを開けて動きが止まった・・・。
そこには、俺が予想していた以上の量の物資が所狭しと詰め込まれていた・・・。
「誠治さん・・・もしかして、これ1人で集めたんですか? あんな短時間で・・・」
悠介が唖然として俺に問いかける。
「いや・・・流石に俺1人じゃこの量は・・・」
俺も困惑していた・・・。
(おいおい、いくら色つけとくって言っても限度があるだろう・・・ありがたいが、申し訳ないな・・・)
俺は心の中で、あのグループにリーダー格の男に感謝した。
「これは、今朝出会ったグループのリーダーに分けて貰ったんだ・・・」
俺は、2人に今朝の事を全て話した。
「なんか、申し訳ないですね・・・その人達にも必要な物だったはずなのに・・・」
美希は俺の話を聞き、そのグループの事を気にかける。
「まぁ、君等の話を聞いたからこそ、これだけの物資を分けてくれたんだ。 好意はありがたく受け取っておこう! また会う機会があったら、その時にでもお礼をすれば良いさ!」
俺は美希に言い、物資の確認作業を始めた。
俺達はしばらく作業を続けていたが、分けて貰った食料の多さに驚いた。
今俺が蓄えている食料は、レトルト食品や缶詰ばかりだ。 それを1日3回食べたとして、4人で1ヶ月半は生きていける量だ。
だが、今回貰った食料はその倍はある。
合わせると5ヶ月近くは大丈夫だ・・・感謝してもしきれない。
もし、道中さらに仲間が増えても、余裕がありそうだ。
「おじちゃん!お菓子がいっぱいあるよ!?」
箱の中を見た千枝が歓喜の声をあげている。
「千枝ちゃんの話をしたら、優しいおじさん達が分けてくれたんだ。 今度会ったらお礼を言おうね」
「うん!」
俺が千枝の頭を撫でながら言うと、千枝は元気に頷いた。
物資の中には、4人部の毛布と替えの下着や衣類なども入っていた。今後、彼等に足を向けて寝られない・・・。
「確認はあらかた終わったな・・・さて、これからどうするか・・・」
俺は一人呟いた。
「そうですね・・・今は3時過ぎですけど、どうします? もう一泊しますか?」
俺の呟きを聞いていた悠介が聞き返してきた。
「そうだな・・・俺としては、此処を離れたい。 もし、さっきの奴等に仲間がいて、此処を知っていたのなら、また襲撃してくるかもしれない」
俺は悠介に告げた。
「確かにそうですね・・・でも、どうします? 今から移動して探すとなると、暗くなるかもしれませんよ?」
「それについては当てがない事もない・・・此処からなら、車で30分位の距離だ・・・拠点とするなら、申し分無いはずだ・・・」
聞き返してきた悠介に俺は言った・・・だが、正直気が進まない・・・。
俺は、そこに行くのを避けていたのだ。
「本当ですか!? なら、今から行きましょう!!」
美希が顔を輝かせて言ってきた・・・。
「どうしました?」
迷いが顔に出てたのだろう、美希が俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、まぁ・・・なんと言うか・・・その場所は、夏帆の・・・死んだ彼女の実家なんだ・・・」
「あぁ・・・それは、行くか迷いますね・・・」
美希と悠介が俺が悩んでいた理由を知り、居た堪れなさそうにしている。
「・・・それなら、やめときましょうか! 無理して行っても辛いだけですしね!」
美希が慰めるように言って来た。
実際、夏帆の実家は、拠点とするには良い物件だ。
高い塀があり、門の造りが頑丈で、家屋にガレージが併設されているので、何かあったらすぐに脱出出来る。
彼等の事を考えると、其処は良い条件が揃っている。
「いや・・・行こう!」
俺は決心して彼等に告げた。
「・・・判りました。 もし、気が変わったら、いつでも言って下さいね!」
美希が俺を気にかけ言ってくれた。
俺達は、素早く準備を済ませ、世話になったガレージを後にした。




