第17話 畏怖
俺はさっきの出来事を思い出しながら車を走らせていた。
「何と言うか・・・警戒しすぎてどっと疲れたな・・・」
大量の奴等の死体は確かにあのグループの仕業だった・・・危険な奴等かと疑ったが、実際は違った・・・。
「俺の疑い過ぎかな・・・」
(実はまだまだこの世は捨てたものじゃないのかもしれない・・・)
俺はそう思いながら車を走らせ、ガレージに向かう最後の角を曲がって車を急停止した・・・。
「何だあいつ等・・・」
俺は、ガレージの前に数人の人影が見えたので、持って来ていた双眼鏡を覗き込む。
「奴等がまた襲ってきたのか?」
俺はそう思い確認したが、奴等ではなかった・・・人間の男が3人いた。 だが、そいつ等の手にはナイフやクロスボウが握られている。
そして、シャッターを蹴りながら叫んでいるのだ・・・。
そのうち一人が裏口に回った。
「あいつ等・・・!」
俺はその男達が敵であると認識し、車を急発進させ、そいつ等に突っ込んだ。
「危ねぇ!?」
「てめぇ! 何しやがる!? この中の奴等の仲間か!!?」
そいつ等は車に気付き、寸での所で避けたが、クロスボウを持っていた男はそれを落としていた・・・。
俺は即座に車から降り、落としたクロスボウを取ろうとしている男を射ち殺した。
「ひっ・・・!?」
もう一人の男は、俺が躊躇なく殺したのを見て短い悲鳴を上げる。
「た・・・頼む・・・! 殺さないでくれ・・・! 俺達が悪かった・・・!」
男は失禁し、命乞いをしてきた・・・。
だが、俺は止まらない・・・。
俺は完全にキレていた。
「殺されたくないのなら、最初からこんな事するんじゃねーよ・・・」
俺は一言だけ言い、男の頭にマチェットを叩きつけた。
「おい! お前等どうした!? くそっ・・・!てめぇ等離しやがれ!!」
俺が裏口に回ると、男がドアに腕を挟まれ動けなくなっている。
悠介と美希の声と、千枝の泣き声が聞こえる。
「てめぇ、誰だ! 表の奴等はどうした!!?」
男が聞いて来るが無視する。
「おい・・・ちょっと待て! 待ってくれ!!」
俺は男にマチェットを振り下ろし、殺した。
「俺の仲間に手を出そうとするからこうなるんだよ・・・」
死んだ男に小さく呟き、俺は外から悠介達に声をかける。
「おい、俺だ! 誠治だ!お前等大丈夫か!!?」
中から声が近づいてくる。
美希だ。
「誠治さん、良かった!!」
美希が目に涙を浮かべながらドアを開けた。
「え・・・何これ・・・? 誠治さん・・・この人達・・・死んでるの?」
美希が裏口の外で血を流して倒れている男を見て、顔を青ざめている・・・。
「美希、誠治さんが帰って来たんじゃないのか!?」
美希の後ろから悠介が歩いてくる。
千枝は来ない・・・あまりの恐怖に動けないのだろう・・・すすり泣く声だけが聞こえる。
「誠治さん、おかえりなさい! すみません、外の奴等、今朝誠治さんがここから出て行くのを見て襲って来たみたいで・・・誠治さん・・・そいつ・・・まさか誠治さんが・・・?」
悠介は男の死体を見て、動揺したように俺の顔を見て来た。
「あぁ・・・俺がやった・・・」
「嘘っ・・・」
正直に言った俺に、美希が小さく呟く・・・。
「お前等、大丈夫か? 怪我はないか・・・?」
俺は声を掛けながら手を伸ばし近寄ったが、美希は後ずさり、俺の手を拒んだ・・・。
「そうか・・・すまない・・・俺、怖いよな・・・」
俺は手を下ろし、俯いた・・・。
俺は、通りにある死体を片付け、ガレージに車を入れた。
その間、誰も言葉を発しなかった。
「俺な・・・人を殺したの初めてじゃないんだ・・・。 トランクに銃があっただろ? あれを取りに警察署に行ったんだ・・・その時に1人殺してるんだ・・・警察署から出て来た俺を襲って来て、そいつを拳銃で撃って、見捨てた・・・それについて何も感じなかったんだ・・・罪悪感とか、後悔とか何も・・・」
俺は、重たい空気の中、沈黙を破り話し始めた・・・。
「俺・・・昨夜、君達に一緒に来て欲しいって言っただろ・・・? 君達を守りたいっていうのもあったけど、君達と一緒なら、俺は壊れなくて済む・・・今までの俺のままでいられるんじゃないかって思ったんだ・・・でも、さっきの奴等を見て、俺は殺意が抑えられなかった・・・殺しても、死んで当然って思った・・・」
俺はゆっくりと話した。
「誠治さん! すんませんでした!!」
俺が話していると、悠介が急に謝って来た。
「さっきは、俺がどうにかしないといけなかったのに・・・妹達を守らないといけなかったのに! 俺が何も出来なかったせいで・・・」
美希は、沈黙したまま、いまだに震えている千枝をなだめている。
「いや・・・出来なくて当然だ・・・人を殺すなんて、出来なくて良いんだよ・・・」
俺は、俯き、拳を握り震えている悠介に諭した・・・。
「でも・・・! 俺達は昨日から、誠治さんに助けて貰ってばっかりで・・・車や食料まで用意して貰って・・・さっきも、人を殺してまで俺達を守ってくれた・・・! それなのに、怖くなっちまった・・・怖がっちまった・・・」
悠介の声が震えている・・・彼は泣いていた。
「俺が弱いばっかりに、誠治さんに辛い思いさせて・・・その上傷つけちまって・・・」
「お前は強いよ・・・もしお前が弱かったら、妹達を守って此処まで辿り着けなかっただろ?」
俺は悠介を慰める。
「違う・・・違うんですよ・・・! 俺は・・・あんたも守れるようになりたいんだよ・・・! あんたに助けられてばっかりじゃなくて、俺もあんたを守りたいんだ・・・!」
俺は言葉が出なかった・・・俺は、彼なら人を殺した俺から妹達を守るため、ここを去るだろうと、そう思っていた・・・。
「俺はまだ、あんたに何も返しちゃいない・・・だから、強くなりたい・・・」
「私も・・・強くなりたいです・・・」
悠介の言葉に、美希も頷き言った。
「私達は誠治さんに比べて、覚悟も経験も半人前かもしれないけど・・・2人なら誠治さんを支えられるかもしれない・・・そうなれるように強くなりたいです・・・誠治さんにばっかり辛い思いをさせたくないから・・・」
美希は顔を上げている。
その顔には、決意がこもっている。
「私も、おじちゃんのために頑張る!」
千枝も泣き腫れた瞳で俺を見つめて言ってくれた・・・。
「ありがとう・・・」
俺は彼等に感謝の言葉を呟いた。
俺は初めて彼等に涙をみせた・・・。




