表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The End of The World   作者: コロタン
17/88

第16話 取り引き

  俺はガレージを出て大通りに向かった。

  ガレージ周辺にはめぼしい車が無いのは確認済みだからだ。

  大通りは奴等に遭遇する可能性が高いが、道幅が広く見通しが良いため、狭い住宅地よりは囲まれる危険性は少ない。

  集団と出会ったら最悪だが・・・。

  大通りに来るまで奴等を4体ほど倒したが、数が増えてる感じは無いので、恐らくは大型商業施設に密集しているのだろう。


  「さて、どんな車が良いか・・・」


  俺は彼等を乗せるための車を物色する。


  「3人で乗ってもらうなら、ある程度広い方が良いかな?」


  今使用しているガレージの様な場所に拠点を置くなら、車中泊になる。

  車の中で3人寝るならワンボックス辺りが良いかもしれない。 ワンボックスなら、セカンドシートを前まで移動させ、背もたれを倒せば3人が川の字で寝られる。


  「あれなんかどうかな? キーがあれば目的達成なんだけどな・・・」


  俺は見つけた車の中を見て、奴等がいない事を確認しドアノブを引く。


  「やっぱり、そう簡単にはいかないか・・・」


  案の定鍵がかかっていた。

  

  「まぁ、昼まではまだまだ時間があるし気長に探すか」


  俺は気持ちを切り替え車探しを再開した。







  「なんだこれは・・・」


  俺がしばらく大通りを歩いていると、開けた場所に出た。

  そこには大量の奴等の死体が転がっていた。


  「40体位はあるぞ・・・。 これだけの数を相手にするとなると、相当数の人が必要だぞ・・・」


  死体を見ると、頭を割られ脳が飛び出しているものや、明らかに矢で射られたものもある。


  「ヤバいな・・・もしこれをやった奴等が、警察署で俺を狙ってきた奴と同類なら、早いところこの街を出ないと、悠介達も危なくなるな・・・」


  俺一人なら諦めもつくが、彼等を危険には晒せない・・・。

  彼等とは昨日会ったばかりだが、俺は彼等が好きなのだ。

  お互いを思いやる彼等を見ていると、何がなんでも彼等を助けたい・・・彼等を見届けたいと思うと同時に、俺自身も生きなければと思うのだ。 彼等を守るために。

  

  「早いところ車を探して街を出ないといけないかも知れないな・・・」


  それから1時間程探し回り、希望に合う車を見つけた。

  ワンボックスのハイブリッド車だ。

  ハンドルに血が付いているが、拭けば良いだろう。


  「キーは・・・よし! あった!!」


  俺は歓喜し、車のエンジンを掛けた。


  「よう、フルフェイスの兄ちゃん」


  車の前に3人の男が立ち塞がった。

  周りを見ると、他にも5人程が車を囲むように近づいてくる・・・。


  俺はエンジンを切り、車から降りた。


  「何か用か・・・?」


  俺は焦る気持ちを抑え、冷静を装って男達に問いかけた。


  「それは俺達の車だ・・・勝手に持って行って貰っちゃあ困るな」


  一人の男が他の男達を制止して話し掛けてくる。 彼等のリーダー格だろう。


  「そうか、そいつは済まない。 車が要り用だったんでな・・・だが、気になる事がある・・・この車の運転席には血が付いているが、あんた等は怪我をしていないように見えるが・・・本当にあんた等の車か?」


  俺は周りの男達を見た後、リーダー格の男に話し掛ける。


  「ふっ・・・よく見てるじゃねーか。 まぁ、これ以上あんたに嘘を言っても意味無さそうだから正直に言うが、確かにそれは俺達の車じゃあ無い・・・俺達も車が要り用でな。 他にも有るにはあるが、この状況だ・・・あって困るって事は無いだろう?」


  「確かにな・・・だが、先にこの車に乗ったのは俺だ・・・あんた等は他にも車が有るなら、これは俺の物で良いだろう? それとも、俺を殺して奪うか・・・?」


  俺はリーダー格の男に問いかけ、クロスボウに手を掛ける。

  周囲の男達がそれを見て、各々の武器を構えるが、リーダー格の男は仲間に両手で待つように指示した。


  「物騒な事を言うなよ兄ちゃん・・・別にあんたと殺し合いをしたい訳じゃ無いんだからよ・・・此処でやり合ったら、こっちにも被害が出ちまう。 俺としては、それは避けてーんだ・・・だから、話し合いで解決しねーか?」


  男が提案してくる。


  (この状況で話し合いなんて、罠としか思えないが、今は従っておこう・・・)


  「わかった・・・俺としてもその方が助かる」


  「おぉ、案外話がわかるじゃねーか! 」


  俺が承諾すると、男は安堵したような表情をした。

  

  (もしかして、俺が思ってるような奴とは違うのか? いや・・・俺を油断させる罠かもしれない・・・)


  俺は逡巡する。


  「ところで、あんたは一人かい? 」


  男が俺に聞いてきた。


  「・・・あぁ、一人だ・・・」


  俺は悠介達の事は黙って答えた。


  「・・・へぇ。 ・・・あんたさえ良ければ、お仲間と一緒に俺達の所に来ねーか・・・? 何人いるかは知らねーが、うちには他にもいるから、1人や2人増えた所で問題ねーぞ? むしろ、助かるくらいだ・・・。 向こうにゾンビ供の死体が有っただろ? 昨日あいつ等とやり合った時に何人か死んじまってな・・・」


  嘘がバレていたようだ・・・粗野な見た目にそぐわず鋭いようだ・・・。


  「あんたは見た所、戦い慣れしてる感じだったからよ・・・俺としては来てもらえると助かる・・・その代わり、食い物と比較的安全な場所は提供出来るが・・・どうだ?」


  男は俺を勧誘してくる。


  (もしこの男の話が本当なら、悪い話じゃない・・・)


  「さっきは嘘を言って申し訳ない・・・仲間は他に3人いる・・・俺はそいつ等の為に車を探していた・・・」


  俺は男に謝罪した。

  恐らく、この男には嘘は通用しない・・・。

  なら、余計な疑いを持たれないようにしなければ、悠介達に危険が及ぶかもしれないと思った。


  「いや、構わねーよ! こうなった今じゃあ、何にでも疑ってかからなきゃ生きて行けねーからな! それより、どうだ? 仲間と一緒に俺達と来ねーか!?」


  俺の謝罪に気を良くしたのか、男は歯を見せて笑い、再度勧誘してきた。


  「いや・・・あんたの申し出は本当にありがたいが、俺達には行かなければいけない場所があるんだ・・・だから、あんたの誘いわ受けられない・・・」


  「そうか・・・それなら無理は言えねーな・・・。わかった! あんたを誘うのは諦めるよ!」


  ずいぶんと物分かりが良い・・・。


  「なぁ・・・あんたの仲間ってのはどんな奴等なんだい? 俺ん所はこいつ等以外に戦えるのが15人、女子供が20人くらいだ・・・昨日5人やられて少し減っちまったけどな・・・」


  「俺の所は3人兄妹がいるよ・・・俺はそいつ等を守りたい・・・だから、移動するのに車が必要だし、死ぬ訳にいかない・・・」


  俺は正直に話した。


  「そうか・・・何歳くらいなんだ?」


  男が聞き返す・・・。


  「兄が24歳、妹2人が20歳と8歳だ・・・」


  「そうか・・・子供が居るのか・・・そりゃあ守ってやらなきゃならねぇよな・・・」


  男がそう言って俯いている。


  「あんたにも子供が?」


  「あぁ・・・この騒動で死んじまったがな・・・。 あんたも誰か亡くしたのかい・・・?」


  男が俺に問いかける。


  「あぁ・・・恋人をな・・・奴等になって襲ってきたよ・・・」


  「そうかい、あんたは転化した恋人をちゃんと殺せたかい・・・?」


  「あぁ・・・簡単にだが、葬いはしてあげたよ・・・」


  男との会話が続く・・・周りの男達も、思うとこがあるのか、俯き黙っている。


  「あんたは強えなぁ・・・俺には無理だったよ・・・」


  男は遠くを見ながら呟いた。


  「長話して悪かったな・・・その車はあんたが持って行きな・・・ 」


  男は少し考えて言ってきた。


  「良いのか? 俺はあんた等にやれるような物はないぞ?」


  「そうだな・・・じゃあ、あんたが持ってる有益な情報があったら聞きたい・・・それでどうだ?」


  「わかった・・・それで頼む」


  俺は男の提案を受け入れ、情報を提供する事にした。


  「あんた等は、安全な場所があるのを知っているか? もし知らないなら、北海道・四国・九州に行く事を勧める・・・俺の実家は九州なんだが、騒動の起こった翌日に母から聞いた情報だから、信頼性は高い」


  「何だと!? それは本当か!!?」


  男達は知らなかったらしい。 俺の言葉に目を輝かせお互いを見やる。


  「あぁ。 あと、もし武器がまだ必要なら警察署の証拠品保管室に行くと良い。 武器保管庫は空かもしれないが、そっちなら銃器が手に入る可能性がある・・・他の奴等に取られてなければだが・・・」


  「そうか・・・警察署には行ったが、そっちは見てなかったな・・・どっちも貴重な情報だ! 生きた情報ほどありがてぇ物はねぇ! おい! 車の中から食い物をわけてやれ!菓子類も多めに入れといてやれ!」


  男は近くに居た仲間に指示を出した。


  「え!? いや、車だけで充分だ! 確かにありがたいが、あんた等にも必要だろ!?」


  俺は男の言葉に驚き聞き返した。


  「いや、あんたのくれた情報は、俺が考えてた以上に貴重な情報だった! 車と食い物で済むなら安いもんだ! それに、子供ってのは良いもんだ・・・しっかり食べさせて不自由しないようにしてやれよ!」


  男は俺に言い、肩を叩いてきた。

  俺は思いがけず車と食料を手に入れた・・・。

  あれこれ疑って悩んだのが馬鹿らしくなるくらいあっさりと手に入った・・・。



  男達が車に食料を積み込むと、リーダーの男が最後に俺に話し掛けてきた。


  「あんたは、仲間をしっかり守ってやれよ! もしまた会う事があったら、その時は酒でも呑もう!」


  男達は去って行った・・・。

  嵐のような出来事に俺はしばし呆然としたが、腕時計のアラームが鳴って我に返った。


  「・・・帰るか」


  俺は力なく呟き、車に乗って走り出した。

  


  

  

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ