第49話 1536年 6歳 武芸大会始めるぞ ⑥殺人教団
人を集めるとは、
才能だけを選ぶことではない。
小島弥太郎を拾った時もそうだった。
今回もまた、
「危うさ」を抱えた者が現れる。
国家を作るというのは、
綺麗事だけでは進まない。
次の試合を見に行く。
袈裟を着た坊主だ。
――やけに派手だな。
試合が始まった瞬間、空気が変わった。
坊主は、最初から相手を殺す気で攻めている。
容赦がない。
躊躇がない。
技も判断も鋭い。
そして何より――
殺意が異常に澄んでいる。
俺は即座に判断した。
俺
「……終わったら、あいつをスカウト小屋に連れて来い」
スカウト小屋。
坊主は静かに座っていた。
そこへ胤嵐が、俺の耳元で低く告げる。
胤嵐
「若様、この者は“殺人教団”の指導者ですぞ。
各地で指名手配。死刑を求刑されている国も複数あります。
引き渡すか、その場で処断すべきでしょう」
……なるほど。
あちこちで人を殺し、その都度逃げてきた。
そういう経歴だろう。
俺は坊主を見る。
俺
「お前は、殺人教団の教祖だと聞いた。本当か?」
坊主は深く一礼した。
空曹
「若様、お初にお目にかかります。
空教の教祖、空曹と申します」
空曹
「殺人と申されましても――
私どもが手を下したのは、
殺し、火付け、強姦、弱者を踏みにじった極悪人のみ」
空曹
「どうか、空教の布教をお許しください」
俺は黙って続きを促す。
空曹
「他の教えは、
“南無阿弥陀仏と唱えれば、どんな極悪人でも極楽浄土へ行ける”
と説きます」
空曹
「では――
弱者を救うために血を流した者と、
念仏だけ唱えた極悪人が、
同じ極楽へ行くのはおかしくありませんか」
空曹
「空教は、
極悪人を殺し、弱者を救い、己も救われる教えです」
……必殺仕置人と似た理屈だ。
俺は、転生前の知識を思い出す。
兵士は、
相手が明確な悪であれば引き金を引ける。
だが、相手が善人や、罪のない民であれば――
その記憶は、心に残り続ける。
俺は空曹を見る。
俺
「極悪人か否かの判定は、どうする?」
空曹
「空教の戒律により判断します」
俺
「――却下だ」
空気が凍る。
俺
「判断するのは、お前じゃない。
国だ」
俺
「俺、あるいは国が認めた殺し――
戦争に行く兵士、死刑執行人。
そこに限ってなら、布教を許可する」
俺
「それ以外の殺しは、一切認めない」
俺
「お前の経典に、
“国の許可を得た極悪人のみ対象”と明記しろ」
空曹は、初めて言葉に詰まった。
長い沈黙。
やがて――
空曹
「……承知しました」
空曹
「経典に、その一文を入れます」
そして、少し間を置いてから。
空曹
「若様。
もう一つお願いがございます」
空曹
「私には弟子が三十二人おります。
いずれも教えに従い、武芸全般を修めております」
空曹
「――入隊させて頂けますでしょうか」
俺
「こちらの試験を受けろ。
合格すれば入隊を認める」
俺
「布教は許す。
だが、強制はするな」
空曹
「……ありがとうございます」
空曹は深く頭を下げ、去っていった。
部屋に残った皆の顔は、同じだった。
――なんで、あんな奴を入れた。
まあ、そうなるよな。
俺
「皆に言っておく」
俺
「戦場では、
命乞いをしている相手を殺さなきゃならない場面がある」
俺
「殺さなければ、
今度は自分が殺される」
俺
「……それでも、人は罪悪感を背負う」
(心的外傷後ストレス障害――PTSDだ)
俺
「戻ってから壊れる。
戦場じゃなく、日常でだ」
俺
「空曹の理屈は危うい。
だが、兵士の心を守る道具にはなり得る」
俺
「制御はする。
逸脱すれば、俺が切る」
俺
「――とりあえず、やってみよう」
沈黙の後、
皆が小さく頷いた。
完全ではないが、
少しだけ――納得してくれたようだった。
今回は思想強めの回でした。
「危ない奴を入れるな」と思った方、
正常です。
それでも龍義は、
あえてその選択をしました。
この判断がどう転ぶか、
後で効いてきます。
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