第47話 1536年 6歳 武芸大会始めるぞ ④木登り大会 女盗賊
前回は弓の名手・黒田リンが登場。
今回はさらに一風変わった大会だ。
⑤ 木登り大会
城や砦に取り付いて攻撃する特殊部隊――
「黒子」の隊員募集として、木登り大会を開催した。
崖や石垣を想定し、登る木は
掴まる所がなく、つるつるで、しかも油塗りだ。
当然、参加者から不満が噴出する。
「こんなの、猿でも登れねぇぞ!」
――ごもっとも。
スカウト役は赤目滝と北爺だ。
北爺を黒子の隊長にする件については、すでに赤目滝の了承も得ている。
合格者は黒子内定である。
そんな中、十二歳ほどの少年が前に出た。
冷やかしかと思ったが――
次の瞬間、少年は木をするすると登っていく。
……天才だろ。
赤目滝も北爺も口には出さないが、明らかに驚いている。
俺はすぐに声をかけた。
俺
「名前は何と言う」
少年
「大谷明です」
俺
「よくあれが登れたな。何か訓練しているのか」
大谷
「僕は忍者になりたくて、毎日修行していました。
ですが伊賀や甲賀の里に生まれなければ忍者にはなれず……困っておりました」
――なるほど。
大谷は文句なしで黒子内定だ。
だが、これは黒子だけに収めるには惜しい逸材だ。
俺は赤目滝に言った。
俺
「大谷を赤目で修行させたらどうだろう」
赤目滝も頷く。
大谷の夢は、ここで叶った。
俺
「赤目の修行は厳しいぞ。覚悟しておけ」
大谷は嬉しそうに頷いた。
……まあ、本当に厳しいから、
天才でも泣くことになるだろうがな。
⑥ 女盗賊
そこへ、赤目滝が他の者から報告を受けていた。
「女盗賊が、この会場に紛れ込んだそうです。捕物から連絡が入りました」
覆面姿だという。
――覆面?
黒田リンか?
いや、あの身長百八十の体格で盗賊は無理だろ。
そう考えていると、北爺が俺を救護室へ案内した。
……怪我人だらけだ。
顔に包帯を巻いていれば、確かに覆面と変わらない。
視線の先で、
そそくさと立ち去ろうとする影があった。
先回りする北爺と赤目滝。
俺
「女盗賊は、お前だな」
包帯女は、大会で順番が来たら
しれっと参加するつもりだったのだろう。
俺たちは、その女をスカウト小屋へ連れて行った。
捕物から聞いた話では、
この女はヤクザの賭場から金を盗む専門らしい。
なぜヤクザか。
――盗まれても、お上に訴えないからだ。
捕まれば酷い目に遭うのも承知の上。
お上に捕まっても、ヤクザに捕まっても自害は同じ。
だったら面白い方がいい、という理屈らしい。
俺
「とりあえず、包帯を取れ。顔を見せろ」
女が包帯を外す。
……美人で、しかもナイスバディだ。
なるほど。
ヤクザが見とれている隙に盗まれるわけだ。
俺
「名前は」
女
「木杉付子です。
若様、捕物でもヤクザでも、どこへでも突き出して下さいな。
派手に自害しますので」
ただ一つ、気になった。
俺
「なぜ大会に出ようと思った」
木杉
「皆に認められる“一番”になりたかった。
若様、後生だから……試させておくれよ」
俺
「やってみろ」
木杉は、大谷ほどではないが、
油まみれの木をすいすい登っていった。
登り切った後、
――どう? 凄いでしょ、という顔だ。
俺は下りてきた木杉に言う。
俺
「木杉。俺に命を預けてみないか。
ヤクザの金を盗むより、厄介な仕事をやらせてやる」
木杉
「それは、どんな事ですか」
俺
「敵の城や砦に忍び込み、破壊する仕事だ」
木杉
「……面白そうです。若様、是非やらせて下さい」
木杉の入隊は決まった。
問題は――捕物への説明だ。
俺は安田に言った。
俺
「女盗賊には逃げられた、と伝えておけ」
しばらくして、捕物が戻ってきた。
捕物
「若様……本当に逃げたのですか?
安田様の顔を見ていると、目が泳いでおりまして」
……安田。
嘘が下手すぎるだろ。
俺
「逃げられた。すまん」
御駄賃を渡して、捕物を帰らせた。
赤目に頼めば良かったな。
木登り大会で、
黒子(城、砦専門攻撃部隊)の核となる人材が揃いました。
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