第45話 1536年 6歳 スカウト目的の武芸大会を始めるぞ。 ② 相撲大会
通常の募兵では、数も質も足りない。
ならば――才能を、戦場の外から掘り起こす。
武芸大会は、そのための“実験場”だ。
集まるのは、武士だけではない。
相撲といっても、
肥満体は強くても走れないのでスカウトしない。
相撲大会に行くと、早速水斗が言ってきた。
水斗
「若様、見てほしい人がいます」
試合を見る。
「あの背の大きい方です」
――戦国時代にもいたんだな、ヤンキー。
ヤンキー
「やんのかコラ!」
「殺すぞ!」
……決まり文句まで完璧だ。
弱くて
「今日はこれくらいにしといてやるよ」
と言ってくれたら拍手喝采だったが、そうはならなかった。
とてつもなく強い。
倒れた相手に、蹴りまで入れる外道っぷり。
面白い。
早速スカウト小屋に呼び出す。
話を聞くと、五兄弟。
ヤンキー兄弟
「俺たち、難しいことわかんねーんだよ」
俺
「だから簡単だ。
兵士になって敵を殺して、大金稼ぐ。
それだけだ」
ヤンキー兄弟
「あん?
この糞餓鬼、殺したってもいいんだぞ」
言い終わる前に、
水斗、安田、護衛の兵士総出で――
ボコボコ。
真田
「若様……彼らの噂は聞いてます。
口が悪く喧嘩ばかり。
村の嫌われ者です。
やめた方が……」
やはり戦国時代でもヤンキーは嫌われていたか。
俺は、転がっている五兄弟を見下ろす。
俺
「お前たち、俺の兵士になれ。
悪いようにはしない。
わかったな」
ヤンキー兄弟
「ハイ」
……素直だな。
名前を聞く。
長男は井口剣一。
以下、剣二、剣三、剣四、剣五。
俺
「……親、手抜いたな」
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次に目に入ったのは、
とてつもなく強い、変な奴だ。
審判
「始め!」
男
「始めません!」
……言いながら、普通に始めている。
声援を送る奴がいる。
声
「だから喋らなければいいんだよ!
それで試合は進むんだから!」
ツッコミだな。
よく見ると、
ツッコミの方も――強い。
スカウトさせる。
高井
「僕が高井輪です。
こっちの変な方が浜本将です」
口説き人
「なんで?」
高井
「二人合わせて、
まさに、たかいわです」
……令和なら寒い。
俺
「浜本、なんで反対のことを言う?」
浜本
「俺がそう言った方が、
かわいいだろ」
高井
「かわいくないから!」
俺
「お前ら、俺の兵士になれ」
浜本
「イヤです」
高井
「若様すいません。
本心は入りたいです」
浜本、うなずく。
……こいつら、漫才師だな。
---
次に、水斗がまた連れてきた。
とにかくデカい。
身長、ほぼ二メートル。
押しただけで、
相手が吹っ飛ぶ。
倒れた相手は白目をむいて泡を吹いている。
俺
「……まずいな」
近づこうとした瞬間、
酒を持ったおっさんが先に動いた。
顔を横に向け、顎を持ち上げ、
舌を引き出す。
医者だ。
俺
「見事だ」
決勝戦。
二メートルと、
筋骨隆々のマッチョ。
女
「頑張ってー!」
マッチョ、女を見る。
……マジか。
一瞬の隙。
二メートルが投げた。
俺
「……こっちは力、
あっちは欲か」
試合後、名前を聞く。
俺
「名は?」
二メートル
「大島力太郎です」
俺
「……力太郎」
その名の通り、
力だけなら化け物だ。
次。
俺
「お前は?」
マッチョ
「大助次郎です」
安田
「……助平?」
俺
「“大”に“助”、
しかも女で隙を作る。
大助平だな」
大助次郎
「……否定できません」
力は本物だが、
戦場で女を見るな。死ぬ。
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最後に医者を呼ぶ。
俺
「従軍医師になってくれ」
青田
「人殺しの手伝いは出来ませぬ」
俺
「死んでいく兵士を減らす手伝いだ」
少し考えた後、青田は言った。
青田
「……神様の使いに頭を下げられたら、
断れませんな」
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相撲大会で採用したのは――
ヤンキー五兄弟。
漫才師二人。
力だけで押し切る二メートル、力太郎。
女で死にかける大助平――次郎。
医者一人。
安田
「若様らしくない人選ですね」
俺
「そうか?」
安田
「はい」
俺
「――だがな」
「こういう奴らが、
戦場では一番使える」
今回は相撲大会編でした。
クセは強いですが、
全員ちゃんと「理由があって」採用しています。
次回以降から、少しずつ役割が見えてきます。
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