第42話 1535年 五歳 野馬川が帰国したぞ
前回、槍と盾という「戦いの型」を得た。
そして今回は――戦を支えるもう一つの要、馬。
翌日、野馬川が甲斐国から戻ってきた。
仲間と、その家族を連れて。
武田信虎の暴政から逃れ、
「理想の牧場」を作るために――
彼は、俺のもとを選んだ男だ。
野馬川
「若様、ご無沙汰しております。
仲間の生産者と家族、合わせて256名。
それと――訓練済みの軍馬、832頭を連れて参りました」
野馬川
「馬の代金が9650貫ほどになります。
国で借金をして購入しておりまして……」
俺
「真田、払ってやれ」
即答すると、野馬川が目を見開いた。
別室で向き合う。
俺
「野馬川。
俺は直属の牧場を、最低でも15は欲しい」
俺
「半年以内に、軍馬2000頭が必要だ。
今いる832を差し引いて、
残り1168頭――どうするつもりだ?」
野馬川は即座に答えた。
野馬川
「甲斐でも、石和より西へ行けば600頭は確保できます」
俺
「残り600頭は?」
野馬川
「……正直、当てはありません」
そこで、真田が口を挟む。
真田
「信濃に、知り合いの牧場がありまして。
200頭ほどなら――」
俺
「いや。
馬のことは、すべて野馬川に任せる」
その一言で、野馬川の背筋が伸びた。
俺
「奥州はどうだ。
あそこも馬の産地だ」
野馬川
「……必ず。
命に代えても、600頭を揃えて参ります」
俺
「なら伊達殿に書状を書く。
甲斐の分は?」
野馬川
「弟に任せます。
奥州は、私が行きます」
俺
「よし」
俺
「もう一つ、意見を聞きたい」
俺
「馬の爪だ。
割れることがあるな?」
野馬川
「あります」
俺
「鉄の爪――蹄鉄を付けたい。どう思う?」
野馬川は少し考え、頷いた。
野馬川
「良いと思います。
蹄の摩耗は姿勢を崩し、怪我の元になります。
蹄鉄は、それを防げます」
――即答か。頼もしい。
俺
「繁殖は?」
野馬川
「雄一頭に、牝十頭。
出産適齢期の牝馬は高価です。
ですので、子馬の牝馬を多く買います」
野馬川
「育て、選び、
良い種馬と交配させる。
それが、最も確実です」
俺
「なら、市場で子馬を集めよう」
野馬川
「はい。
目利きを育てれば、必ず良い軍馬が生まれます」
俺
「十年以内に、
毎年牝馬二千頭を用意する時代が来る」
俺
「今から、準備しておけ」
野馬川
「……承知しました」
彼の声には、迷いがなかった。
今回は軍馬と牧場の話でした。
地味ですが、ここがないと後が全部崩れます。
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