第41話 1535年 5歳 雷蔵、戻る
直江を迎え、体制は整いつつある。
だが――強さとは、組織だけで完成するものではない。
この日、一本の槍が、新たな戦の形を示す。
半年前。
雷蔵を宝蔵院へ修行に出した。
十字槍で名高い寺だ。
そして今日、その雷蔵が戻ってきた。
雷蔵
「若様、雷蔵、ただいま戻りました」
俺
「よく戻った。修行の成果はどうだ」
雷蔵
「十字槍も、結局は槍の基本から成り立っています。
基本を疎かにしては、どんな武器も活きません」
……いい顔になった。
雷蔵
「それと、若様にお会いさせたい方がおります。
宝蔵院の方丈、胤嵐殿です」
俺
「方丈、とは?」
雷蔵
「宝蔵院で二番目に高い位です」
若いが、只者じゃないな。
胤嵐
「胤嵐と申します。
若様に、一つお伺いしたく参りました」
胤嵐
「槍は両手で扱うのが基本。
片手槍では威力が落ちます」
胤嵐
「雷蔵は、私と並ぶ腕前。
その才能を片手槍に縛るのは、惜しいと思いまして」
……友情、だな。
雷蔵
「胤嵐殿!
武家の作法に疎く、失礼を――」
俺
「なら簡単だ」
俺
「胤嵐の十字槍と、雷蔵の片手十字槍。
立ち会えばいい」
胤嵐が目を丸くする。
俺
「風馬、準備だ」
雷蔵は盾と片手十字槍。
胤嵐は通常の十字槍。
武器は訓練用の竹刀。
胤嵐
「これは……当てても怪我をしないのか」
俺
「そうだ。思い切り来い」
風馬
「――はじめ!」
胤嵐が正面を突く。
と見せかけ、側面から首を狙う。
連続攻撃。
十字槍の真骨頂だ。
だが雷蔵は、盾で側面を塞いだ。
すかさず雷蔵が足元を突く。
胤嵐、跳ぶ。
追撃。
さらに跳ぶ。
胤嵐が横薙ぎに払う。
下段――盾では防げないと読んだ。
だが。
雷蔵は、自身の槍で槍を叩いた。
距離を詰める。
盾の側面――視界の死角。
雷蔵の槍が、首元へ。
胤嵐は反射的に跳んだ。
体勢が崩れる。
その一瞬を、雷蔵は逃さない。
――一突き。
風馬
「そこまで!」
静寂。
胤嵐
「……見事」
胤嵐
「片手槍は、盾を活かすための武だな」
俺
「胤嵐殿」
俺
「雷蔵と共に、
盾と片手槍の戦法を作り上げてくれないか」
胤嵐
「面白い」
胤嵐
「その戦法を宝蔵院へ持ち帰って良いなら、
喜んで協力しよう」
俺
「許す。雷蔵、案内しろ」
――重装歩兵の、最高の教官を得た。
ふと見ると、
部屋の端で島田官兵衛が、食い入るように見ていた。
……いい顔だ。
俺
「島田。
お前も片手槍と盾を使っていいぞ」
島田
「拙者は、剣に生きると神に誓った身」
だが、声に力がない。
強くなりたい者にとって、
今の光景はあまりに衝撃だったのだろう。
島田
「……風馬、水斗」
島田
「行くぞ」
逃げた。
槍は武器であり、思想でもある。
型を守る者と、型を壊す者。
その違いが、やがて戦場の景色を変えていきます。
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