第40話 1535年 5歳 直江景綱に会いに行くぞ
前回は甘粕をスカウト!
今回は直江景綱に会いに行くぞ。
俺、安田、風馬、水斗、真田の五人で、与板城へ向かった。
城内は慌ただしい。
兵が動き、武具が運び込まれている。
声をかけると、軍勢の采配を振るっている少年がいた。
直江景綱。
十七歳にして、この落ち着き。只者じゃない。
直江景綱
「これは若様。よくいらっしゃいました。
申し訳ありません、今は立て込んでおりまして」
俺
「どこと戦をするつもりだ」
直江景綱
「隣の五十嵐です。
我らの用水を堰き止め、占拠しております」
春の水入れに間に合わなければ、領民は飢える。
――それだけ聞けば、五十嵐は悪だ。
だが。
俺
「直江殿、待て。
まず両方の話を聞く」
俺は五十嵐の用水へ向かった。
そこではすでに、直江軍を警戒して柵が組まれている。
俺
「五十嵐殿。なぜ用水を止めた」
五十嵐
「これは若様。
元々この用水は、我が祖父が直江殿に引いたもの」
五十嵐
「我らは新田を開いた。
水が足りぬゆえ、直江殿にも川から引けと伝えたまで」
一理ある。
用水は“借り物”、という理屈だ。
俺
「わかった。
だが、こちらから手を出すな。必ず戻る」
直江の案内で、取水口を見る。
……なるほど。
川より高い。
これでは水は入らない。
直江景綱
「五十嵐は、この事実を知った上で
“自分で引け”と言っているのです」
――戦になる理由は、感情じゃない。
技術だ。
考える。
力で奪う?
金で解決?
丘を削る?
違う。
水車で水を持ち上げる案が、頭をよぎる。
出来なくはない。
だが、歯車、軸、据え付け――
この時代で安定稼働させるには、手間も金もかかりすぎる。
俺は小さく首を振った。
それは“正しい解”だが、“今の越後の解”じゃない。
翌日。
俺は二人を、兵なしで取水口に呼んだ。
俺
「直江、五十嵐。まず、ここを見ろ」
取水口は、横幅一歩。
俺
「この一歩の水を、二つに分けている。
だから足りない」
俺
「なら、増やせばいい」
二人が息を呑む。
俺
「川幅を、手前で狭める。」
二人はきょとん顔だ。説明を補足する。
俺
「川を手前で狭くすれば、水は勢いよく高くまで上がるものだ。これで水量を上げる」
俺
「その水を、分岐まで二歩幅の用水で流す。
直江に一歩、五十嵐に一歩」
沈黙。
俺
「工事費は折半。
これで、どちらも春に間に合う」
直江景綱と五十嵐が、深く頭を下げた。
直江景綱
「……神の声が聞こえるとは、本当でしたな」
五十嵐
「戦になるところでした」
安田まで一緒にかしこまっている。
お前はいい。
俺
「さて。
俺は募兵で五千の部隊を作る」
俺
「侍に限らず、武芸大会で精鋭を集めたい。
協力してほしい」
二人は即答だった。
帰り道。
直江は、川工事の話を楽しそうに語る。
どうやら、土木が得意らしい。
俺
「近いうち、城や砦を作る。
その采配を任せたい」
俺
「まずは直江津港の拡張だ」
直江景綱
「承知いたしました」
安田
「これで、国人同士の仲裁話が山ほど来ますな。国人の婚姻の世話をしてくれ話まで来ますぞ」
俺
「五歳に婚姻の世話は無理だ」
安田
「若様なら可能です」
出来るか!
戦を避け、国を守る。
この一手が、後の越後を形作る。
直江景綱という名は、
ここから歴史に刻まれていく。
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