第38話 1535年 5歳 よし宇佐美定満に会いに行くぞ
春日山商店で農具を売って、越後中がザワついた。
じゃあ次は何をするか?
――軍隊だ。
徴兵じゃない。募集兵。
しかも相手は宇佐美定満。
さて、話は通じるのか?
琵琶島城へ向かった。
メンバーは前回と同じ。安田、風馬、水斗、そして事務方三名だ。
城に着くと、すぐに奥へ通される。
宇佐美定満が静かに席に座り、こちらを待っていた。
宇佐美
「若様、ようこそ。して、本日のご用件は?」
俺
「五千の兵を募兵で揃える。侍以外の武芸者も含め武芸大会を開き、精鋭を武士として取り立てたい。協力してくれ」
宇佐美
「徴兵なら万単位で集まりますのに、なぜあえて募集兵を?」
(来た。試しているな)
俺
「確かに徴兵なら数は揃う。
だが春と秋、農繁期には農民兵を動かせない。
募集兵なら相手が兵を出しにくい時期でも攻勢に出られる」
宇佐美
「では徴収兵は使わぬと?」
俺
「募集兵の補填、あるいは砦や城の防衛に使う。
拠点戦なら兵の能力不足も城が補ってくれる」
宇佐美の目がわずかに細まる。
宇佐美
「では、募集兵には金銭を払う必要がありますが……資金は?」
俺
「五年以内に西洋帆船五十隻を持つ。
蝦夷地から堺、そして大明まで往復し、
一隻で年一万貫の利益だ。五十隻で五十万貫だぞ。
金の心配はいらん」
宇佐美の表情が一瞬止まる。
(ここまで具体的に数字を出されるとは思っていなかったようだ)
宇佐美
「……国人衆はいらなくなりますね」
(はい、ひっかけ問題きた)
俺
「実力ある国人衆は必要だ。
実力のない者はいらん」
ニヤリと宇佐美の顔を見て返す。
宇佐美
「実力ある国人衆は、ときに親方様と意見がぶつかる。どうされますか?」
俺
「組織に二人の親方はいらん。
だが戦場では千変万化だ。
現場の判断で戦機を逃さない武将は必要だ」
宇佐美
「若様……本当に元服前なのですか?」
安田
「宇佐美殿、聞いてくれ。若様は眠くなる術も使えるのだぞ!」
宇佐美の顔が“本気で信じた表情”になった。
(やべ、また言い忘れてた)
俺
「冗談だ。安田、そういうのは後でこっそり言え」
空気が少し和む。
俺
「五千の部隊を作る。
宇佐美、柿崎には軍監として俺の戦い方を見てほしい。頼めるか」
宇佐美
「私がその部隊を率いるのですか?」
俺
「いずれ五万の軍を作る。その時は部隊を任せる。
今は、その未来のための準備だ」
宇佐美
「……承知いたしました」
俺
「俺は若輩だ。支えてくれ」
宇佐美
「喜んで」
宇佐美の声音が、さっきまでとは違う。
完全に“臣下の声”になっている。
そこで俺は越乃柿酒を出した。
俺
「これを飲んでくれ」
宇佐美
「……美味い」
続けて石けんを試してもらう。
今回は農具は出さない。懲りた。
俺
「これらと米を交換してくれ」
結果、米二百石を得た。
どう見ても“こちらが得過ぎる”取引だ。
(国人衆に直接売ると、“貸しだぞ”という顔をされる。
プレゼントするか、別の経路で渡す方が良いな)
帰り道、反省会をしながら思う。
(自衛隊でもこんな軍政は教えてくれなかったなぁ……)
こうして、宇佐美との確かな信頼の糸が結ばれた。
今回は「軍をどう作るか」という、国づくりの根幹の話でした。
数字と理屈で詰め、最後は信頼で結ぶ。
宇佐美定満が“臣下の声”になる瞬間を、感じていただければ幸いです。
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