第27話 1535年 5歳 よし、馬を飼うぞ! 甲斐から来た最強馬主を越後にスカウトしてみた
越後に転生した上杉龍義は、幼くして商業・造船・軍備の基盤を築きつつあった。
この日、堺で新たに動き出すのは――**軍の中核となる“馬”**である。
親戚回りが終わり、八坂の舟工場に小西斡旋の舟職人が到着したと聞き、工場へ向かう途中だった。
その道すがら、やけに良さそうな馬を連れた商人に出会った。
十二頭。
毛並みは艶やか、筋肉の付きも良く、目に濁りがない。
俺「この馬は売りものか?」
馬商人「左様でございます」
声をかけた途端、馬たちが商人のそばに寄っていく。
餌が欲しいだけではない。――信頼されている。
俺「お主、仲買ではないな。生産者だろう。どこから来た?」
馬商人「甲斐国にございます」
俺「甲斐なら高く売れるはずだ。なぜここに?」
馬商人「武田信虎様の政が酷く……家臣がツケで馬を買い、支払いが滞っておりまして」
なるほど、食い詰めたか。
俺「馬を育てるコツは?」
馬商人「愛情、餌、血統、訓練、休養にございます」
――合格だ。
俺は近々、直属軍団を編成するつもりだ。
だが今の馬は祖父・長尾為景からの借り物。
自前の牧場が喉から手が出るほど欲しい。
俺「将来、大陸の馬と越後の馬を交配するつもりだ。興味はあるか?」
馬商人「……ございます。今は餌にも不自由しておりまして」
俺「名は?」
馬商人「野馬川 清十郎と申します。若様のお名前を――」
安田「無礼であるぞ!」
俺「構わん。俺は上杉龍義。
野馬川、俺の牧場をお前に任せたい。今日の馬も全部買う。いくらだ?」
野馬川「一頭十貫にございます」
俺「十二頭で百二十貫。さらに引っ越し代として二十貫付けよう。家族も連れて来い」
野馬川「……! それでは、困っている仲間も――」
俺「大歓迎だ。ただし、家族ごと来ることが条件だ」
野馬川「実は一つ問題が……
我らは武田家重臣の馬も預かっております。どうすれば……」
確かにまずい。
返せば行き先を怪しまれ、
連れて来れば関所で止められる。
――ひらめいた。
俺「野馬川。
“牧場で死病が発生し、馬が次々と死んでいる”と言え。
“感染する前に返す”と重臣に伝えろ。
そして牧場は畳むと噂を流せ」
野馬川「……!」
俺「その上で、国を出る前後に馬を“病気に見せて”俺の元へ来い」
野馬川「承知致しました」
俺「俺が買った馬は、当家管理の牧場に先に入れておけ。
俺は――一年以内に二千頭の馬が欲しい。その算段をしてくれ」
野馬川「必ずや」
俺「安田、風馬。野馬川を案内しろ」
安田・風馬「はっ!」
馬の未来は託した。
残った俺と水斗は、八坂の造船所へと向かった。
ついに“自前の馬”が動き出しました。
軍備も、経済も、静かに次の段階へ入っていきます。




