第26話 1535年 5歳 軍神、5歳にして覚醒するぞ
今回は“少年・上杉謙信(虎千代)”との初ガッツリ絡み回!
堺帰りの龍義が、未来の軍神に“危険な火”をつけてしまいます。
二人の関係性が読者に分かりやすくなる回です!
堺から戻った俺は、しばし親戚回りを済ませたのち、いよいよ“将来の軍神”虎千代に会いに行くことにした。
虎千代は来年から林泉寺に預けられる――だが、本人はまだ知らない。知ったら大ショックだろう。
屋敷を訪れると、虎千代は外でひたすら木刀を振っていた。五歳とは思えぬ集中力だ。
俺「叔父上、久しぶりです」
虎千代「同い年で叔父上はやめろ。それと敬語も」
昔から顔を合わせているので距離は近い。
俺「堺に行ってきたから、お土産だ」
堺で買った菓子を渡す。五歳なら絶対喜ぶと思ったのだが──
虎千代「……堺の刀の方が良かった」
……はい、撃沈。どうする俺。
俺「刀は今の俺たちには重すぎて無駄だぞ。強くなる方法なら教えられるが──知りたいか?」
その瞬間、虎千代の目に火が灯った。
虎千代「ぜひ教えてくれ!」
俺は虎千代の木刀を受け取り、地面に構える。
俺「構えは──右足前、左足後ろ。腰を深く落として、右上段から大きく振りかぶる」
虎千代が息を飲むのを感じながら、俺は木刀をゆっくり上げた。
俺「打ち込みは立木に向かって、ためらわず、一気に踏み込みながら振り下ろす」
ここまでは普通の説明だが──俺は“あえて”続ける。
示現流の特徴は、「技」ではなく「心」を鍛えることにある。
●① 立木を相手とみなす理由
立木は逃げない。
逃げない相手に迷いなく斬り込むことで、
人を斬る時に生まれる“ためらい”を消す訓練でもある。
敵が武士であれ、甲冑であれ、武器であれ、
示現流で最も重視されるのは
一撃で勝負を決める“圧倒的な踏み込み”だ。
●② 踏み込みのコツ
・踏み出す瞬間に呼吸を吐き切り、
・腰を前へ押し出しながら、
・前足で地面を割るように踏む。
示現流ではこれを**「一足一刀の間合い」**と呼ぶ。
“足を一歩踏み出した瞬間に刀が届く距離”を体に叩き込む。
●③ 怒号の意味
示現流が“声が大きい流派”と言われるのは有名だ。
あの怒号はただの気合ではない。
呼吸を極限まで圧縮して爆発させることで、踏み込みの速度を上げる。
一瞬だけ気道を開き、内臓の力も連動する。
これを知らずに打つと、ただ喉が枯れるだけになる。
●④ 左右袈裟の繰り返しが重要な理由
敵は常に動くからだ。
示現流では“一撃の角度”を固定しない。
・左袈裟
・右袈裟
・正面打ち
・横一文字
・首筋、頸動脈、鎖骨上
・兜の継ぎ目
これらを無意識に変えられるようになるまで反復する。
●⑤ 精神の鍛錬(恐怖の断ち切り)
示現流最大の特徴はここだ。
剣士が最も恐れるのは「斬られること」ではなく
**“相手を斬る瞬間に生じる心の震え”**だ。
立木に向かって打ち込む鍛錬は、
その震えを消し去るためにある。
木刀を振るたびに手のひらの皮が剥け、
指の骨が痺れ、腕が上がらなくなる。
だが、それでも打ち続けることで──
『己の恐怖を斬り捨てる』
これが示現流の本質だ。
そして俺は静かに言った。
俺「これを“示現流・立木打ち”という。単純だが……確実に強くなる」
虎千代「いつもこれを!?」
──転生前、俺も剣道と示現流をかじっていたが、半年で手が痛くてギブアップした。
そしてアーチェリー部へ転部した。
俺「強くなれるが……単調すぎて続かない。俺も挫折した」
虎千代「強くなれるなら、やる!」
そのまま虎千代は立木に向かい、迷いなく振り下ろし始めた。
……音が違う。五歳でこんな打ち込み、普通は無理だぞ。
手も相当痛いはずなのに怯まない。やはり、後の軍神だ。
帰り道、屋敷から出ると風馬と水斗が近づいてきて言った。
風馬「若様ズルいです! そんな方法あるなら教えてくださいよ!」
水斗「俺達も強くなりたいんです!」
俺「お前たちには“別のやり方”で強くなってもらう」
二人よ、焦るな。もう準備中だ。
その後、祖父・上杉定実に堺土産を渡し、大業物の刀を百貫で譲ってもらった。
宿舎へ向かい、約束していた島田官兵衛に刀を渡す。
島田「若様……! この恩は一生忘れません。強くなる方法も教えていただければ」
俺「しばらく待て。準備している。風馬と水斗の稽古を頼む」
島田「鍛え甲斐がありますね」
多分スパルタになるだろう。風馬、水斗……生き残れ。
島田「若様も一緒にいかがです?」
俺「遠慮しとく!」
そう言って俺は安田と逃げ帰った。
虎千代の才能、五歳にしてすでに異常!
読んでくれた皆さま、ありがとうございます。




