4、剣聖と退団
俺は昔から丈夫だけが取り柄だった。
木から落ちても、馬に蹴られても、本棚の下敷きになっても傷一つなかった。
ただ一つだけ難点があるとしたら魔法攻撃には点で弱かった。
下級魔法でも当たれば致命傷、医師曰く俺の体は現実離れしているとのこと、もちろん悪い意味で。
だけどそんな体の丈夫さが付与魔道士ヒスイのおかげで開花した。
「まだ痛いな」
目を開けると抉った森林の中。
首を動かしても誰もいない、一瞬死んだかと思ったがその時赤髪の付与魔道士が現れた。
「良かった起きて、本当に心配したんだからね」
「なぁヒスイ、ありがとう」
「あんたのおかげで本当に再起できる可能性が見えてたよ、本当にありがとう」
「お礼を言うのは私の方、勢い余って最大出力にしちゃったから焦ったよ」
「……は?」
おもむろに横に座り両手を膝の上に乗せるヒスイ。
寝ている俺を申し訳なさそうな顔で見つめている。
「えぇと……本当にごめんなさい」
「わざとじゃないの、でも少し力入っちゃって……今度はもう少し調節するから」
「ごめんなさい」
なるほど、あの全身に来る痛みはこいつの最大出力の魔法だったわけか。
確かに意識が吹き飛ばされそうになるくらい痛かったけどあれ程の力があると分かったから良かった。
「別に謝らなくてもいいけど、俺もうしばらく動けないから置いて行かないでくれよ」
「もちろんだよ、身の回りの世話はする覚悟はできてるよ」
「いやそこまで重症じゃ無いけどね」
こうして付与魔法の実証は大成功に終わった。
ただ実証後5時間くらい身動きが取れなくて少し不便だったけどそんなのは気にすることじゃない。
帰り道に手綱を握る手の開閉が自由に出来ない時は少し焦ったけど、それも気にすることじゃ無い。
ヒスイと次会う約束を交わし家に帰る。
次の日から一週間筋肉痛で動けなくて死にそうになったけどまぁ気にはしない。
1週間と数日後
「ベーグルさんから聞いたけど……本当に動いて大丈夫?」
「あぁ、もうこの通りで全然平気だ」
「じゃあ次の依頼について打ち合わせをしよう!」
「次はもう少し難易度を上げてもいいよね、いいよね!」
「お楽しみのところ悪いけど一つだけいいかヒスイ」
「次最大出力の付与魔法を使う時は一声かけてくれ、それだけは約束してほしい」
「もちろんだよ、安心して!」
「いやでも流石剣聖様って感じだよ、まさか私の魔法に耐えるなんてね」
下級魔獣を倒すたびに一週間動けないのは辛い。
だがあの超火力が一週間の束縛で済むのなら安い話、それこそ魔王に対する時にあれを使えばもしかしたらもしかするかもしれない。
要するに俺の体を強くすればいいだけの話、目的が明確なのは進んでいる道が正しい証拠。
地道に行く他ない、今までもそうやってきたろアレス。
「それと俺、剣聖の称号を返還したからもう剣聖じゃない」
「あと王国兵団も退団したから冒険者としてヒスイとパーティを組みたいんだけど、いいかな?」
「え……それ、本当?」
「昨日団長に話してきた、もう俺のやりたい事は兵団にないって」
「それって……大丈夫なの?私なら別に兵団の業務の間でいいけど」
「もし忙しかったら私が王城に行くから今からでも取り消した方がいいよ」
「だって、アレスが目指して入ったんでしょ、兵団に入るのだって簡単じゃないのに」
「いいんだヒスイ、今は一旦抜けてるだけだから」
「この前言ってたろ、魔王を倒すって、それを実現できたら王国兵団の地位も剣聖の称号も向こうからやってくるって思うんだ」
「それこそヒスイが言った「再起を図る」ってやつだよ」
俺は5年勤めた王国兵団を退団した。
正直俺が採用されたのも剣術指南役に抜擢されただけで当初の目的だった魔王戦線に行けないのなら所属していないのと同じ。
それに剣聖という称号もお遊戯と言われないために実績を作るための一時的な返還。
次は誰しもが認める「剣聖」となるべく俺も強くなる決意と共に陛下に預かって頂いただけの話。
「てことだからヒスイ、今度ともよろしく頼むよ」
「アレス……私全力で頑張るから、一緒に魔王を倒そうね!!」
こうして元剣聖の俺は付与魔道士ヒスイと共に魔王討伐のため冒険者となった。
次王城へ行く時は戦果を持ちヒスイと共に召喚されるためにこれからを頑張ろう。
いつだってそう、俺は無いところから始まっていた、これから培えばいいだけの話。




