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12、イースタ村と観光

「あれがイースタ村か」


王都から馬車を走らせる事1日半。

遠方に見えて来たのは木の柵に囲まれた村。

王都からの街道を外れた村は余程の危険地域ではない限り魔法結界を展開していなく、その代わりに木の柵で村を守っている。

金銭的に全ての村をカバー出来ないのは仕方がないが少しお粗末なもの、かといって特段危険はない村に魔法結界を張っても魔力の無駄使いになって要所から批判が殺到してしまう。

人命と魔力と経済、解決の出来ない歪みが外部依頼の増加として生まれる。


「アレスはあんな柵で魔獣の進行を止められると思う?」


「無理だろうな、依頼書にある魔獣アルミラージは突撃性能が他と違って特筆している」

「木組の感じから他の下級魔獣は抑えれてもアルミラージは無理だな」


「そうだよね」


少し顔を曇らせるヒスイ。

言いたい事もわかる、人が死ぬ前に対策を講じるべきだと。

だけど問題はそう簡単じゃない、誰もがやるべきだと思う事には誰も想定しない問題が付き物。

それも俺達には解決できないような大きな問題が。


「まぁ割り切れとは言わないけどこれが現実だ、それにイースタ村の過去5年間の魔獣被害は3件」

「どれも木柵補填を村人が怠った時に起きている被害だ」


「でも今回のは違うんでしょ、過去なんて意味ない、今人が死んじゃったら遅いでしょ」


「それをさせないために俺達が来たんだ、調べて木柵では防衛不可能と思ったらギルドに報告する」

「最終的に王国兵団へ伝わればここも保護されるさ」


「そうだと良いけどね」


この反応をするヒスイには言えないけど過去5年で被害が3件なら木の柵で十分過ぎる予防策だと思う。

今回みたいに実害が出たら冒険者が適宜調査をする、それが最適だと思う。


「馬車を預けたら被害が出た所を見て回るか」


「うん、そうしよう」


どんな規模の町や村でも厩舎きゅうしゃはある。

魔道具が開発され移動手段が利便になると期待されているが未だに馬車に変わる手段はない。

イースタ村の厩舎は中々に広い、木と粘土を配合した建物。


「ようこそイースタ村へ」


受付の兄ちゃんの顔は少し暗め、先の1件のせいか村内の雰囲気も暗い。

探索の前に依頼主である村長宅へ。


「遠い所をありがとうございます」

「私はイースタ村の村長ラドリと申します」


出迎えてくれたのはあごひげを蓄えた白髪の老人。

村長ラドリはまず先に泊まる宿を紹介してくれた。


「この家は客人ように建てられたものです、空き家ですのでご自由にお使いください」


紹介された宿は木造の一軒家。

1階は共用スペース、2階には4部屋ある寝室。

客人というより移り住む人に向けた建物みたいな構造になっていた、その上調理用魔道具なども揃っている充実ぶり。


「ラドリさん、まず被害状況を共有していただきたいのですが」


「承知致しました、それでは息子を呼んできますので掛けてお待ちください」


ラドリが宿から出てから順次荷物を宿へ持ち込む。

俺のバッグは大きいのが1つ、ヒスイのバッグは大きめが2つ。

最初は小さなバッグ1つだったことを考えると何を持ってきたか気になるけど聞けるはずもない。


「どの部屋がいい?」


2階に上がると一本の廊下に扉が四つ設置されていた。

どの部屋と言われても変わりはないと思うけど。


「ヒスイはどの部屋がいいんだ?」


「私この角の部屋」


俺はどの部屋でも良かったので角部屋を譲りその一個隣の部屋へと入る。

中はベッドと机のある1人ようの寝室、至って普通。

明日から本格的に魔獣討伐が始まるという事で剣や持っていく物を選別、回復薬などは多めに持っていくか。

荷物を揃えていると扉から村長の呼ぶ声が聞こえた。


「こちらが私の息子のコーグです」

「今回の魔獣被害を見ていました、コーグ冒険者のアレスさんとヒスイさんに挨拶を」


ラドリ村長の隣に座る若い少年。

ラドリの面影はあるものの顔立ちがはっきりしているハンサム顔。

多分もう10年したら村中から求婚されるんだろうな。


「コーグです、よろしくお願いします」


頭を下げるコーグに対し我々も頭を下げる。

そして互いを見つめ合う謎の間が生まれ、それを見かねたラドリが口火を切る。


「すみませんね、こいつは少し人見知りなもので、村外の人とは目を見て話せないんです」

「本当に情けのない話で恥ずかしい限りです」


頭をさすりながら苦笑いを浮かべる村長。

だけどコーグくらいの年代は皆そんなものではないかと思う、俺だって10歳かそこらの時は人と喋れなかったし兵士学校の時だってまともに話していたのはユリィだけ。


「そんな事ないですよ村長さん」

「私もコーグ君と同じ歳の頃は年上の人とはあまり話せませんでした」

「要は経験です、コーグ君も無理せずに話したくなったらお姉ちゃんかこっちの人に話せば良いからね」


ヒスイは微笑みながらコーグ少年に歩み寄る。

少し顔を赤らめるコーグは静かに頷く。

可愛い少年じゃないか、ここは大人として協力していかなければな。


「よしコーグ君、僕と一緒に村を案内してくれるか?」

「もちろんそのお礼に好きな物を何でも買ってあげるぞ」


「本当に!?」


「あぁ、こう見えて俺は少しお金を持っているからな」


やはり子供と仲良くするにはその子が何に興味を持つか知ることが近道。

何かを買うという行為に嫌悪感を抱く子供はいない、好感度と興味の先を知れて尚且つ村も知れるという良い事づくし。

その後イースタ村を隅々まで散策。


「ここが僕が通ってる学校だよ」


村といえどもアイラード王国の領地。

施設の規模は小さくても機能面は王都と遜色はない。

学校もあるし魔法訓練広場もある、少し行くと河川が流れ草原で運動もできる。

最後に案内してくれたのは村にある時計台の上。


「ここは危ないから大人と一緒じゃないと登らせてくれないんだけど、今日はアレスさんとヒスイさんがいるから大丈夫だよね」


階段を上がった時計台の広場から見下ろす円形のイースタ村。

地平線に立つ山々の上に光る夕陽はそれは綺麗な情景だった。

塀に掴まり外を見下ろす。


「コーグはこの景色を見るためにここに来るのか?」


「うん、嫌な事とかあったらここに来て気持ちを落ち着かせるんだ」

「この景色を見ると何だか力が湧いてくる気がする」


「コーグ君、連れて来てくれてありがと」

「すっごい綺麗だよ」


時計台から降り約束通りコーグの欲しい物を買いに通りへ行くと。


「これで良いのか?」


「うん!前から食べてみたかったんだ」


欲しい物といった手前ある程度の金額を覚悟していたのだが、コーグの手に持っているのはブロック肉の串焼き。

確かに肉にしては良いお値段はしたけど、謙虚にも程があるぞコーグ。

まぁ本人が良いなら良いけど、なんか物で釣ろうとした俺が非常に恥ずかしかった。


「ねぇアレスさん、魔道士様って魔獣を従えたり出来るの?」


「魔獣を従えるか、それは無理だろうな」

「魔獣には一見すると意思がないように見えるけどちゃんと脳細胞はあるし本能もある、それを支配する魔法があったとしたらそりゃ禁忌魔法になるだろうな」

「魔獣を支配できるって事は俺たち人間にも転用できるって意味になる」


「そっか、そうだよね」

「この前授業で魔獣の事ならってさ先生はそんな事より他の勉強しろって言ってたから聞けて良かったよ」


最近の子供はえげつない事を考えるな。

魔獣を使役するなんていつ殺されるか分かったもんじゃない。

コーグと別れ宿に戻るとヒスイが間の抜けた顔を浮かべ。


「そういえば被害状況って教えてもらったっけ?」


「あ……」


核心を忘れただ観光してしまった。

まぁそんな事もあるさと自分をなだめ大浴場へと向かった。



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