11、外注と信頼
外注依頼とは、王都外の村や町などで起こった被害届を元に作成される依頼の事。
これまで受けた依頼は国が指定した区域と指定した魔獣の討伐だったが外注依頼は平民が依頼主となり動く。
今までのように記載された通りに事が運ぶのは稀でより一層の注意と地肩が試される。
「明日から受ける依頼の写し、家に戻ったら確認しておいて」
ヒスイから手渡された2枚の紙、そこには依頼内容と依頼先の地図が載っていていた。
「イースタ村」王都から南西に50kmに位置する村。
そこに現れた魔獣アルミラージを5体討伐。
アルミラージ赤い目と白毛、額に生える角が特徴的な魔獣。
脚力の発達が凄まじくひと踏みで山を超える個体がいるとか、その勢いで突進してくる戦法が主でその威力は魔道士5人がかりの魔法障壁を貫通する。
当たったらもちろん即死か、被害は家畜の主に牛と豚が食われていて食糧難が続けば餓死者も想定される。
「まぁ緑級でも受けられる依頼、今度は付与魔法使った後も歩けるように調整しないとな」
当面の目標は付与魔法で戦った後に動けるようにすること。
戦地で体が動けないまま寝ていたら殺されるのは当然、ヒスイに担いでもらう事ができない以上自分でどうにかする他ない。
できる事なら支援系の仲間を迎え入れたい所だけど俺たちのパーティに入る勇気のあるやつは今の所現れていないしその様子もない。
適度な運動に適度な食生活を心がけ肉体を改造していこう、そして何より大事なのは睡眠。
「おはようヒスイ、その荷物で大丈夫なのか?」
イースタ村に向かう朝、門の前に馬車を引き連れ向かうと背に軽いバッグを背負ったヒスイがいた。
外行きの依頼は何日もかけて行う事が一般的で着替えとかが必要になると思い俺は大きめのバッグに着替えを3着分用意してきたんだけど、ヒスイは小さめのバッグのみ。
先輩冒険者のヒスイに限って1日で終わるとは思ってないと思うけど。
「大丈夫じゃないけど大丈夫」
「何か困ってるなら言ってくれよ、向こうに行って言われても戻れないんだぞ?」
「それに服だって汚れたまま依頼先の人に会うのはどうかと思うぞ、いくら俺達が冒険者だからと言ってベッドを泥で汚されちゃ依頼主も困るだろ」
「確かに……流石に替え着1セットじゃ心許ないか」
1セットって、小旅行するんじゃないんだから。
それに外注依頼で衣服を破損したとして裸で村を回る気なのか。
「分かったなら今からでも取って来てくれ、待ってるから」
「私……大きいバッグ持てないの」
「は?」
ー1時間後ー
「大きいバッグを持てないなら最初からそう言ってくれれば良かっただろ」
「なんでわざわざ当日の朝に俺に言われて持てないと言うんだ」
「それも体が弱いからそもそも一定量の重さに耐えられないなんて一番に言うべきだと思わないのか」
「だって恥ずかしいんだもん」
「何を恥ずかしがる事があるんだ、体が弱いのは体質的な問題で君自身の事なんだ、恥ずかしいよりも自分を大切にしてくれ」
「君がいなくなるとこのパーティの根幹が崩れて君も俺も死ぬことになるんだぞ」
「分かったよ!分かったからその説教口調やめてよ!!私の方が年上なんですけど!!」
背中に投げられる奇妙なウサギ人形。
門からヒスイの家に戻り荷物を揃え王都を出発。
別に怒りたかった訳ではないがあまりにも見栄を張りたがるので少し説教をしたらすねてしまった。
今も荷台に奇妙なうさぎ人形を抱えながら座っている。
「まだ日が浅くて信用ならないかもしれないけど、もっと俺を頼ってくれ」
「別に些細な事でもなんでもいいから気になる事があったら言ってほしい、できる事なら手を貸すからさ」
「まぁ魔法関係は手の貸しようもないけど」
「本当にいいの?」
「もちろん、俺にできる事ならなんでもするよ」
「そっか、ありがと助かるよ」
怒っていたヒスイは大人しくなる。
やはりまだ完全に信用されていないか、こればかりは実績を積まないと得られないもの。
依頼と共に俺が出来るという事をヒスイに示す。
当面の目標は付与魔法の掌握とヒスイの信頼獲得、この2つを目指そう。
「今日はここで野宿って事で大丈夫か?」
イースタ村までは一日半かかるため今日は野宿。
草原での野宿は相当な注意が必要。
初めに夜活発になる魔獣対策として馬車の周りに簡易結界を張る、次に予想外の魔獣に備え空に警笛の魔道具を打ち上げる。
この2つを怠るとほぼ明日の朝日は迎えれない。
そして2つとも魔力が高いヒスイがやる事、俺はその代わりに夜食をせっせと作る。
「アレスって料理できるんだね、酒屋にいるからできないかと思ったよ」
「まぁベーグルの酒屋で料理人の手伝いをしていた経験があるからな、並には出来ると思うぞ」
「味もベーグル考案の万人に受ける調味だから期待してくれ」
野宿はほとんど鍋料理になる。
火元は1つしかないので鍋に人数分の食材を煮込むのが主流、というかこれ以外の料理は手間がかかりすぎる。
時間も手間も省いた究極の野外料理、それが鍋。
「お待たせ、肉と野菜の出汁煮込み」
「良い匂い!!」
木の組み立てた机に並べたのは燻製した肉と新鮮な野菜を出汁で煮込んだ鍋料理。
これをパンにつけて食べると涙が出るほどにうまい。
ヒスイはパンに肉を乗せ口へ頬張る。
「んん!!美味しい!!!」
涙は出なかったが感触は上々。
「これなら他国からの依頼も受けれそうね、アレスがいれば1番の鬼門「料理」を突破できる」
褒めてもらって悪いのだが他国からの依頼を受けるつもりはない。
国家間の移動となると国からの援助が必須になるが2人だけの冒険者に割く金は王国には無い。
まぁそんな未来の話はさておき、俺も極上の肉を頬張り後片付けをする。
時間は夜中、荷台に敷いた羽毛布を背に眠りにつく。
「ねぇアレス、これから色々と迷惑けかちゃうかもしれないけどさ、よろしくね」
「あぁ、なんでも言ってくれ」
「迷惑な事も迷惑じゃない事もな」
「うん」




