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10、ギルド長と過保護

アイラード王国のギルドは一つしかない、王都に本拠地を構える「アイラードギルド」のみ。

他国には様々なギルドがあると聞くがこの国は統括した組織しかない。


「ヒスイ、本当にギルド長に会うのか?」


「うん、新たにパーティを組んだらその人を紹介するって条件でここに在籍してるから本当なら組んだ時じゃないといけないの」


王都にあるギルド本部に立つ俺とヒスイ。

ヒースクレスト討伐達成2日後に血相を変えたヒスイがベーグルの酒屋に駆け込んできた。

理由はギルド長アインスに俺を紹介したいというもの、聞いた時は意味がわからなかったがヒスイは前にパーティメンバーを病院送りにした強者。

魔法の特異性からギルド長自ら監督しているらしい。


「それって本当ならもっと前に来るべきだったんじゃないのか?」


「それなんだけどね、嬉しさのあまりつい忘れてたの」

「多分……いや絶対に怒られるから覚悟しておいて」


その覚悟は俺も必要か確認しようとしたが同パーティなのだから連帯責任は必然。

大人になって説教は嫌だが新米冒険者としての通過儀礼と思う事に。

ギルド本部3階にあるギルド長室の前に立つ我々、ド緊張のヒスイが扉をノックする。


「入れ」


扉から聞こえる凛とした女声。

その声に体を震わせるヒスイ、そんなに怖いなら忘れなければよかったのに。

そういう事情があるなら俺も断る理由もなかった、まぁ今言っても仕方がない事。

この後ヒスイに落雷が落ちるのは決まった運命なのだから。


「失礼します!」


裏返ったヒスイの声で扉が開かれる。

部屋内部は至ってシンプル。

応対用のソファと低机、両壁には資料が並べられた棚が2つずつ。

向かいの先に大きな机にギルド長の立て札とギルド長アインス・エルラトフ


「よく来たなヒスイ、それと初めましてアレス君」

「私がアイラードギルドのギルド長を務めるアインス・エルラトフだ」


立ち上がった美麗な女性。

なびく桃色の髪と暗い赤めのスーツが決まっている、身長も高いせいか威圧感がすごい。

それに事前情報で60を過ぎていると聞いていたけど30代と言われても信じるほどに若々しく美しい容姿。

そのアインスに恐れおののくヒスイ。


「い、いやぁ……つい忘れてて、クエストも完了したし多めに見てくれ……」


「舐めてんのかクソガキ!!」


「いやぁああ!!!」


アインスは流れるようにヒスイの胸ぐらを掴み上げる。

先程までの美麗な佇まいとは変わり輩丸出しの鬼顔、普通に怖い。

アインスの怒涛の責め口調を泣きながら聞くヒスイ、俺は銅像のように横に立ち尽くす。

数分が経ちアインスの怒りも収まった所でソファに着席、ヒスイは意気消沈のため俺が話を聞くことに。


「それでアレス君、もうこのバカの諸々は認知しているってことでいのかな?」


「まぁそうですね、アインスさんが言う諸々がどの範囲かわかりませんが付与魔法に関する事なら聞きました」


「そうか、じゃあその付与魔法を受けたって話も本当かい?」


「はい、この身に受けました」


……


「よし、なら聞く事はもないね」

「このバカは自意識過剰で協調性が無くすぐ調子に乗るからアレス君が見てやってほしい」

「巷ではよくない噂が流れているけど裏を返せばヒスイも一生懸命だったと寛容に受け止めてほしい、この子も別に人を傷つけて平気な子じゃないんだ」

「これから先何が起きてもこの子を守ってやってくれアレス君、ギルド長としてこの子を見てきた保護者としてよろしく頼むよ」


保護者か、そんなに古くからの付き合いだったのか。


「分かりましたアインスさん、僕もヒスイさんにはお世話になっているのでそのお返しを全力で努めたいと思います」


「あぁ、よろしく頼む」


先程までの鬼顔とは変わり屈託のない満面の笑みを浮かべるアインス。

この笑顔に惚れてしまう男は星の数ほどにいるだろうと思ってしまうくらいに綺麗な笑顔だった。

もちろん俺も例外ではない。


「じゃあ用が済んだし行こうアレス」


「いいのか、アインスさんに何か言わなくても」


「いいの、言いたい事は言ったから」


初めから見ていたがごめんしか言ってなかった気がするが。

ヒスイが席を立ち俺も席を立つ、止める様子がないアインスを背に出口へ歩き出す。


「ヒスイ、頑張んなよ」

「また会う時は少ない成長を見せてくれよ、私に勝てる所はないんだからさ」

「身長も胸も経験もね」


「うっさいわこの若造りババア!!」

「今度会う時はあっと驚く実績を持ってあんたに突きつけてやるんだからね!!!」

「行こうアレス」


足音を立てながら部屋を出るヒスイ。

それを追うように俺も歩き出す、部屋を出る間際アインスの顔が笑っていた所を見ると相当な過保護な様子が伺えた。

ギルド長に愛されているなんて羨ましいなヒスイは。


「アレス、次の依頼は外注依頼を完遂する!」

「今までは国家受注の依頼だったけど、もう私達はある程度のレベルまで来てると思うの」

「私が緑級だから依頼もそのレベルまで上げるけど問題はないよね?」


「あぁ、どんどん依頼をこなしていこう」


今までは国が指定した区域の魔獣討伐依頼だったが次から受けるのは被害が出ている王都外の依頼。

本格的に冒険者の階級を上げる段階へと進む。





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