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王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~  作者: 狭山ひびき


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誕生日パーティーの過ち 1

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 エイミーの部屋には、新調した華やかな薄紫色のドレスと、それに合わせたアクセサリーの数々が並べられていた。

 今日は、エイミーの十七歳の誕生日である。

 パーティーが開かれるのは夜だが、侍女のスージーが朝から気合を入れまくりで、パーティー開始までまだ三時間もあるのに、エイミーは急き立てられるように入浴させられ、その後マッサージ、そして今は入念にスキンケアをされている。


「可愛く可愛く、それこそ殿下が骨抜きになるくらい可愛く整えて差し上げますからね! まあお嬢様はいつも可愛いですけど!」


 蜂蜜パックは肌がぷるんぷるんになるのだと言って、エイミーの肌にせっせと蜂蜜を塗りながらスージーが機嫌よく言った。


(殿下が骨抜き……)


 閉ざした瞼の下で、ライオネルが頬を染めて「好きだ」と言ってくれる様を想像してうっとりしたエイミーだったが、すぐにその妄想を打ち消す。

 ライオネルがエイミーに「好きだ」なんて言ってくれるはずないし、第一エイミーは――


「お嬢様、今日は昨年殿下が下さったイヤリングをつけましょう」

「そうね……」


 ライオネルは毎年何かしらのプレゼントをくれる。

 だがそれらは、城の宝物庫から適当に選んできたものだということをエイミーは知っていた。それも、ライオネル自身が選んだのではなく、侍従に命じて適当に用意させたものだということを。

 思い返せば婚約してからもらったライオネルからの誕生日プレゼントは、すべて彼自身ではなく他人が選んだものだ。

 ライオネルが贈った、けれども彼以外の人間が選んだプレゼントを嬉しそうに身にまとうエイミーを見て、彼は何を思っていただろうか。

 エイミーはこれまでの自分がひどく滑稽に思えてきたが、しかしそれをスージーに言えるはずもない。


(殿下、今日も来てくれるって言っていたわよね)


 エイミーのことが大嫌いなのに、ライオネルは毎年誕生日パーティーに来てくれる。

 誕生日プレゼントを差し出して、ぶっきらぼうに「おめでとう」と言ってくれるのだ。

 エイミーはそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかったけれど、ライオネルにしてみたら嫌で嫌で仕方がなかっただろう。


 蜂蜜パックを終えて、エイミーは肌を整えられた後で、スージーに手伝ってもらいながらドレスに着替えた。

 この薄紫色のドレスは、半年以上前から王都の有名デザイナーに頼んで作ってもらった可愛らしいもので、色はもちろん、ライオネルの瞳の色に合わせた。

 ライオネルの瞳はもっと濃い紫色だが、濃い紫色のドレスは初夏には重たすぎると言われて薄紫になっている。

 エイミーの小柄で華奢な体を妖精のようにふわふわに彩るドレスは、しかし十七歳になるエイミーの年齢に合わせて、背中が広めに開いたちょっとだけ大人びたデザインだ。

 背中のラインを綺麗に見せるために、いつも下ろしている髪を、今日はすべてアップにするという。


「お嬢様の髪はふわふわなので、おろしていてもとっても可愛らしいんですけど、今日は大人をアピールしましょう。色気で勝負です」

(色気……)


 エイミーは自分の体を見下ろして、果たしてどこに色気があるだろうかと考えた。

 小柄で目が大きいエイミーは、小動物のように愛くるしいとは言われるけれど、セクシーだと言われたことは今まで一度たりともない。

 それに、スージーが頑張って色気とやらを引き出してくれたとしても、ライオネルの心に響くとは思えなかった。ましてや今日は――


「さあさ、お嬢様、ドレッサーの前に座ってくださいませ」

「う、うん……」


 エイミーはスージーに気づかれないようにそっと息を吐いて、ドレッサーの前に座る。

 スージーがサイドの髪を編み込みながら、エイミーのくせ毛を丁寧にまとめて、大ぶりの髪飾りで止めてくれた。

 髪が終わると、今度はお化粧である。

 大人っぽく、少し長めのアイラインが入れられて、艶感のある色で目元を彩ると、スージーは唇に薔薇色の口紅と、それから艶を出すグロスを重ね付けした。


「口元はまた後でお直ししますけど、こんな感じでいいですかね? それとももう少し赤を濃くしますか?」

「ううん、この色で大丈夫よ」


 去年までなら、ライオネルのキス狙いで特に唇は気合を入れて整えてもらったが、今年は違う。

 大方の準備が終わると、エイミーは時計を見て立ち上がった。


「まだ時間もあるみたいだし、ちょっと庭でも歩いてくるわ」

「それは構いませんが、旦那様と庭師を手伝ったりしないでくださいね。ドレスで木登りとか、絶対にいけませんよ。破れたら大変ですから」

「うん、わかっているわ」


 庭では、父と庭師、それからほかの使用人たちが庭の木々に飾りつけをしているのだ。もう小さな子供ではないのに、リボンや人形でとてもかわいく飾り付けてくれる。

 エイミーは庭に向けてぽてぽてと歩きながら、大きな深呼吸を一つした。


(今日で、最後――)


 シンシアに言われて、エイミーは今日までずっと考えてきた。

 そして決めたのだ。


 ――今日、ライオネルにお別れを告げる、と。




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