第44話 アイギスとアステシア
「ふーん、色々とあったのね」
「ああ、だから、別にアイギスを仲間外れにしたわけじゃないんだよ」
「別に気にしてないもの」
アステシアの救出から一週間たち、俺は拗ねた顔をして頬を膨らましているアイギスと私室にいた。元々遊ぶ予定だったのを断って、アステシアの救助に行ったのと、ナイアルとロザリアも一緒だったためか、仲間外れにされたと思っているせいか機嫌はあまりよろしくない。
ナイアルはマジで偶然なんだけどなぁと思いつつ俺は苦笑する。
「あー、その約束を破ったお詫びに今度一緒に神霊の泉でも行くか。管理者が決まったから、この前よりも歩きやすくなってると思うぞ。俺も整備されてからは初めていくんだ」
「ふーん、初めてなんだ……仕方ないわね。そこまで言うなら付き合ってあげるわ。どんな格好していこうかしら、ヴァイスはどんなドレスが好き?」
「いや、流石にドレスとかは汚れちゃうからな?」
先ほどまでの不機嫌さが嘘のように嬉しそうにしているアイギス。鼻歌まで歌ってやがるぜ。まあ、整備されたっても、まだ、そこまで時間が立っていないし、神獣や神霊に迷惑がかからない程度の整備だ。
獣道が多少まともになっているくらいだろう。でも、あの景色をまたじっくりと見れるのは俺も嬉しい。
「ごめんなさい、ヴァイス……ちょっといいかしら? あら、そちらの女の子は……?」
ノックの音と共に、アステシアが入ってくる。彼女は俺の専属プリーストという事もあり、最近は領主の仕事も手伝ってもらっているのだ。いや、それってプリーストの仕事なのかよって感じなんだけどやってくれるというから甘えてしまっている。
「あなたこそ何者なのよ。ヴァイスとはどんな関係なの?」
「それは……」
アイギスの警戒心に満ちた言葉にアステシアが言いよどむ。アイギスはハデス教徒を筆頭に色々な人が騙そうとしてきたせいか初対面の人間に対して、警戒する癖が抜けないのと、アステシアは元々人見知り上に、ハデス教徒の呪いで長く人と接していなかったからか、新しい人間には弱腰になるのだ。
全部ハデス教徒のせいじゃねーか、あいつらマジでクソだな!!
「彼女はアイギス=ブラッディ、ブラッディ家の令嬢で、俺の友人だ。そして、彼女はアステシア、優秀なプリーストで、俺の専属プリーストをやってもらっているんだ」
「専属プリースト……」
「ブラッディ家……友人……」
見つめあって俺の言葉をオウム返しにする二人。そういえばゲームでの二人はどうだったっけな……同じ陣営だったけど、アステシアはともかくアイギスは単独行動ばかりだったからあまり絡んでいないんだよな。
実は相性が悪かったりするのだろうか……俺が冷や汗を垂らしていると二人が口を開く。
「そう、ヴァイスの専属プリーストなのね、素敵じゃない!! ヴァイスは結構無理するから心配していたけどこれなら安心ね!!」
「ありがとうございます。名門貴族の令嬢が友人とは心強いですね。ヴァイスの良き友人であってください」
二人は見つめ合って目を輝かせる。え、無茶苦茶良い感じなんだけど!! 一体どうしたというのだろうか? 俺が怪訝な顔をしていると、アイギスがなぜか嬉しそうに言う。
てか、アステシア敬語使えたんだな!!
「だって、この人からはあなたへの感謝があふれているんですもの。きっと私の時みたいに辛い状況から助けてあげたんでしょう? だったら、私と同じですもの。仲間よ!!」
「あなたもこの人に助けられたんですね……ヴァイスって、女の子を助けてばかりいるのかしら?」
「いや、何か俺が女癖が悪いみたいなこというのやめてくれない!?」
無表情にろくでもない事を言うアステシアにツッコミを入れると、二人はクスクスと笑いあった。なんだろう……からかわれている気がする。ロザリア助けてくれぇぇぇと思っていると、アイギスが小さく咳ばらいをして、アステシアの方を振り向いた。
「その……よかったらなんだけど、アステシア……これからたくさん会うと思うし、私と友人になってくれないかしら? 同じヴァイスに助けられた者同士として……」
「それは構いませんが……私は平民出身ですよ? 貴族の令嬢とお友達何て恐れ多くて……」
アイギスが助けを求めるような目で、アステシアが困惑した様子で、こちらを見つめてくるので、俺はほほえましいものを見るように微笑みながら、助け舟を出す。
「いや、アステシアは俺には友達みたいな感じで接しているじゃん。アイギスは寂しがり屋さんだからな、平民とか関係なく同世代の友達が欲しいんだよ」
「言い方を気をつけなさい!! あなたが信用しているこの子なら私も信用できるし、クールでかっこいいから仲良くなりたいなって思ったの!!」
「だって……あなたは最初は冒険者を名乗っていたじゃないの。それに貴族って感じがしないし……でも、そうね……クールでかっこいいか……そんな風に言ってもらえた嫌な気持ちはしないわね。よかったら私の方からもよろしくお願いします」
「ありがとう!! 私のことはアイギスでいいわ!! あと敬語も無しなんだからね!!
アステシアの言葉にアイギスが嬉しそうに叫ぶと、アステシアもまんざらではなさそうに頬を赤くする。他人に褒められるの慣れてないからなアステシアは……それよりもさ……俺は目の前の光景に思わず笑みをこぼす。
「くっくっく」
「どうしたのよ? いきなり変な声をあげて……薬の調整を失敗したかしら……」
「いやいや、なんでもないさ。二人とも楽しそうで良かったなって思ってさ」
そう、俺は推しが幸せそうにこうして喋り合っているのを見て興奮のあまり、声を漏らしてしまったのだ。
「それは……あなたのおかげよ、だから何かあったら言いなさい。ブラッディ家の名にかけて力を貸すと誓うわ」
「私も……あなたには大きな借りがあるもの。あなたのためならば何でもするわよ」
二人とも幸せそうな笑顔を浮かべてそんなことを言ってくる。ちょっと嬉しすぎるな。だけど、何でもか……そういえば、二人ともお礼をしてくれるって言ってたな……今ならば夢が叶るかもしれない。
「じゃあ、二人ともさっそくいいか」
「え? いきなり二人で……そういうのはその……お茶会とデートを何回もやってから……」
「あなたね……なんでもとは言ったけど限度が……」
なぜかもじもじしている二人を無視して俺はお願いをする。
「鏡の前に立って、戦闘前のポーズみたいなのを取ってくれ。そして、俺が前に立ってリーダーっぽくポーズをとる。そう、これだ!! 夢に見た光景!! 俺の理想のパーティー編成!! くっそぉぉぉぉぉぉ!! スクショ機能があれば……脳内に直接焼き付けるしかないのか……」
「「は?」」
俺の言葉に顔を真っ赤にしていた二人は、そろって怪訝な顔をしながらもポーズをとってくれ、俺はそれを見て思わず叫び声をあげる。
無茶苦茶ハイテンションになっている俺を横目に、アイギスが不満そうな声を上げる。
「これには何の意図があるのよ!! 私はもっと違うことを頼まれちゃうかなって覚悟していたのに……」
「説明しよう。本来仲間にならないヴァイス、アイギス、アステシアという俺による推しのドリームパーティーを編成画面風のポーズをしてもらって脳内に焼き付けたんだよ。わかるか、悪役推しの俺がどれだけこれを渇望したかを!! それが今夢にかなうんだ。頼むからもうちょっとでいいから付き合ってくれぇぇぇぇぇ!!」
オタク特有の早口で返すが二人の反応は冷たいものだった。何言ってんだこいつ……みたいな感じである。
「ねえ……アステシア、こいつの健康状況本当に大丈夫なの? 変な薬とかやってない?」
「今朝は異常はなかったはずだけど……何か変なものでも食べたのかしら……それとも、ハデス教徒の呪い? 状態異常の回復魔法を使って、念のために下剤も用意するわ。とても苦いけど我慢しなさいな」
無茶苦茶テンションの高い俺と反比例するように二人が冷たい目で見つめてくるため、俺も冷静になってしまった。
やっべえー、つい興奮のあまり編成画面とかスクショとか言ってしまった。でも、しかたないじゃん。夢が叶ったんだぜ!! ゲームでは絶対叶わないパーティー今ここにあったのだ。これでたぎらない人間がいるだろうか!!
とはいえ誤魔化さないと、正常なのに変な薬を飲まされそうである。
「ヴァイス様……失礼します。少しいいでしょうか?」
二人の痛々しい視線を感じながら、俺はどう言い訳しようと悩んでいると救世主がやってきた。ノックと共に扉を開ける彼女に返事をする。
「どうしたんだ。ロザリア!!」
俺が駆け寄ると彼女は俺の耳元でほかの二人には聞こえないように囁く。
「探していた奴隷密売グループの拠点を発見したそうです。どう対処いたしますか?」
「そうか……よくやった。さっそく潰しに行くぞ」
ようやく、バルバロの残した負の遺産の処理が進むのだ。俺はロザリアに出兵の準備を命じるのだった。
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「どういうことだよ!! お前らの仲間が何とかするって言ってたのにさぁ!! よりによって僕の領地で十二使徒の一人に怪しまれたんだぞ!!」
ヴァサーゴの叫び声が屋敷に響く。彼の手には十二使徒からの領地内の調査をするという命令書が握られていた。
そう……命令書だ。近いうちに王都から調査員がやってくるだろう。証拠が見られるような馬鹿な真似はしないつもりだが、ここにいる奴隷たちの処分はしなければいけないだろう。
「落ち着いてください、ヴァサーゴ殿。むしろこれはチャンスです」
「チャンスなものかよ!! お前の仲間もやられたんだろ? なんでそんなに冷静なんだよ!!」
「ふふ、我々はハデス様のためにのみ生きています。あのお方の復活のために役立てるならば……こんなに幸せな事はありません。そして……エミレーリオも今頃は幸せを噛みしてめているでしょう」
ヴァサーゴの言葉に……フードの男、ハデス教徒はどこか恍惚とした表情で言った。その様子に異質なものを感じながらも、ヴァサーゴはフードの男に問う。
「……それでどうするんだ?」
「我々が狙っていた女が隣のハミルトン領に行ったという情報があります。そして、私たちの神の予言ではハミルトン領からハデス様の支配に抗う人間が現れると予言が下っています。私たちとしてもハミルトン領は目障りなのですよ。ですから、あそこをヴァサーゴ様の支配下にしてもらおうと思います。本当でしたら無能な領主を傀儡にして、バルバロ達のような小悪党たちに支配させるつもりでしたが……」
「ヴァイスのやつか……あいつが有能なんじゃない!! ただ運がよかっただけだろ」
「もちろんです。私もあの少年は昔、見たことがありますが、特別な才能何て有りませんでした。ですからどこかの神の加護を得たのでしょう」
自分よりも劣るはずのヴァイスがアイギスといい感じであるということにイラついていたヴァサーゴは、ヴァイスの名前に過剰に反応する。
そんな彼を見つめながらフードの男はそう言ってにやりと笑う。
「ご安心ください……私たちはハミルトン領を滅ぼすための策を何個も考えています。そして……あなたを英雄にする方法も……英雄となれば武官であるブラッディ家の娘もあなたの事が気になるのではないでしょうか?」
フードの男はヴァサーゴの耳元でこれからの計画を囁く。それは……なんとも魅力的で、彼もうまくいくとおもえるようなものだった。
「ああ、そうだな……それに僕にはお前らからもらった魔剣がある。ブラッディ家の貯蔵していた魔剣の中でも強力なものがな」
ヴァサーゴはにやりと笑う。ブラッディ家ほどではないが彼の家系も武官の家系である。まともにたたかえばヴァイスや、彼らの兵士になんて負けないだろう。
そして、戦場で活躍すればアイギスだって僕の事を見てくれるに違いない。明るい未来を夢見て彼はにやりと笑う。
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