第42話 ヴァイスとプリースト
「それでは、この書類をもってしてアンジェラ……お前を神霊の泉の管理者とする。問題はないな」
「ええ、もちろんさ。あんたには世話になったからね。その……本当にありがとう。色々と悪い噂を聞いてたからロザリアから紹介された時は心配だったけど、あんたに相談して本当によかったよ」
「あはは、当時も頑張っていたんだよ。そんな事を言わないでくれって」
「ああ、そうだね、ごめんごめん。噂があてにならないってことは私が一番よく知っているっていうのにね……」
俺の言葉にアンジェラが申し訳なさそうに頭を下げる。神霊の泉から帰宅して、数日、俺はたまっていた仕事の処理と、黙って遠征していたため遊べなかったので、無茶苦茶拗ねてたアイギスの対応に追われて、ようやく落ち着いたのでアンジェラを神霊の泉の管理者にする手続きをしたのだ。
これで、教会の横やりはなくなり、泉の水の使用料などで、財政も改善されるだろう。それに……将来、流行るであろう病に対する治療薬と、ゲームと同様に高性能なポーションも作れるようになるはずだ。
「あんたのおかげであの子の笑顔をまた見れたよ、本当によかった……」
アンジェラは少し涙ぐみながら言った。彼女はアステシアのために冒険者になったりもしたんだ。相当嬉しかったんだろう。まあ、俺も推しが幸せになったのだ。嬉しさでは負けていないけどな!!
アステシアは今はアンジェラと共に教会にいるらしい。ちなみにロザリアにこっそりと二人の様子を見に行ってもらったところ、楽し気に教会で子供たちの相手をしていたらしい。
「それで……アステシアは元気にしているのか?」
「ああ、もちろんさ。それで……やりたいことが見つかったって言って、教会を出て行ったよ」
「は? 出て行ったのかよ? 聞いてないぞ」
予想外の答えに俺は間の抜けた声を上げてしまう。いや、確かに自分の道を見つけろとは言ったけどさぁ……なんか俺に一言くらいあってもいいんじゃない?
結構仲良くなったと思ったんだけどな……それとも嫌われてたのか? やはり泉で覗こうと一瞬悩んだのがばれたのか?
「さあ……あの子は恥ずかしがり屋だからね。そんなことよりもさ、訓練場を見せておくれよ、来たついでだ。怪我をした人がいたら治療をしてあげるよ」
「あ、ああ……」
俺はショックを引きづりながら彼女と共に訓練場に向かうことにした。まあ、確かにうちには治療魔法を使えるプリーストは少ないから助かるんだけどさ……アステシアまじか……という気持ちが大きいのだ。
訓練場では一人の槍使いが、複数人の屈強な男を相手に斬りあっていた。複数の相手だと言うのに、魔法と槍を駆使してむしろ圧倒している。
「相変わらず、あの子の槍さばきはすごいねぇ。あんたも心強いでしょう」
「ああ、俺の自慢のメイドだからな、彼女にはいつも助けられているよ」
アンジェラの言葉に俺は少し自慢げに頷いた。もちろん槍使いはロザリアである。彼女は最近メイドをしつつ鍛錬をこなしているのだ。
この前の戦いでダークネスやエミレーリオを相手に後れをとったのを気にしているのだろう。申し訳なさそうに、「一緒にいる時間は減りますが、私に修行の時間をください」と言ってきたのはまだ記憶に新しい。相手は十二使徒なのだ、ゲームでいうボスクラスである。そんなに気にしなくてもいいのに……とも思うんだが……
だけど、俺も彼女に心配させないようにもっと強くならないとな。
「そういえばあんたには専属のプリーストはいないのかい? 領主だったらいてもおかしくはないと思うんだけど?」
「専属……? 兵士の中には何人かプリーストはいるが……」
俺が怪訝な顔をすると、アンジェラは少し呆れたとばかりに溜息をついた。どうやら常識だったようだ。
「そうじゃなくて、あんたの専属だよ。傷の治療だけじゃなくて、病気とかも見るのさ。私達プリーストの治癒魔法は傷は治せても病は治せないからね。病に対しては四六時中一緒にいて、薬とかも調合したりするのさ。お偉い貴族様だとそれぞれの分野のスペシャリストを抱えているもんだよ」
「ああ、そういう事か……」
前世で言うかかりつけの医者みたいなものか……そういえばゲームでは聖女が主人公の体調不良の時に薬を調合したり、場合によっては食べ物まで管理をしていたな……
そのせいか聖女はゲーム内アンケートで彼女ズラするヒロインランキングNO1だったっけ……
「残念ながらそんな余裕はないさ。ただでさえプリーストは少ないんだ。専属なんて雇っている余裕はないんだよ。それに食べ物ならロザリアが作ってくれるしな……それともアンジェラがなってくれるのか? 金はあんまり払えないぞ」
「悪いね、私は教会の子供たちの方があんたより大事なのさ。まあ、戦いになったら手伝いくらいはするけどね。でも……」
彼女は一度言葉を切って、なぜか意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんたは領主様なんだ。なにかあったら困るだろ? ちょうどいい人間がいるんだよ。給料よりもあんたの元で働けるっていう方が大事っていうあんたに惚れこんだ人間がね」
「はぁ……そんなやついるはずが……」
「別に惚れているなんて言っていないでしょう。変な事を言わないで欲しいわね」
俺とアンジェラの会話にフードを被った少女が慌てて走りながら割り込んできた。てか、訓練場の隅っこからでてきたんだけど、ずっと隠れていたんだろうか?
「どうしたんだ、アステシア。やりたいことが見つかったんじゃなかったのか? 俺に何も言わないで旅立ったって言われたから寂しかったんだぞ」
「ふぅん、私がいなくなって寂しかったの。それは……その……あれよ……びっくりさせたほうがいいってアンジェラ姉さんが……」
俺の言葉をなぜか彼女は繰り返し、無表情だが顔を赤くしてから、助けを求めるようにアンジェラを見つめた。
「この子はね、あんたの専属のプリーストになりたいんだって。もちろん給金は払ってもらうけどね……正規の学校を出ているから薬の知識も豊富だし、かつて聖女候補だったんだ、治癒魔法の腕前も保証するよ」
「え、マジか? 俺が助けたからって責任を感じなくていいんだぞ。アンジェラが神霊の泉の管理者になった時点で借りはもう返してもらったんだ。だからアステシアは自分の生きたいように生きていいんだぞ」
俺が信じられないとばかりに、声を上げると、彼女のは真剣な瞳で俺を見つめてくる。少し口ごもった後に、意を決したように口を開いた。
「あなたは私に言ったわよね。神様の導きではなく、自分のやりたいことをやれって。私は、あの後色々考えたわ。邪教の連中に復讐をしようかとも思ったし、私の様に苦しんでいる人がいたら助けたいとも思った。でも、どうすれば良いかわからず悩んでいた時にあなたの顔が浮かんだのよ。あなたなら私の様に苦しんでいる人を助けてくれるでしょうし、邪教の味方をしたりはしないでしょう」
「ああ、それはそうだが……だったら別に俺の専属にならなくてもいいんじゃないか? もっと有力な貴族もプリーストなら募集しているぞ。なんならラインハルト様に紹介状だって書くぜ」
俺の専属となれば、行動範囲も俺の領地内と狭まってしまうし、まだまだ権力も低い。だったらラインハルトさんの力を借りたほうが……と思ったのだが、なぜか、アステシアは複雑そうな顔をして、アンジェラは呆れたとばかりに頭をかかえる。
「アステシア……この男にはちゃんと言わないと通じないよ。だだでさえあんたは口下手なんだから……ちゃんと自分の気持ちを全て言わないとだめじゃないか」
「うう……わかったわよ……私はあなたに恩返しをしたいの。ううん、あんたの傍で支えて、あんたの作る国を見たいのよ。それは貸し借りとかじゃない。私が今一番したい事なのよ!! だから……専属プリーストとして雇ってください。お願いします」
そう言ってちょっと顔を赤くしながら頭を下げるアステシアのお願いを断る事なんてできるだろうか?
ゲーム後半のボスクラスの彼女が仲間になるのは戦力的には無茶苦茶ありがたい。
だが、推しになった上に推しと一緒に行動とか俺の心臓は大丈夫だろうか? どうしようかと悩んだ俺だったが、アステシアの熱い視線を受けて気持ちを決めた。これまで色々な人に拒絶され続けていた少女がこんなにも本気で俺といたいと言ってくれるのだ……
俺は推しを幸せにするためにここにいるのだ。自分が、まだ、アステシアにふさわしくないと思ったのならばその分、成り上がればいいだけなのだ。ヴァイスと俺ならばそれくらいできるに決まってる。
「ああ、もちろんだ。これからは頼むぜ。アステシア」
「ありがとう……あなたなら約束を守ってくれると思ったわ」
「約束?」
「ええ、だって言ったじゃないの。そそのかした責任はとってくれるって」
そう言って笑った彼女の笑顔はまだ少し硬かったけどすごい美しく、幸せそうだった。
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ヴァイス=ハミルトン
武力 45→50(日々の鍛錬によってアップ)
魔力 70→75(日々の鍛錬によってアップ)
技術 28→30(日々の鍛錬によってアップ)
スキル
闇魔術LV2
剣術LV2
神霊の力LV1
職業:領主
通り名:普通の領主
民衆の忠誠度
25→40(安定した統治によってアップ)
ユニークスキル
異界の来訪者
異なる世界の存在でありながらその世界の住人に認められたスキル。この世界の人間に認められたことによって、この世界で活動する際のバットステータスがなくなり、柔軟にこの世界の知識を吸収することができる。
二つの心
一つの体に二つの心持っている。魔法を使用する際の精神力が二人分使用可能になる。なお、もう一つの心は完全に眠っている。
(推しへの盲信)リープ オブ フェース
主人公がヴァイスならばできるという妄信によって本来は不可能な事が可能になるスキル。神による気まぐれのスキルであり、ヴァイスはこのスキルの存在を知らないし、ステータスを見ても彼には見えない。
神霊に選ばれし者
強い感情を持って神霊と心を通わせたものが手に入れるスキル。対神特攻及びステータスの向上率がアップ。
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