第38話 十二使徒の力
エミレーリオの加護は見た人間の記憶の表層を探って、誰かに変化することができるのだ。おそらく俺かロザリアの思う最強を探ってその身を変えたのだろう。
ちなみにゲームでは主人公化けるので、主人公には一切装備をさせない全裸スタイルで攻略をするのが鉄則だった。だって、あいつ主人公しか持てない聖剣とかも使ってくるんだぜ。厄介極まりないんだよな
「俺には化けないんだな」
「当たり前じゃないか、誰が君のような弱者に化けるんだい!!」
「雑魚……? ヴァイス様は雑魚じゃありません!! ブチ殺しますよ!!」
エミレーリオからは先ほどまでの下品な雰囲気すら消えて、罵倒にもどこか気品がただよっている。俺の隣でロザリアが静かにキレているのがちょっと怖い。実のところラインハルトさんと戦ったことは何度かある。もちろん、俺一人ではない。ロザリア、カイゼルの三人で同時に挑んでも歯が立たなかったのだ。
どうでもいいが、こいつの能力があればもう一人のヴァイスとちゃんと会話ができるんだよな……
「ヴァイス様隠れてください。あなたの事は私が守ります!!」
「ロザリア、俺も戦う。一緒に頑張るって言ったろ!!」
「ですが、こいつは……」
「ははは、女性は最後だ。まずは君から刻んであげよう!!」
地面を蹴る轟音と共にラインハルトさんの姿をしたエミレーリオの姿が消え去った。目にもとまらぬ速さで俺の方に来ているのだろう。
「ホワイト!!」
「きゅーーーーー!!」
俺が叫ぶとともに胸元に隠れていたホワイトが顔を出す。そして、俺は心配そうにしているロザリアを安心させるように微笑みながら王級魔法の詠唱の準備に入る。
もちろん、俺の魔法では今のエミレーリオを捕えることはできない。だけど……それでいいのだ。彼の動きを止める人物は他にいるのだから……そして、金属のぶつかり合う音が響く。
「なん……だと……?」
エミレーリオの一撃をこれまで潜んでいたダークネスが受け止めた。
「ふはははははは、このダークネスを舐めてもらっては困る!! 感謝するぞ、ヴァイス、ロザリア!! 貴公らが時間を稼いでいてくれたおかげで、わが身は既に風を帯びている!!」
風の魔法でステータスを上げまくったダークネスとエミレーリオが斬り合う。凄まじい速さで、剣戟をぶつけあっているのだろう。
残念ながら俺には目で追う事すらできない。ダークネスめ、さっきは全然本気じゃなかったな。ロザリアですらかろうじで、追えているといったレベルだ。だけど……それで十分だ。
「ロザリア!! いけるな!!」
「はい、もちろんです!! ヴァイス様!!」
「常闇を司りし姫君を守る剣を我に!! 神喰の剣!! ダークネス。いまだ!!」
圧縮された闇がロザリアの槍を包み込む。これで彼女の槍に俺の魔法が宿ったはずだ。俺だけでは攻撃は当てられないが、ロザリアならできる。
「承知した。今見せよう!! わが真の力をな!! 剣よ、風竜の加護の元、舞え!!」
「なんだ、これは?」
「これこそ、わが師に打ち勝つために編み出した秘技人呼んで!! ダークネススペシャルである!!」
ダークネスが左手の剣を投げるとともに、剣が宙を舞いながら、意思をもっているかのようにして、エミレーリオをに襲い掛かる。すげえ、ファンネルだ!!
、そして、ダークネスの必殺技で隙がでた瞬間にロザリアが槍をふるい、エミレーリオの腕をかすめた。
そうかすめただけだった。
「あぐあぁぁあぁぁ!!!!??」
それだけで、片手の擦り傷から漆黒の闇が広がり、一瞬にして食らいつくす。冥界の姫君は生者の生命にどん欲だ。やつがとっさに片腕を切り落とさなかったらそのまま息絶えていただろう。
そして、その行動を隙を見逃がすダークネスではなかった。
「風竜の爪よ、我が敵を刻み殺せ!!」
彼の一撃がエミレーリオの腹部を貫いたかと思うと、その剣から風の刃が溢れ出して、エミレーリオの体全体を切り刻みながら吹き飛し、壁にぶつかって嗚咽を上げる。流石は十二使徒といったところか、上級魔法を当たり前のように使いやがるな。
「なんで……俺は最強の男ラインハルトに変化したはずだぞ……」
「違うよ。お前が模倣したのは、俺が戦った手加減してくれたラインハルト様だ。本当のあの人はこんなもんじゃないさ」
「ふはははは、君の鑑定スキルは彼の加護を完全に見抜いていたのだな。だから、私に気配を隠させていたのだろう!! やるな、ヴァイス!! 私の友を名乗る権利をあげようではないか!!」
意気揚々と叫びながら風の魔法が宿った二本のナイフを投げるダークネス。そのナイフはエミレーリオの喉と眉間に突き刺さる。これで絶命しただろう。とりあえず俺の力を鑑定と勘違いしているダークネスの事は放っておく。ゲームの知識と言っても信じてもらえないだろうからな。
おそらく本来のゲームだったら、ダークネスが思う最強にあいつは化けて、彼を殺すことができたのだろう。
だが、今は違う。勝ったのは俺達だ。誰も死なずにしかもアステシアを……そう勝ち誇った時だった。王級魔法をつかったせいか、体がふらつく。
「流石です、ヴァイス様!! ですが、あまり無理をしないでくださいね。ホワイトちゃんも心配してますし……それ以上に私が心配しちゃいますから」
ふらついた俺をロザリアが支えてくれる。柔らかい感触と彼女の甘い匂いが俺の頭痛を和らげてくれるようだ。
特訓はしているとはいえ、今回はロザリアの槍に王級魔法を纏わせるという荒業を使ったせいか、ハデスと戦った時より精神の消耗が激しい様だ。万が一にも魔法が暴走して、彼女を傷つけないように、コントロールに無茶苦茶きをつかったからな……
「ああ……悪かった。でも、大丈夫だよ」
「そんな顔をして言われても説得力はありませんよ」
「きゅーきゅー!!」
ホワイトが元気づけるかのように俺の頬を舐めると心なしか、精神的に楽になった気がする。俺が何とか一人で立ち上がろうとすると、天井の一部が降ってきやがった。
よく見ると柱にひびが入っている。これってまずいんじゃ……
「おっと……つい本気を出し過ぎてしまったようだな。壁だけでなく柱ごと破壊してしまったようだ。優秀すぎる自分が怖いな」
「お前な!! ってロザリア!?」
俺はいきなり抱えられて、驚きのあまり叫んでしまう。てか、これってお姫様抱っこじゃ……
「安心してください。ヴァイス様。あなたの事は私は必ず守ります。それにこうして、抱きしめているとあなたが私の傍にいると安心するんです。このままでは私の知らないどこかに行ってしまいそうで……」
「ロザリア……」
どこか寂しそうな顔をするロザリアに俺は言葉を失う。確かに最近色々と無茶をして心配をかけすぎた気がする。言葉にはしないが不安にさせてしまったのだろう。
「ふふ、お熱いな……あれならば奴も死んだだろう。さっさと脱出するとしよう」
「あれ? でも、カタリナが……」
「ふふ、少女の事なら安心したまえ。この教会には他の人間はいなかった。周りを探索している私の部下が、今頃見つけ出しているだろうさ!!」
「そうか……よかった……」
「ヴァイス様!?」
安心したからだろうか、意識が徐々に薄れていく。ロザリアが強く抱きしめてくれているのか、暖かい……ああ、また心配させてしまうな……ごめんよ……
だけど……アステシアが闇落ちをする前に救う事はできたし、偶然とはいえ、権力を持つ十二使徒の一人とも伝手が出来た。これは中々上出来では……? そんな事を思いながらも、俺の意識は闇へと飲まれていった。
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