第37話 ヴァイスとエミレーリオ
キースは胸元からナイフを取り出して、アステシアに斬りかから……せてたまるかよ!!
「くたばれ魔女!! お前さえいなければ、マルタもカタリナも死なないで済んだんだ!!」
「え?」
「影の腕よ、我に従え!!」
背後から憎悪に満ちた目で懐のナイフを取り出して斬りかかるキースの腕を俺が放った影の手が絡み取るように掴んで動きを止める。
あっぶねーーーー!! もうちょいで大惨事になるところだった。
「ロイスゥゥゥゥ!! なんでだよぉぉぉぉ、神父様が言ったんだ。二人がいなくなったのはこいつのせいだって!! こいつがすべて悪いんだって!! だから僕
が……」
「そんな……私は……」
影に拘束されたキースの絶叫にアステシアの表情が悲しみに歪む。あのクソ神父……いや、エミレーリオめ!! キースは子供だ。理屈っぽい考えを彼はまだ持っていない。おそらく、神父に呪いのせいで嫌悪感を抱いているアステシアが犯人だといわれてそのまま信じてしまったんだろう。
「あ……あ……」
「大丈夫だ、アステシア……君は悪くない。そして、もう二度と俺がこんな気持ちにさせないと誓おう」
影の拳でキースを首を叩き気絶させた俺は急いで、絶望に満ちたアステシアを抱きしめて変な事を考えないように言い聞かせる。
前世だったら緊張してこんなことはできなかったが、今は推しのイケメンヴァイスだからな。恥じらい何て感じないぜ!! それに……彼女にはこれ以上悲しんでく欲しくなかったのだ。
「ありがとう……やっぱりあなたが私の救世主なのね……」
「え、救世主……? ロザリア!! ダメだ!! そいつは敵だ!!」
俺の胸元で涙を溜めながら抱き返してくるアステシアに困惑をしながらも、俺はカタリナを助けようと縄をほどこうとしたロザリアを制止する。おそらく、アステシアを絶望するさまをエミレーリオはどこかに潜んでみているはずだ。
だが、素のエミレーリオはそこまで強力ではない。ロザリアやダークネスが感知できないほどの隠ぺいスキルを持っていないはずだ。彼女は俺の言葉を聞いて即座に行動に移した。
「氷よ、束縛せよ!!」
詠唱と共に、カタリナが拘束されてる壁が凍り付いて、彼女がそのまま拘束される……ことはなかった。魔法が発動すると同時に、カタリナの目がカッと開かれて、拘束を解いて、そのまま飛び上がった。
そして、空中でその姿が少女のものから徐々に変わっていく
「なによ、あれ……」
「んーー!! 残念だなぁぁぁ……もう少しでかつて聖女とよばれた女の絶望顔が見れたというのに……美しい女がよぉぉぉ、泣き叫ぶのを聞くのが俺は大好きだっているのになぁぁぁぁ。それで、貴様らは一体何者だ? この俺様の加護を知っていたなぁ!!」
アステシアが悲鳴にも近い声を上げるのも無理はない。地上に降り立つころにはその姿は、少女から一人の青年へと変化していた。平均的な身長で特徴のない顔である。今、会ったというのに、すぐに忘れてしまいそうな、不気味なほどの特徴のない男は大きくため息をついた。
「まあいいぜぇぇぇ……どうせ、王都の連中だろう。予想よりも動きが早かったが……お前らはここで死ぬんだ。せいぜいいい悲鳴を上げてくれよぉぉぉ」
俺達を見つめるエミレーリオは何とも歪んだ笑みを浮かる。特徴の無い顔に浮かぶその笑みは何とも禍々しく、生理的に悪寒を感じさせる。
「お前……アステシアに全て押し付けるつもりだったんだろう。そのためにキースに変な事を吹き込んだんだな? 何でそんな事をする!?」
「ククク、どうしてだろうなぁ? 知りたかったら俺の靴でも舐めろよ。そうしたら考えてやるぜぇぇぇ。俺はよぉぉぉ、お前みたいなイケメンが大っ嫌いなんだよぉぉぉ」
俺の言葉にエミレーリオは楽しそうに不快な笑みを浮かべて、すっとぼけた。マルタや俺達……そして、彼を怪しんでいるダークネスが死んだ状態で、神父に化けたこいつがアステシアを告発をすればどうなるかは想像に難しくはない。
ましてや、アステシアは救おうとしたキースに襲われて、混乱した上に精神的に弱っていただろう。そんな彼女に反論する力が残っていただろうか……そして、それがゲームでおきたことなのだと思う。その証拠に目の前の男は否定も肯定もしない。
「ヴァイス様……」
「わかっている!! アステシア、キースはしばらく目を覚まさない。彼を連れて逃げろ」
「わかったわ。絶対死なないでね」
抵抗されるかと思いきやアステシアはそのままま、まっすぐで出口へと向かって走り出す。それと同時に金属のぶつかり合う音が響き渡る。
ロザリアが槍を振るって、エミレーリオの投げナイフをはじいたのだ。
「へえ、思ったよりやるなぁ。不意打ちは得意なんだがなぁぁぁぁ」
「ヴァイス様は本当に人たらしですね。あんなに頑固そうな女の子の心の開かせるなんて」
「ロザリアこそ、流石俺のメイドだ、頼りになるぜ」
エミレーリオの言葉を無視して彼女は俺に微笑みかける。ロザリアつええええええ!! だが、こんな状況だというのに、エミレーリオは余裕に満ちた邪悪な笑みを崩さない。
「はぁぁぁぁ、うっぜぇぇぇなぁぁぁ!! これだからイケメンと美女は嫌いなんだよぉぉぉ。どうせ、お前らはよぉぉぉ、二人でイチャイチャしてたんだろぉぉぉぉ!! 教会でのプレイは背徳的だったかぁ? プリーストさんよぉぉぉ!!」」
エミレーリオは煽るように口を開く。確かエミレーリオは顔にコンプレックスがあるんだっけな。下品極まりないが、ヴァイスがイケメンだと言われてちょっと嬉しい自分がいた……ってそれどころじゃないな。ロザリアは……無表情である。
あ、これ怒ってるじゃん。
「私とロイスの関係を下品な言い方をしないでください。こいつは……殺していいですよね?」
「いや、ちょっと待ってくれ。一つ聞いていいか? 神父の顔を剝いだのはお前だよな? なんでそんな事をしたんだ? 変身に必要だとか?」
「はぁぁぁぁぁ!!?? ハデス様の加護がそんなしょぼいわけないだろぉぉぉ。ただの趣味だよ!! あの神父はなぁ、脅迫されたとはいえ俺達の仲間になったっていうのにもう子供を売りたくないって言いだしてなぁぁぁぁ!! 生意気だろうぅぅぅ? それに、みんなによぉぉぉ、優しい顔って言われてよぉぉぉぉ、慕われていたからなぁ。ムカついたから剝いでやったんだ。みっともなかったぜぇぇぇ。最後は泣きながら「神よっ」て絶望してたぜ。ハデス様を信仰していればこんな風にはならなかったのになぁぁぁ!!」
エミレーリオはまるで、手柄を自慢するかのように得意げに言った。ああ、よかった……こいつはただの悪だ……俺の好きな悪ではないのだ。ただの屑だ。
「そうかよかった……俺はお前を推せそうになくてさ……」
「推し……? なんだぁぁぁぁ? まあいい、お前らの絶望に満ちた顔を見て剥いでやるからなぁぁ。本気で相手をしてやるよ!!そうだな……男の顔を剥いだら、そこの女はいい顔を見せてくれそうだなぁぁぁぁぁ」
「そんなことは絶対にさせませんよ!! え……?」
「なるほど……そう来たか……」
ロザリアが驚愕の声を上げるもの無理はない。エミレーリオは俺の知っている限り一番強い人間であるラインハルトさんにその身を変えやがったのだ。
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