第33話 アステシア
アステシアが俺の腰から剣を抜いて、氷のように冷たい目で見つめてくる。必死に体を動かそうとするが、マジで言う事をきかない。これがゲームで言うマヒ状態ってやつだろう。
「口だけはうごくように薬を調整したから喋れるはずよ。それで……あなた達はなんで私にこんな呪いをかけたの? そして、私の呪いはどうやったら解けるのかしら」
「……違う……俺はハデス教徒じゃない……俺は君を……」
「そう、残念ね、拷問って得意じゃないんだけど……まあ、死ななければ治せるから安心しなさいな」
うおおおおおお、やべえって!! 何も安心できないんだけど!! ああ、でも、推しのクール系闇落ち聖女な推しに刺されるのはちょっと興奮するな。でも、これは推しのヴァイスの身体だ。なるべき傷つけたくないんだよな。
そんな、絶体絶命のピンチを救ったのは意外な存在だった。
「きゅー!! きゅ? きゅーーーー!!」
「ホワイト……?」
「え? まさか神獣様……?」
扉の隙間から愛しのホワイトがやってきて、ピンチの俺を見つけると、慌てて、小さい体を広げて庇うように、アステシアの前に立ちはだかった。
なんて主人想いの子なんだ……だけど、お前を傷つけるわけにはいかないんだよ。アステシアはゲームでは神獣の加護持ちを集中的に狙うくらい神獣嫌いなのだ。ホワイトの命が危ない。
「ホワイト……逃げろ……そして、ロザリアを呼んできてくれ……」
「きゅうーー!!」
俺のお願いに反して、ホワイトはその場から離れない。どうするべきかと頭を悩ませると、アステシアは剣を置いて、まるで神にでも会ったかのように頭を垂れた。
そして、震える声で信じられないものを見るかのように言った。
「なんで神獣様が……まさか、あなた、神獣様の契約者だったの? だから……私の呪いも効かなかったの……?」
「ああ……そうだよ、できればこの毒を何とかして欲しいんだが……」
「そうね、ごめんなさい!! 神の加護よ、そのものの身を清めたまえ!!」
慌てた様子のアステシアの声と共に、俺の身体が光に包まれて、先ほどまでのマヒが嘘であるように体が動くようになった。これが治癒魔法ってやつか、すっげえな!!
「きゅーきゅー♪」
「おー、ありがとう!! 助かったぜ、ホワイト」
治癒魔法というファンタジー要素に感動していると、ホワイトが嬉しそうに俺の肩にのって、頬を摺り寄せてくる。ふわふわの毛並みが何とも心地よい。
こいつのおかげで助かったな……神獣は、教会に身を置くものとしたら神の使いでありありがたいものなのだ。そして、今の彼女はゲームとは違い、神獣をちゃんと敬っているようだ。おかげで話を聞いてくれそうである。
「本当にごめんなさい……神獣様の契約者が邪教の信者なはずないものね……そうとも知らずにあなたを疑ってごめんなさい。お詫びに何でもするわ」
先ほどまでの様子が嘘かの様に申し訳なさそうな態度をとるアステシア。ホワイトのおかげで誤解が解けたようである。てか、なんでもって、本当に何でもなんですかね!? エッチな同人誌みたいな事言ってくれるじゃん。
「ふはははは、そうだな。「ごめんなさい、私は愚かな女です、疑ってしまいもうしわけありません、ヴァイス様」といって土下座をしてもらおうか」
「ええ、わかったわ。私は……」
「いえ、すいません、冗談だって!! だから頭を下げなくていいんだよ!! 状況的に俺も怪しかったから疑っても仕方ないさ。気にしないでくれ」
本当に頭を地面に着けようとしたアステシアを慌てて止める。まあ、状況的には俺も怪しかったしな。彼女が自分にかけられていた呪いの正体を知っていたのならなおさらだろう。
「でも、自分の呪いがわかっていたのなら何で、わざわざ人と一緒に暮らしていたんだ? その……辛かっただろ」
「ええ、そうね……だけど、私はこれを試練と考えたのよ。神様は常に私達を見て、加護を下さっているわ。この邪教の呪いという試練を乗り越えれば、本当の意味で、神の加護を得る事が出来るって……そう思ったのよ。現に子供たちは変わらずだけど、神父様は少し優しくなってきたし……」
彼女はどこか誇らしげに言った。相当辛い目にあったはずなのに神が与えた試練っていう事で納得できるものなのか……? あいにく、前世では無宗教の日本人だったこともあり、神というものに対する考え方が違いすぎる。まあ、加護で魔法が使えたりするくらいなのだ。彼女たちにとっては身近な存在であり、辛い目に合ってでも信じるに値するものの様だ。
だけど……神が彼女を救う事は無いのだ。そして、それだけ、強い信仰心を持っている彼女がハデス教徒に鞍替えするなんてどれだけつらい出来事がおきるのだろうか? 何としても、そんな事から彼女を守りたいという気持ちが強くなる。
そのためにはまずは呪いを解かないとな……
「アステシア……さっきのお詫びが欲しいというわけではないが、ちょっと手を握っていいか?」
「ええ……そのくらいなら構わないけど……」
そんなことでいいの? と困惑気味の彼女の手を握り、俺はステータスを確認する。
---------------------------------------------------------------------------------------------
アステシア
武力 30
魔力 80
技術 80
スキル
神聖魔法LV3
棒術LV1
薬学LV2
職業:プリースト
神への忠誠度
98
ユニークスキル
ゼウス神の加護
ゼウス神に祝福された存在に与えられるスキル。神聖魔法を使うときに効果および、成功率がアップ。他の神の関係者と戦うときにステータス上昇
ハデス神の加護
ハデス神によって強制的に与えられた加護。ハデスの力を使えるが今は必死に抑えている。
バットステータス
ハデス神の呪い
ハデス教徒以外には嫌悪される呪いがかけられている。これに打ち勝てるのは神の祝福を得た存在のみである。
備考
優れた容姿とあいまってクールな印象を受けるが、実はコミュ障なだけである。実は本人もちょっと気にしている。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
流石ボスキャラクラスだ。ステータスくっそ高いな!! これで発展途上だというから末恐ろしい。そして……呪いに関してはビンゴだったようだ。
神の祝福を受けたもの……それはすなわち神霊の泉だろう。その証拠にホワイトと契約をしている俺は彼女に一度も嫌悪感を抱いたことが無い。俺の推しへの愛……だけじゃなかったところがちょっと残念だけど……
だけど、彼女を……推しを救えるって言うのが本当に嬉しいものだ。
「どうしたの? 私の手を握って急に黙って……? まさか、あなたも私を嫌悪するんじゃ……触れたから呪いが強力になったというの?」
押し黙った俺に、彼女の顔が一瞬歪むのを見てあわてて誤解を解く。一回味方だと思った人間が、敵にまわったってなると余計つらいよな……
「ああ、ごめん。違うんだ。君の呪いを解く方法がわかったんだよ」
「え……本当なの?」
アステシアは信じられないとばかりに目を見開いた。そして……興奮したように俺の手を握りながら問う。
どこか必死な顔をした彼女をまっすぐ見返してうなづく。
「ああ、本当だよ。俺なら……君を呪いから解放することができる」
「私の呪いが解けるのね? もう、初対面の人にごみを見るような目で見られないのね? 善意を悪意で返されたりしないのね? かつて親しかった人間に、意味も分からず、嫌われたりしないのね。もう……」
痛いくらいに俺の手を握りしめて彼女は嗚咽を漏らす。先ほどまでの無表情が嘘であるかのように、号泣する。短い間だが一緒に過ごした時はわからなかったが……いや、俺達にわからないようにしていたのだろうが、みんなに……初対面の人間や仲が良かった人間にまで嫌われて辛かったに決まっているのだ、きつかったに決まっているのだ。
彼女はこれまでその理不尽な呪いと必死に戦って……必死に耐えてきたのだろう。
「もう大丈夫だ。俺がお前を必ず呪いから解き放ってみせる」
「私……私……うわぁぁぁぁぁぁん!!??」
思わず彼女に優しい声をかけると、アステシアは涙を流しながら俺に抱き着いて胸元で嗚咽を漏らし続ける。
「辛かったよな……」
「悲しかった……寂しかったの。誰も私の周りからいなくなっちゃって寂しかったよぉぉぉぉ!!」
俺の胸の中で今までこらえていたものがあふれ出しかのように感情を露わにしたアステシアを見て、俺は思う。
ここに来て、初めて会った時もそうだったが、ゲームの彼女もいつも表情を変えなかった。部下が死んだ時も、大事にしていた孤児が殺されてもだ。
だけど、何も感じていなかったわけじゃないんだよな。ただ耐えていたんだ。ずっと耐えていたんだ。自分への試練だと言い聞かせて……ゲームで読める日記には書いてあった。ゼウス教徒だったときは、泣いたりすれば目障りだと余計嫌悪されるから、彼女は気にしていないように取り繕っていたのだ。
そして、それはハデス教徒たちの元でも変わらない。彼らハデス教徒はハデスのために死ぬのを誇りだと思っている。アステシアも、部下や、大切にしていた孤児が死んでも表情を変える事はなかった。だけど、彼女は完全にハデス教徒に染まっていなかったのため、仲間や知人が死ねば悲しみ嘆いていた。だけど、周りに心配されるため、彼女はそこでも無表情に取り繕っていたのだ。
ああ、本当に俺の推しは尊いな……そして、だからこそ、俺は守りたいと思う。
そう思って彼女を強く抱き締めると、嗚咽を漏らしている彼女に抱きしめ返される。その力はとても強く……まるで救いの手を逃がさないとばかりの必死さを感じて辛くなる。
「ロイス、大変です!! 神父様が……その……ロイスの方も大変でしたね……おモテになるのはいいですが大事な話があるので良いでしょうか?」
珍しく、ノックもせずに入ってきたのはロザリアである。彼女は慌てた表情から何とも言えない表情へと変わる。
え、なにこの視線……と思って俺は自分の状況を整理する。深夜に女の子の部屋に行き、抱きあっている……口説いているみたいじゃないかよぉぉぉぉぉ。
俺とアステシアは慌てて距離をとった。
「これは別に変な意味じゃないんだよ。な、アステシア」
「ええ……安心して。私はただ優しい言葉をかけてもらって抱きしめられていただけよ」
「なるほど……さすがはロイスですね」
アステシアのコミュ障っぷりがここで発揮されたぁぁぁぁ。何の説明にもなってねえよ。むしろ誤解されそうじゃねーかよ。
何が流石なんでしょうね? ロザリアがちょっとこわいよぉぉぉ。
「それで、どうしたんだ?」
「ちょっとこちらに来てもらえますか?」
アステシアには聞かれたくないのか、一瞬彼女に視線を送って、俺を呼ぶ。どうやら、良くないことがときたようだ。
「ホワイト、彼女を頼む」
「きゅーー!!」
「神獣様……可愛らしい……」
俺の肩からホワイトがアステシアの手の中へと乗り移ると、どこか恍惚とした表情でつぶやく。この様子なら安心だな、動物セラピーってのもあるし……
俺はアステシアの事はホワイトに任せて、ロザリアについていく。
「大変です。キース神父が何者かに襲われました。命に別状はありませんが、今は怪我をして、教会で休んでいます。襲撃者は風魔法を使ってきたとの事ですのでおそらくあの男かと……」
「まじかよ……」
俺は早すぎる襲撃に思わず冷や汗を垂らす。今まで様子をみていただけだったが、俺達が刺激を与えたせいでやる気になってしまったのだろうか?
面白いなって思ったらブクマや評価を下さると嬉しいです。




