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第30話 ヴァイスと教会

「ここの教会を管理している神父のクレイスです。ロザリア殿、信じる神の信仰を広めるための巡礼の旅をしてらっしゃるとは素晴らしいですね。そして、あなたは……」



 教会を管理しているクレイス神父はアンジェラに書いてもらった紹介状とロザリアを交互に見て……俺を観察するように見つめる。

 ここは怪しまれないように冒険者っぽく振舞わないとな!!



「うっへっへ、護衛のロイス様だ。女性の一人旅はよぉぉぉぉ。危険だからなぁぁぁ、俺様が守ってやってるんだよぉぉぉ。まあ、その代わりたんまりと金はもらってるだけどなぁぁぁぁぁ」



 前日、鏡の前で特訓した下卑た笑みを浮かべて、携帯用のナイフを手の中でくるくると回す。どうだ、メグに教わった冒険者流のしゃべりと仕草は!! これで完璧……のはずなんだけどな……

 俺はやばいやつをみつめるような神父さんと、かつてないほど顔を引きつらせているロザリアを見て思う。あれ? 俺なんかやっちゃいました?



「まあ、冒険者には色々な方がいますからな……ロザリア殿……その悩みがありましたら、聞きますぞ。さいわい私はここの冒険者ギルドにも顔が聞きますから他の冒険者も紹介できますので……」

「いえ……口は悪いのですがとっても素晴らしい方なんですよ。だからご安心を」

「そうですか、なら、良いのですが……あと、大変申し訳ありませんが、ここを使うからには働いていただきます。掃除と、孤児たちの面倒をみていただけると助かります。特に最近は物騒でして……冒険者さんがいらっしゃるとなれば心強いですな」

「任せろよぉぉぉぉ、子供は大好きだぜぇぇぇぇぇぇぇ。どう、遊んでやろうかなぁぁぁぁ!!」



 名誉挽回とばかりに俺が答えるとクレイス神父が無茶苦茶心配そうな顔をして、ロザリアに耳打ちをする。



「この人本当に大丈夫なんですかな? なんというか子供たちの将来に悪い影響を与えそうなのですが……」

「大丈夫です……その……しゃべり方もちゃんとなおしてもらいますから……」



 そんな感じで俺達は無事に教会に潜入できたのだった。




 荷物を置いた後に、俺達は教会の中庭へと案内をされた。



「こちらです。ですが、本当にお二人は一緒の部屋でよかったのですか?」

「はい、構いません。旅の時に色々とありまして……二人の方が落ち着くんです。ですよね、ロイズ」

「ああ、俺は彼女の護衛だしな」



 ちなみに喋り方は珍しく真顔のロザリアに「そういうヴァイス様も新鮮で、素敵ですが、いつもの口調に戻してください。あと、メグには罰が必要ですね……」と言われたので戻した。敬語を使っていないのが冒険者っぽさの残りというわけだ。

 でも、大丈夫かな? ヴァイスの気品とか溢れ出してないかなぁ。そんなことを考えていると外の方から子供たちの声が聞こえてくる。



「マルタは悪い奴にさらわれたかもしれないんだぞ!! だから、僕が探しに行くんだ」

「だめだって、神父様も一人で街で歩くのは危ないっていってたでしょ。それに……あの子の親が迎えにきてくれたのかもしれないじゃない」

「そんなことありえないってわかっているんだろう!!」



 先ほど足をケガして泣いていた少年と、少し年上の少女が何やら物騒な話をしているようだ。一体何があったのだろうか?



「ああ、彼らはうちの教会に住み込みで働いている孤児たちなのですよ。本当はもう一人少女がいたのですが、街に買い出しにいったっきり、姿を消してしまいまして……無事だと良いのですが……」

「そうなんですか、何事もないといいですね。何か思い当たる事はあるのですか?」


 

 悲しそうに顔をうつ向かせるクレイス神父に心配するようにロザリアが、訊ねる。

 


「ええ……ここ最近、教会の周囲を探るように見ている人影が見えていたのです。その時は気のせいだと思っていたのですが……」

「人さらいか……反吐がでるな」



 俺の言葉にクレイス神父は険しい顔でため息をついた。ハミルトン領では今は完全に取り締まるようにしているが、スラム街や孤児院から女子供を攫って奴隷にする商売が裏であるのは知っている。……そういえばここの領主はバルバロ達の奴隷販売ルートのリストに名前があったな……なんか嫌な予感がするぞ。

 クレイス神父が手を叩いてから声をかける。



「こらキースとカタリナ。お客さんだよ。挨拶をしなさい」

「……こんにちは」

「こんにちは、お姉さん。私はカタリナと言います。こちらはキースです。ちゃんと挨拶しなきゃだめでしょ」



 仏頂面で興味なさそうに返事をするのがキースと、笑顔でこちらに挨拶を返すカタリナの反応は対照的だった。カタリナに言われてしぶしぶと頭を下げるキースを見て、彼女が普段からまとめ役をしているのがわかる。



「しばらく、お世話になりますね。私はプリーストのロザリアで、こちらが護衛のロイスです。カタリナちゃん、キース君よろしくお願いしますね」



 ロザリアが子供たちの身長にあわるようにかがんで、微笑みながら挨拶を返す。それだけで、二人の警戒心が少し安らいだ気がする。

 俺もそれにならってかかんで挨拶を返す。



「俺の名前はロイスだ。冒険者をやっている。よろしくな」

「ロザリアさんは、巡礼の旅をしているんですか!! 私も将来はプリーストになりたいんです。話を聞かせてください!!」

「え、冒険者!! すげえ!! どんな冒険をしてきたんだ!?」

「これはこれは思ったよりも早くお二人は馴染めそうですな」



俺達の職業に興味を持ったのか、二人とも目を輝かして喰いついてきた。そうだよな。男の子は英雄譚とかに出る冒険者に憧れるよな。

 俺も前世でも子供の頃はみんながゲームの勇者や漫画の主人公に憧れるのをみてきたものだ。まあ、俺は踏み台になるかませ犬やライバルキャラとかに憧れていたんだけど……

 しかし、その和やかな雰囲気も足音共にやってきた少女の存在によって霧散する。



「クレイス神父様、掃除が終わりました」

「ああ、ありがとう。お疲れ様」


 

 もちろん、アステシアである。彼女に気づいた俺以外の人間がみんな顔を歪める。その様子に彼女はというと……相も変わらず、無表情である。



「ちっ、嫌な顔を見ちゃった」

「こら、キース……彼女も大事な教会の一員だろう。神様は信じるものみんなに優しくといっているじゃないか!!」

「確かにゼウス様はそう言っているかもだけどさ……神父だって、前はこいつがいない時に文句を言ってたじゃないか。最近は少し優しくしているみたいだけどさ……」



 キースが不満そうにわめいて中庭を走って行ってしまった。カタリナも先ほどとは違いキースの失礼な態度を注意することなくその後に続く。その様子を眺めながら、アステシアは無表情のままどうでもよさそうに俺達に視線を送って最低限の挨拶をする



「別に私は……気にしていないわ。アステシアよ。よろしく」



 その様子はまるで世界そのものに興味がないように感じる。だけど……ゲームをクリアした俺は彼女の本心を知っている。子供たちの時とは違い、ロザリアが動かないので俺が先に挨拶を返す。



「初めまして、俺は冒険者のロイスだ。よろしく」

「……初めまして、私はロザリアです。よろしくお願いします」



 俺に続いてロザリアが表情が固いながらも笑顔を浮かべる。そして、俺はなるべく彼女に嫌っていないという事をアピールするためにウインクをする。



「あなた……まさか……いや、そんなはずはないわね。それではお祈りをしていきます」



 俺の様子に信じられないとばかりに目を見開いて……ぶつぶつと呟くと彼女はすぐに踵を返していってしまった。だけど、一瞬だけど彼女の無表情が崩れたのを俺は確認した。

 これで、俺が彼女の味方だとわかってくれればいいんだが……



「すいません、彼女は……ちょっと変わっておりまして……不愛想ですが、仕事はきちんとやってくれますので」

「いえいえ、お気にしないでください。私も失礼な態度を取ってしまいましたし……」



 クレイス神父の申し訳なさそうな言葉に、ロザリアが答えるのをよそに、俺はみんながアステシアに対して、あんな態度を取ったり、彼女が不愛想になってしまったのは全てが呪いが原因なんだといいたくなるのを必死に抑える。

 アステシアの才能に恐れを抱いたハデス教がかけた呪いそれは……『ハデス教信者以外のすべてに嫌われる』というものなのだ。俺は推しへの愛と、神獣であるホワイトと契約したおかげで、呪いに抵抗があるのか効果は薄いようだけどな……

 だからこそ、ロザリアですら、挨拶をするのをためらい、キースの様な子供は嫌悪感を隠せないのである。そして、このまま人々に嫌われた彼女は、絶望して、自分を人間扱いしてくれたハデス教の一員になってしまうのだ。

 心配するなよ。アステシア……俺がお前を救うよ。俺は推しを救うために転生したのだから

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