第18話 ヴァイスとアイギス
あの後動揺したアイギスが落ち着くまで別室で休憩させることになった。ナイアルには悪いがバタバタしていることもあり帰ってもらった。
ロザリアに「ヴァイス様が女の子を泣かすような男になってしまうなんて……」と無茶苦茶な誤解もされてしまったがあとで誤解を解いておかなくては……
しばらくして、ロザリアからアイギスが呼んでいると聞いたので、俺は客室の扉をノックして声をかける。
「アイギス様大丈夫ですか?」
「ええ、もう落ち着いたわ。入ってきて大丈夫よ」
俺が入ると彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。先ほど動揺したことを恥じているのだろう。そして、涙の後がどこか痛々しい。
「その……ごめんなさい……ヴァイス……」
「いえいえ、気にしないでください。予想外な事がおきると動揺しますよね。それで、信じてもらうのは嬉しいんですが、気を付けた方がいいですよ、自分で言うのも何ですが、俺がでまかせを言っている可能性もあるんですから」
精神的に追い詰められているのだろうが、迂闊に人を信じすぎても、今後まずいだろうと思い注意をする。その結果がゲーム本編での闇落ちになるのだから……
しかし、彼女は俺の言葉に首を横に振った。
「あなたは……優しいのね。でも、その心配はないわ。私だって信じる相手は選びたいもの……それに、少なくともあなたは本当に治療効果があると思っているのでしょう? 違うかしら」
「まあ、そうですが……まさか、アイギス様……」
やたらと確信持った彼女に俺は違和感を持つ。ゲームでは戦闘中しか使えなかった魔法なども、日常で使い別の方法で役立てることはできる。それならば彼女のもつスキルも同様ではないだろうか? そんなことを思っていると、彼女はどこか悲しい笑みを浮かべた。
「ええ、私のスキルに心眼ってものがあるんだけど、相手の動きと……表情で相手が嘘をついているかどうかがわかるのよ。さっき謝ったのは、迷惑をかけたこともあるけど、あなたの事を信じなくてごめんなさいっていう意味だったの。みんなすぐにあきらめたから、まさかあなたが本気で探してくれているって思わなくて……」
そう言うと彼女は素直に頭を下げる。ああ、だから中庭で俺が影に押し込んだ時に素直に応じたのか。害をなす気がないとわかったから抵抗をしなかったのだろう。
「あ、でも……私の心眼も意識しないと使えないからいつも嘘かわかるわけじゃないの。だから……」
「大変でしたね、アイギス様。きっとその力で苦労したこともたくさんあったでしょう」
彼女の境遇を思うとついそんな言葉が出てしまった。人の嘘がわかるというのはどれだけ残酷な事だろうか? 特に貴族は本音や建て前ばかりの世界だ。ゲームでも彼女はそういう腹芸などはあまり得意ではなかったのだ。そんな彼女にとっては人間不信のきっかけにすらなるだろう。
それに……今の彼女の母の件で利用しようという人間がたくさん話しかけてきたはずだ。そう思うと、何とも言えない気持ちになる。
「え……? あなたは気持ち悪がらないのね……そんな風に言われたの初めてよ……その、ありがとう」
俺の言葉に驚いたように目を見開いている彼女が、初対面の他人に対して『嫌いよ』と言っていたのは、他人に期待をしないようにという事なのかもしれない。だって、信じようとした相手が嘘つきだったら……裏切られ続けたらもう誰ともかかわらないようにしようと思ってしまってもしかたないのではないだろうか?
そんなの辛いに決まっている!! そんな彼女に何かできることはないだろうかと考えると自然と口から言葉が出た。
「いえ、力を持つのも大変だなって思っただけです。年も近いですし、良かったらこれからも仲良くしてください」
「ふふ、あなたは本当に変わってるわね」
彼女はゲームでも見たことの無いような眩しい笑顔を浮かべた。可愛いな……俺は一瞬胸がドキリとしたのを感じてしまった。
それにしても、アイギスの心眼にそんな能力もあったとはな……ゲームでは戦闘で回避力があがるというクソ厄介なスキルだったが、日常でも強力な効果を持っているんだな。俺の魔法による影の手も荷物を取ったりと色々と用途があるし、ゲームと違い現実では魔法やスキルは日常用の使い方があるという事だろう。
「それで……仲良くしてくれるなら一つだけお願いがあるんだけどいいかしら?」
「はい、俺にできることでならば大丈夫ですよ」
「じゃあ……その……私と友達になってくれるかしら」
そう言って彼女は少し震えながら言う。その顔は真っ赤になっており、彼女なりに必死に勇気を振り絞ってくれたのだろう。
ゲームで誰にも心を開かなかった彼女にそんなことを言われるのは正直予想外で……だけどとても嬉しかった。
「もちろんですよ、アイギス様。俺でよければお願いします」
「そう……ありがとう。じゃあ、私の事はアイギスって呼んで。あと……あなたが困った時は何でも言ってね。私もできる限りのことはするわ」
「ああ、よろしく頼む。アイギス」
そして、俺達は友人となった。その後も、しばらく談笑して仲良くなれたと思う。彼女は意外にも喋るのが好きみたいで、俺は色々と彼女について知ることができた。それは彼女は父にひたすら剣を習っているとか、戦う事も大好きだけど、実は料理を作るのが好きで、特にお菓子が得意らしいとか……ゲームでは知ることの無かった情報を知ることができて本当に心を開いてくれているという事がわかり嬉しかった。
そして、迎えが来たこともあり彼女は帰路につくことになった。
「じゃあ、ヴァイスまた来るわね」
「はい、お待ちしていますよ、アイギス様……あれ? 無茶苦茶機嫌悪くなってますね……」
別れの挨拶をするとなぜか彼女は不機嫌そうに唇を尖らした。あれ、俺なんかやっちゃいました?
「敬語は使わないでって言ったのに……アイギスって呼んでって言ったのに……」
唇を尖らして睨んでくる。そこかよぉぉぉぉぉ!! ブラッディ家の従者さんの様子を見たが彼は苦笑しながらうなづいてくれた。アイギス様の……いや、アイギスの言うとおりにしていいという事だろう。
「ああ、アイギス。じゃあ、例の話が進展あったらまた連絡するよ」
「ええ、ありがとう。でも大丈夫かしら? 元はうちの問題だし、うちの兵士を貸すわよ」
「いや、魔物が出るからね、少人数の方がいい。俺とロザリア……あと、ナイアルで行くから大丈夫だよ。ロザリアはすっごい強いんだぜ」
得意げに俺が答えるとなぜか彼女は眉をひそめた。一体どうしたというのだろうか?
「ナイアルってあのへらへらした男よね」
「ああ……そうだけど」
「じゃあ、私も行くわ。出発する時になったら言いなさい。お父様から戦い方は習っているから足手まといにはならないわ」
「え……マジで?」
俺の言葉には返事をせずに彼女は難しい顔をしたまま馬車に乗って行ってしまった。一体どうしたんだろうか?
まさか、友人のナイアルを連れて行くのに自分をつれていかないからって拗ねてしまったのだろうか?
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