第6話「クラン」
シャルケは僕に駆け寄ってくる。
決闘が終了したからか、装備武器が消えた。街中では試合か決闘でないと武器が顕在化されない仕様になっている。
「あいかわらずすごいね! ティターニアの時とかわらないんじゃん!」
「いや、僕はまだまだだと思うよ」
「それに! 何その装備! 拳銃とナイフを同時に装備するなんてできるんだ!」
「本当は二刀流がよかったんだけど、【二丁拳銃】スキルだと両方ナイフは無理だったんだ」
「そうなのかあ……」
一瞬明るくなったシャルケの顔が、またしょんぼりとしたものになる。どうしたんだろう。
「やっぱり、ジョブのこと……うらんでる?」
「いや、もう気にしてないよ。この【工兵】もなかなか面白いからね」
シャルケの顔がぱぁっと明るくなる。
このままシャルケがずっとこんな調子では僕も調子が狂ってしまう。はじめはちょっとうらんだが今は楽しいかと思えてきてるしね。
シャルケの名前アイコンの横に、剣を模したアイコンが輝いていることに僕は気付いた。
「ん? その名前の横のアイコンって……ギルドマークだよね?」
「あ、これ? うん、そうだよ! こっちじゃギルドじゃなくてクランって言うらしいけどね」
「そっか。入ったんだ」
「なかなかいいところだよ。征服戦にも力入れててね、なかなか面白いんだよ!」
シャルケが得意げに胸を張りながら言う。
征服戦。
いわゆるクラン対クランで戦うクラン戦というゲームモードだ。
ひとつのフィールドの中で、ターゲットとなるボス級機甲兵器を破壊したほうが勝利となる。
もちろん相手クランを狙うことも可能だが、途中イベント的に大量の機甲兵器が投入されるため、相手を倒すか機甲兵器を倒すかを迷うことになる。相手クランをどんどん倒してしまえば機甲兵器群を相手する頭数も減ることとなる。そのあたりを考えながら戦う頭脳戦なのだ。
「ユニくんも一緒にどう? きっとたのしいよ!」
「うーん……。悪いけど……」
僕は名残惜しいが断ることにした。
誘ってくれるシャルケはうれしいが、やはり僕のステータスは集団戦闘向きではないと思う。
強くなったと調子にのってダンジョンにソロで挑んだら、大量に出てくる機甲兵器に囲まれて袋叩きにされたのはここだけの秘密だ。
さっきのブリッツのように一対一で戦うならまだしも、集団で集中砲火されればどうしようもない。しかも今の戦闘スタイルを考えると、アサルトライフルなど両手で保持する武器の【両手銃マスタリー】を取得する余裕もない。
やっぱりソロだなあ。
僕が断るとシャルケが再びしょんぼりとした顔をする。感情の浮き沈みの激しいやつだ。
そういえば、さっきのブリッツとやらの名前のところにもクランマークがついていたな。血で出来た立方体みたいなやつ。
「そういえば、さっきもクランにしつこく勧誘されたんだけどさ、今【工兵】の数って足りてないのかな?」
「んー、そういうわけじゃないと思うけど。何でだろね」
「新しく配置されたコンクエストマップ、そこに【工兵】が必要だからだ」
クールな感じのビシッとした声がかけられ、僕とシャルケは振りむいた。
そこには薄い青色の軍服を着た女性プレイヤーが立っていた。きりっとした眉。意思の強そうなつり目の瞳。ショートボブの金髪がまぶしい。僕はまるで軍人のようだなと感じた。
頭上に浮かぶ名前はサクヤと表示されていた。僕らに歩み寄ってくる。
「クランマスター!」
「すまない。二人の邪魔をするつもりではなかったのだがな」
サクヤのクランマークがシャルケのものと同じであることに僕は気付いた。つまり、この人がシャルケの加入しているクランのマスターというわけか。なるほど、リーダーって感じがする。
「はじめまして。私がクラン<キャリバー>のマスター、サクヤと言う。よろしく頼む」
「あ、はじめまして。ユニオンです」
挨拶をするとお互い握手を交わす。
握手をしながら、なぜかサクヤが僕をじっくりと見つめてくる。ちょっと照れるな。
「な、なんです?」
「これがシャルケがいつも言っていたユニオン君か……。思ったより小さいんだな。もっと屈強な大男を想像していたよ」
「……何て聞いてたんですか」
「いや、二刀の鬼とか、突撃狂とかそういったことしか」
「シャルケ! 君ね!」
ひゃー、とわざとらしい叫び声をあげてシャルケがサクヤの後ろに隠れる。
シャルケのほうが背が高いため、隠れきれてない。
僕はため息をついた。しょうがない。気になっていたことをサクヤに聞くことにする。
「それで、新しいコンクエストマップにどうして【工兵】が必要なんです?」
「ああ。新しいマップでは、かなりの量の廃棄機甲兵器が配置されているらしいのだ。戦闘ヘリや戦車といった大型の廃棄機甲兵器もあるらしくてな。【修理】や【操縦手】持ちの工兵特需ができているというわけだ」
「なるほどね……」
だから工兵と見ればしつこい勧誘があるわけだ。
輸送、攻撃、防御、何においても機甲兵器はかなりの戦力になるわけだ。
「コンクエストマップは、初めてクリアしたクランに初回攻略特典が与えられる。それをどこのクランも狙っているのだ」
「ということはまだどこのクランもクリアしてないんですね」
「そうなのだ」
サクヤは腕を組む。そういった仕草が似合う人だな。
「まあ、ここで会ったのも縁だ。いつでも頼ってくれたまえ。もちろんクランに入りたいというなら歓迎だよ」
サクヤは微笑むとそう言ってくれた。ありがたいね。
後ろから顔を出したシャルケが不機嫌な顔をしているが、何をやってるんだこいつは。
クランかあ。まあ、楽しい仲間と一緒にパーティを組んだり戦ったりするのは楽しいだろうなあ。ただ、まだ僕はしばらく何にも煩わされずにどっぷりのめりこみたいと考えているのだ。
クランに加入したりするのはしばらくしてからでいいかなと思っている。
もし加入するとなったらここが候補かな。
「さて、そろそろ会議の時間だ。シャルケ、行くぞ」
「はぁい」
シャルケがだるーく敬礼してみせる。サクヤがひとつ頷いた。
「そういうことだから、ユニくんまたね! 次は絶対一緒に遊びにいこうね!」
「小学生か、君は」
僕は苦笑した。シャルケがこちらにぶんぶんと手をふりながら去っていく。
シャルケとサクヤは何事か楽しそうに話しながら歩いていった。
一人取り残された僕はちょっとその姿をうらやましく感じてしまう。
ふっ、とティターニアオンライン時代のギルドの風景がよみがえってきた。騒がしくも噛み合ったあの仲間たち。今はどうしてるのだろうか。こっちに来てるんだろうか。魔法使いだったDAIZOさん、アタッカーの戦士だったボノボさん、回復職だったランツィさん、僕に高速二刀流を叩き込んだ師匠。師匠のことを思い出すと、修行の日々が思い出される。PvPで何回なます切りにされたこととか。一瞬背筋が寒くなる。思わず振り返ったが、誰もいなかった。
まあ、せっかくのニューゲームだ。いろいろクランを見回ってから決めても遅くはないはずだ。うん。
僕は中央塔に向かうと、倉庫と銀行にさっき手に入れたアイテムとお金を預けた。このゲームではお金の単位は『c』になっている。急激に増えた預金額に、ほほがゆるむ。ランクの高いアイテムも後々使う機会があるだろう。
武器ショップに行き、ここで買える最強の拳銃を探す。若干実弾銃のほうが性能がよさそうだったのでそちらにする。同じように買える最高のナイフを購入する。
よし、あとはレベル上げだ。
前回の<廃墟宇宙船>で時間をかけて狩りをした。おかげでレベルが20まで上がる。
スキルポイントは狩りの効率UPのために【片手銃マスタリー】に振っておく。
これまでの経験だとレベル50くらいまではさくさく上がるはずだ。そこからが勝負だな。僕がこのスタイルでやっていけるかどうか。
……クランかぁ。
<ステータス・スキル>
名前:ユニオン
ジョブ:【工兵】
勢力:なし
レベル:15>20
スキル:【片手銃マスタリー】5>10 【近接武器マスタリー】10
【二丁拳銃】10 【装備重量軽減】4
【修理】1
【観測手】3
【無人機マスタリー】1




