第4話「工兵(エンジニア)」
網棚には大量の武器が陳列されている。拳銃やアサルトライフル、スナイパーライフルやグレネードランチャー。果てまではクロスボウなんてものも存在していた。
見るところを変えれば、ドローンや簡易防御壁、指向性地雷などが無造作に積まれている。その種類の多さに僕は驚いた。
僕は武器ショップの陳列棚の前でうんうんと唸っていた。
ひょんなことから【工兵】になってしまった僕だが、キャラクターの作り直しは考えていない。
【巨人滅者】のスキルアイコンが残っているからだ。あの世界の証とも言えるこの勲章を消すつもりはないのだ。なってしまったものはしょうがない。このジョブで出来ることをするまでだ。
だいたいのオンラインゲームであれば、ジョブやスキルのリセットができるものが販売されたり、何かの大会の賞品で存在したりするものだ。ならばそれが手に入るまで、面白いと思うスキルを選んで試す、ぐらいの心持ちでいることにしたのだ。
実は毎日ログインして五分以内に僕に接近してきていたシャルケの姿が見えなくなった。たぶん彼女なりに責任を感じているのだろう。僕の前に姿を現しづらい、というわけなんだろうな。
まあ、気にしてないことをアピールするためにもこの【工兵】というジョブを楽しむことにしよう。
とりあえず重要な装備可能武器の確認から始めることにしたので、武器ショップに来ている。
拳銃やナイフはどのジョブでも装備可能。重い武器は駄目。両手で保持するショットガンやエネルギーライフルも装備できるが、【両手銃マスタリー】スキルを取得していないので威力や射程が減少する。
僕は拳銃の銃身をものすごく切り詰めたような銃を手に取る。銃口の代わりに丸い球体が付いている。僕は銃とも言えないソレを、ためつすがめつしながら眺める。
【工兵】専用武器、<修理銃>だ。
拳銃タイプと両手保持のライフルタイプがある。もちろん両手保持のライフルタイプのほうが回復量は多い。だが、二丁拳銃で装備すれば回復量はライフルに追いつくだろう。
とりあえず拳銃タイプを一丁購入する。初期購入特典でマガジンが三本ついてきた。ラッキー。
【修理】のスキルを取得していないので、まだ装備ができない。そのままインベントリに突っ込む。
あとは……無人機か。
ドローンとは、自律制御される無人の飛行体のことだ。プロペラがついていたりと形状は様々だが、このバレットパンツァーオンラインでは球体をしているものが多い。半重力だかなんだかのシステムで宙を浮くようだ。購入後は好きにカスタマイズが可能らしい。
「やっぱりこれも買っとくかなあ」
ウィンドウに表示されている残金を見ると、ギリギリだ。一番安いタイプのドローンを購入する。
装備欄の特殊装備枠にドローンを入れようとすると、【無人機マスタリー】が足りないと警告ウィンドウが出た。スキル取らないと駄目なのか……。
せっかく購入したのでドローンのステータスウィンドウを開くと、いくつかドローン専用のスキルが入っているのが見えた。フィールドを飛ばして映像を送ったり、アタッチメントで銃を追加すると射撃してくれるらしい。
僕はお金がなくなったので武器ショップを出た。
とりあえず、買った装備を試してみるかな。
<崩壊宇宙船ヒトナ〇〇四三>
ホームタウンから南下すると墜落した巨大宇宙船が見える。中はコロニーのような居住区になっていて、市街地に廃墟になったビル群が立ち並ぶ。
この中では今でも街を守るガードロボットが無人の街を守るために働いているのだ。戦闘配備のおかげで何種類かのロボットはこちらを見つけ次第先制攻撃をしかけてくる。侵入者は敵、ということなんだろう。
レベル12くらいの、ちょっとレベルの高いガードロボットもちょくちょく存在していて、ジョブチェンジしたてのプレイヤー推奨のマップなのだ。
<崩壊宇宙船ヒトナ〇〇四三>マップの中には、三箇所ダンジョンがある。それぞれ難易度が違うので、自分のレベルに合わせて選ぶことができるのだ。
マップは機甲兵器が徘徊するフィールド。いつでもマップの外に逃げることができる。
ダンジョンはシェルターや研究所など屋内施設で定められたルートを通って宝物をゲットする。帰還球を使うか死ぬまで出ることはできない。
今日はスキルポイントが欲しいので、マップで機甲兵器をちまちま狩ることにしよう。
タイヤの中に機械を押し込んだような<ローラー>という機甲兵器を倒していく。このマップではこのローラーが大量に徘徊している。
拳銃でも何発か撃ちこめば倒せるし、ナイフなら一撃だ。なので、比較的苦労せずにレベルがあがった。
さっそく僕はスキルウィンドウを開くと、【修理】を取得する。
これで僕も機甲兵器乗りだ!
僕は拳銃を外すと修理銃に入れ替える。寸詰まりのフォルムが腰のホルスターに収まった。
僕は道路の真ん中であたりを見渡す。
人の居ないビル群や乗り捨てられた車がある道路。雰囲気を出すためにか、動かなくなった機甲兵器がそこかしこに見える。僕にはいろんな修理できそうなものがごろごろ転がっているように見えた。
「へえ……。こうなってるんだ」
修理銃とナイフを構える。近接範囲に入ると修理できる対象は緑色のマーカーで表示されるようだ。逆に言えば、近くに寄るまでどれが修理できる機械なのかがよくわからないということ。
「似たように見える機甲兵の残骸でも、修理できるやつと出来ないやつがある……」
まったく同じ残骸があるが、片方が修理できない。
とりあえず僕は修理銃で機甲兵器の残骸を修理しはじめた。銃口から青色の電撃のようなビームが発射され、残骸に命中する。
視界の隅に修理を示すゲージが進み始めた。
……。
少しずつゲージが増える。
……。
弾切れ。僕はマガジンを交換して再び撃つ。ようやくゲージが半分超えた。
弾切れ。僕はマガジンを交換。
「これ……だめだ!」
僕は叫んだ。
修理銃のマガジンは通常の弾丸やエネルギーマガジンより高価なのだ。初期セットについてきていたマガジンを使い切って、なんとか機甲兵器の修理に成功することができた。
一度ポリゴン片になって飛び散り、再び集まっていく。
完全に集まりきると、一台の車両型機甲兵器が姿を現した。座席があり、バギーに似ているフォルム。屋根は無い。
「やった! 修理までのコストを考えるとちょっと高価だけど、乗り物があるのはいいぞ!」
同時に僕の視界の隅にウィンドウが現われた。操縦可能時間が表示されている。このバギーだとあと三十分で消えてしまうらしい。
僕はうんうんとうなずきながらバギーに乗り込む。
運転が苦手な僕だが、このマップなら何にぶつけても壊れないだろうし、壊れたとしても文句は言われないだろう。
運転席に座り、ハンドルを握る。
「…………動かない」
起動する音が鳴らない。うんともすんとも言わない。試しにアクセルを踏んでみると、警告ウィンドウが出る。機甲兵器の操縦には、【操縦手】のスキルが必要です。
「あああああああああっ! もおおおおおおっ!」
僕はぐったりとバギーの運転席にうつぶせになった。
どうするべきか。このままバギーは置いておいて、レベルを上げて、スキルを取って、戻ってくる。
駄目だ、そんなことをしている間に操縦可能時間が終了するかもしれない。
こういうときに誰か相談できる人でもいればいいんだけどなあ。
攻略掲示板などのSNSもあるのだが、できるだけ見ないでいきたいのだ。人に聞いたり自分で発見したり、そういう経験がしたいのだ。せっかく冒険しているのだから。
僕は涙を呑んでバギーを諦めることにした。
今僕に必要なのはレベルアップだ! スキルポイントなのだ!!
一心不乱に狩り続けると、レベルが15まで上がった。スキルポイントを4確保。
僕はそこで一旦狩りをストップ。スキルウィンドウとにらみ合いを始めた。
【工兵】のスキルは、大きく分けて三種類。
【修理】【操縦手】を含む機械操縦系。
【無人機マスタリー】を含むドローンカスタム系。
【観測手】【弾薬補給】を含む補助・支援系。
それぞれがスキルツリーを作っている。
とりあえず【無人機マスタリー】、【観測手】を取得しておく。
ドローンはせっかく買ったので装備したいし、【観測手】は索敵にボーナスがつく。近接戦闘を多く行う僕自身にも有用だろう。多めにとっておく。
うん。今日はこんなものかな。
<ステータス・スキル>
名前:ユニオン
ジョブ:【工兵】
勢力:なし
レベル:10>15
スキル:【片手銃マスタリー】5 【近接武器マスタリー】10
【二丁拳銃】10 【装備重量軽減】4
【修理】0>1
【観測手】0>3
【無人機マスタリー】0>1




