表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

第3話「ジョブチェンジ」

 墜落した巨大宇宙船の中を、僕は走っていた。

 レベルアップによってステータス強化した<素早さ(AGI)>と<跳躍力(JPG)>が僕の動きをブーストする。パルクールのように崩落した宇宙船内を身軽に駆け回る。

 武器や装備も持ち運びや取り回しを助ける<筋力(STR)>は最低限しかない。できるだけ持ち物の重量には気を配っている。


 走る僕の後ろから、ガションガションと音を立てて、軽自動車ほどの機械兵器が追いかけてきていた。

 <ガーダー>とモンスター名が表示されているのをちらりと確認。この小ダンジョンのボス的存在だ。

 円柱のボディに六本足が生えたガーダーは、瓦礫を軽々踏み越えて、僕を追いかけてくる。時に大きな瓦礫はボディによる体当たりで粉砕してくる。


「えぇぇぇぇぇいっ!」

 

 僕はひときわ高く跳ぶと、空中で振り返りながら拳銃を連射する。ワントリガーで三発。薬莢が空中を舞う。

 ガーダーの外装に着弾すると火花が散る。ガーダーの体力ゲージ減少は微々たるものだ。


 僕は着地すると、ガーダーと向かい合った。ガーダーも六本足を小刻みに動かしながら、僕との間合いを計る。ここでいい。広くドーム状になった空間。予定ポイントだ。

 緊張する瞬間だ。だが、負ける気はしない。

 


 あれから二週間、僕は初心者フィールドに費やした。普通のフィールドを徘徊し始めたのはここ最近だ。

 レベル制限があるのか、初心者の森では途中からほとんど経験値が入らなくなってしまったが、それより動きを覚えることを優先したのだ。

 片手銃、二丁拳銃、ナイフを万遍なく使っていたがどうもしっくりこない。ちなみにナイフを両手に装備するナイフ二刀流は無理だった。


 結局僕は左手に拳銃、右手にナイフという装備に落ち着いた。拳銃を二つ装備する代わりに片方をナイフに変えられるとは予想もしてなかった。

 ちなみに近接武器枠とは別なため、胸元にはさらにナイフが装備されている。左手の銃を捨てて胸元のナイフを引き抜こうとしてみたが、システム的なロックなのか、どれだけ引っ張っても抜くことができなかった。右手に持っていたナイフを捨てると、あっさりと抜くことができた。



 今も、僕の左手には拳銃、右手にはナイフが握られていた。

 じり、じり、と<ガーダー>とにらみ合う。

 先に動いたのは僕。床を蹴って疾走する。ストライドは短く、いつでも跳躍できる余地を残しておく。

 ガキャン、とガーダーの頭部から機関銃が出現すると、僕に向かって銃弾をばら撒き始める。僕の身体をロックオンしてから撃っているため、走る僕を追いかけるように弾痕が穿たれていく。


 僕は緩急をつけて当たらないように走りながら、ガーダーの動きに集中する。

 ガーダーはガキャンと、六本足を地面にめり込ませて固定した。


(来た……ッ!)


 僕は急激に角度を変えると、ガーダーに向かって突っ込んでいく。

 ガーダーはボディの下部にレールガンを出現させた。バチバチと紫電が砲身に集まり、発射準備が整っていく。


 それを黙って指をくわえて見ているわけではない。僕はチャージ中の砲身に銃弾を叩き込む。クリティカルの赤いエフェクトが飛び散る。だが、主砲を破壊するまで威力が足りない。


 レールガンが発射。全精神力を総動員して回避。直撃は免れたが範囲ダメージで僕の体力ゲージが削れていく。


 ――――よし、回避成功!


 僕は全力でナイフをレールガンに突き刺す。大き目のクリティカルエフェクト。レールガンが完全に破壊されて沈黙する。そのまま至近距離から斬撃と射撃を繰り出す。

 ここまで接近してしまえば頭上の機関銃の射角の外。さらには警戒すべき六本足の近接攻撃も今の固定状態ならおそるるに足らず。

 あたりさえすればナイフの攻撃力は見た目より重い。とどめの一撃がボディに突き刺さり、ガーダーがポリゴン片となって爆散した。

 経験値を示すバーが上昇し、レベルアップを告げる。


「…………ふぅ」


 なんとか戦うことができた。このゲームも慣れてくればおもしろい。ガーダーが居たあたりから、ドロップアイテムを拾いながら、僕は考えた。


「だいぶ軽業士っぽくなってきたな」


 僕は満足げな顔を浮かべると、ナイフを腰に収めた。拳銃のマガジンを交換し、反対側のホルスターに収める。


 そんな僕の眼前に、個人通信(ウィスパー)がポップアップした。


『やっほ、ユニくん。生きてる?』

「僕は生きてるよ」

『それじゃ、対人戦(PVP)やろうよ』

「やらないよ」

『ちぇ。じゃあまた今度ね』


 げんなりした顔で通信に答える。最近動きがティターニアオンラインに戻ってきたからか、シャルケ対人戦《PVP》をやりたがっている。


 対人戦(PVP)とはもちろんプレイヤー同士が対決することである。一対一で決闘するこの対戦は、集団戦闘とは違い、もろに個人の力量差が出る。

 ちなみに僕は負けるのでシャルケとはやりたくない。攻撃力が低く、手数で押す僕が、シャルケの防御を抜くイメージなんてまったく見えないからだ。


『ね、ね。ユニくんレベルいくつになった?』

「あー……。さっきの戦闘で10かな」

『お、じゃあ、ジョブチェンジが出来るね!』


 そうなのだ。レベル10まではサクサクレベルが上がり、基本的な動きを修得する。

 だいたいプレイヤーが慣れてきたあたりで、さらにいろんなスキルを覚えることができる上位職業(ジョブ)に着くのだ。


「一度街に戻るよ。一度合流してから相談しよう」

『おっけ。待ってるね!』


 個人通信(ウィスパー)が終了し、ウィンドウが消滅する。

 僕はインベントリから、セーブタウンまで戻ることのできる帰還球(リターンボール)を取り出して使用した。

 僕の足元にワープゲートが開いて、僕の身体を転送しはじめた。



 バレットパンツァーオンラインには、四つのジョブがある。


 レベル10になった見習い兵士たちは、四つのジョブのいずれかを選ぶのが普通だ。中にはジョブを選ばないまま永遠に見習い兵士を続ける猛者もいるという。しかし、そのジョブでないと装備ができないものもあったりして、縛りプレイ以外ではオススメはしない。

 

 ジョブというのは、【突撃兵アサルト】、【機甲兵(パンツァー)】、【狙撃兵(スナイパー)】、【工兵(エンジニア)】の四つだ。それぞれの特徴は次のとおり。


 【突撃兵(アサルト)

 その名のとおり、走って突撃して銃撃するジョブだ。移動ボーナスがあるスキルや、前陣に出るほど攻撃力が上がるスキルなどが揃っている。熱線銃(ブラスター)やエネルギーライフルなど、エネルギー系武装にボーナスがある。


 【機甲兵(パンツァー)

 機械で武装したジョブだ。重量制限に大きくボーナスが出る。実弾系武装にボーナスがある。また、ごつい装甲を身に着けたり、レールガンやアンチマテリアルライフルといった大物武器も移動しながら射撃することができる。ただし、通常の移動速度がかなり犠牲になってしまうのだ。

 趣味の領域になると、全身を装甲で覆いつくし、人型ロボットのようなアバターになっている人も多い。ロボットの気分なんだろうか。僕にはわからない。


 【狙撃兵(スナイパー)

 超長距離攻撃のエキスパート。その名の通りだ。狙撃に関する武器の装備制限が解除。狙撃に関するスキル取得できる。地雷などの設置武器にボーナスがある。


 【工兵(エンジニア)

 これがバレットパンツァーオンラインでは重要なジョブになってくる。攻撃力も防御力も移動速度もさして目立ったところはない。スキルも【弾薬補給】や【無人機(ドローン)マスタリー】、【観測手(スポッター)】など地味な補助スキルが多い。

 ただひとつこのジョブがすごいのは【修理(リペア)】というスキルだ。フィールドに乗り捨てられている修理可能な乗り物を修理し、操縦することができるのだ。

 バイク、戦闘車両から、設置機銃や多脚戦車まで。超レアなものだと、戦闘ヘリなどの航空戦力すら操縦可能となる。


 僕はジョブセンターの前でうんうんと唸っていた。目の前ではジョブチェンジを担当するお姉さんNPCが笑顔でたたずんでいる。


 隣では暇そうな顔をしたシャルケが思いっきり不満顔で待っている。シャルケは迷うまでもなく、はやばやと【機甲兵(パンツァー)】にジョブチェンジを果たしていた。今は僕を待って取引掲示板ウィンドウを開いて、よさそうな武器が無いかを調べている。


「何を迷ってるのよぉ? 早く決めて遊びに行こうよぅ」


 一度選択したら変えられないのだ。キャラを作り直す気はないし、大事な選択なのだ。静かにしていてほしい。


 僕のスタイルを考えれば【突撃兵(アサルト)】なのだが、やはりオリジナル職業の【工兵(エンジニア)】がすごく気になる。機甲兵器の操縦かあ……。


 僕はウィンドウを操作して【工兵(エンジニア)】選択ボタンを押す。最終決定を求めるYES、NOボタンが浮かび上がり、【工兵(エンジニア)】の説明が流れる。

 

 だが、自動二輪やエアバイクなど、車両の運転免許を持っていない僕が運転できるはずがない。

 ティターニアオンラインでも、馬に乗ることができなくて泣きそうな目にあったのだ。僕に乗ることができたのは操縦しなくてもいい仔馬(ポニー)だけだ。

 【工兵(エンジニア)】はやめておこう。


「ね! もう決めた?」

「うあっ!?」

 

 急にウィンドウと僕の間にシャルケが顔をねじ込んできた。思わずのけぞる。


 ぽちっ。


「【工兵(エンジニア)】の選択を確認しました。これからのあなたに幸あらんことを」


 ジョブチェンジ担当のお姉さんNPCが深々とお辞儀をする。


「ああああああああ!! シャルケぇぇぇええええ!?」

「ご、ごめん。……ほんと、ごめん」

「どうするんだよおおおお!! 突撃重視のステータスで工兵(エンジニア)とかああああ!」

「ええと……がんば!」


 僕はシャルケの胸ぐらをひっつかむとガックンガックン揺さぶる。シャルケはされるがままになっていた。

 頭を抱えた僕の叫び声が、ジョブセンターに響いた。


 【工兵(エンジニア)】というのはいわゆる支援職だ。装備できる武器も特化してしまうため、積載重量を増やす筋力(STR)やHPが増える生命力(VIT)をあげていくのが基本だと攻略記事には書かれていたなぁ。

 <素早さ(AGI)>と<跳躍力(JPG)>にステータスを振った支援職。

 

 とほほ。こんなスキル・ステータス構成のやつなんて、どこもとらないだろう。


 ソロ確定かなぁ……。

 


 <ステータス・スキル>


 名前:ユニオン

ジョブ:【見習い兵(ルーキー)】>【工兵(エンジニア)

 勢力:なし

レベル:3>10

スキル:【片手銃マスタリー】5 【近接武器マスタリー】10

     【二丁拳銃】10

     【装備重量軽減】4

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ