表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

第30話「ホームタウン襲撃」

 ログインした僕を出迎えたのは、廃墟だった。

 燃え尽きた家々。散らばって片付けられない瓦礫。そこかしこにヤドカリに似た巨大生物がごそごそと動いていた。夜明け前の薄明りの中、死んだ居住区が浮かび上がる。


 人の気配がない。


 みんな、死んだんだ。

 僕は奥歯を噛みしめた。この結果は、僕の責任だ。


 とにかく、まずはNPCのことについて確かめないといけない。

 ウィンドウを呼び出すとフレンドリストを開く。シャルケはログインしている。フェリンはログアウト中だ。

 シャルケに個人通信(ウィスパー)を送ろうとして、僕の指が止まった。


 ――――押せない。

 できない。


 『二刀流の可能性を潰したのは、シャルケじゃないか』

 『私は……』


 僕自身の言葉が、僕に深く突き刺さる。

 ログアウト際のシャルケの表情が浮かんできた。きっと傷つけた。どの面をさげて連絡など取れるのか。 しばらく空中をうろうろとした指は、そのままフレンドリストのウィンドウを消去した。


 僕にできることをしていこう。

 一度ホームタウンに戻ることにして、僕は転移球が使える地域まで移動するとすぐに帰還した。



 ホームタウンは異常事態になっていた。

 ざわめく街角はいつもの光景だ。だが、その雰囲気がおかしい。ざわめきの内容も焦燥感の滲んだものだ。


「……やっぱり」


 情報を集めたいところだけど、まずは武器屋に向かおう。

 前回のコンクエスト使った弾薬は減ったままだ。とりあえずいつものようには弾薬を補給する。無人機(ドローン)も即時修理をしておく。


 販売武器欄もちらりと見た。ハンドガンと銃剣が目に入る。

 僕は手元のブラストソードに目を落とした。胸がずきりと痛む。師匠の顔を思い出しそうになったので、思いっきり自分自身の顔を殴りつけた。自分で自分を傷つけることはできない。システムが自傷行為を阻む。


 僕はため息を吐いた。

 思い出さないようにするためにも、別のことで気を紛らわせた方がいい。情報を集めよう。


 大通りを歩きながら考える。クラン<キャリバー>のたまり場に顔を出すのは気が引ける。シャルケに会うかもしれないからだ。

 そうなると、どうやって情報を集めたものか。

 情報を知ってそうな知り合いというのに心当たりがない。詳しそうと言えば、DAIZOこと孝久義兄さんだが、バレットパンツァーオンライン内でのキャラ名を教えてもらえうのを忘れていた。

 手詰まりだ。ソロプレイのハンデがここで出るとは思わなかった。


「とりあえず、その辺の人に聞いてみよう」


 カフェエリアには何人ものプレイヤーが席について会話していた。その一つに近付いていく。


「あの、すみません。……すみません!」


 完全に無視された。がっくりと肩を落とす。

 どうやらパーティかクラン専用回線で会話しているらしく、こちらの動きにすら反応がない。表示でカットアウトされているのか、それとも会話に集中しているのか。

 周りを見渡せばそのように見えるプレイヤーが多い。僕は途方にくれた。街の外で狩りをしているプレイヤーの方がまだ話ができるだろうか。


「おお、ユニオンじゃねェか」

「その聞き覚えのある声は、ソローさん!」


 孤独の寂しさに涙が出そうになった僕に声をかけたのは、見覚えのあるバンダナ装備の無精髭突撃兵(アサルト)だった。<アンガーマインマスター>の時に共闘したソローだ。

 ソローはくわえたタバコを口元で揺らしながら、困った顔をする。


「オマエも聞いたか、NPCの話」

「とうとうプレイヤーを攻撃し始めたってきいたけど」

「一部ではそうらしいな。他にも色々なヤバイことが起こってンだよ」


 ソローが手招きする。どうやらオープン会話でするような話じゃないらしい。パーティ参加申請をソローに飛ばすと、パーティしか聞こえないパーティ会話で話し始めた。


「村や居住区からNPCが消えてンだよ」

「どういうこと?」

「ボス狩りには準備が必要だからな。あまり人が寄らねェような村や居住区にも補給のために寄る。そこにNPCがいねェんだよ。まるでどっかに行っちまったみたいにな」


 ソローはタバコを手に持つと宙に放る。手元から離れたからか、空中で顕在化(アクチュアライズ)が解け、ソローのインベントリへと戻っていく。


 NPCがいない?


 襲われて廃墟になったのかとも思ったが、ソローの話を聞くかぎりそうでもないらしい。

 じゃあいったいどこへ。



 ――――夜明けの時間を知らせる音が、ホームタウンに響き渡った。


 何かが揺れた気がした。

 悲鳴が――――。


「ソローさん。今、悲鳴が聞こえなかった?」

「ァア? そんなもん……」


 今度は確実に耳に聞こえる音量で悲鳴が起こった。どこからか、ホームタウンの入り口の方から聞こえる。次いで、ひゅるひゅるという甲高い砲撃音も耳に届く。放物線を描いて飛来するのは、巨大なミサイル状の弾頭だ。

 カフェエリアにいた全員が、ぽかんとしてその光景を見ていた。

 直後、カフェが客席ごと爆発に飲まれて消滅した。


「……は?」


 何が?

 疑問がスパークするが、身体は動かない。


「嘘だろ。ホームタウンは攻撃不可のはずじ――」


 何かをしゃべろうとした機甲兵(パンツァー)は最後まで言い切ることができなかった。グレネードパルスに巻き込まれて黒焦げになる。


「ユニオン! 逃げるぞ!」


 ソローに肩を叩かれて、ようやく腕の感覚が戻ってくる。ソローが叩いた肩には、攻撃不許可のシステム表示。じゃあ、いったいなんなんだ、この攻撃。

 怒声と悲鳴はまだ連続して聞こえてくる。


 僕はぞっとした。

 このホームタウンでは、攻撃不許可ということもあり、外見的特徴があるだけで防御力がない装備を着けているプレイヤーも多い。いつもなら耐えられる攻撃でもやられてしまう。

 ソローがイラついたように叫ぶ。


「ユニオン! 死にてェのか!」

「待って。プレイヤーの僕たちは死んでも復活(リスポーン)するはず。ホームタウンに復活するかはわからないけどね。だから、今は冷静になって原因を探るべきだよ」


 砲撃の弾速は遅い。きちんと着弾点を見極めればそうやられることはない。今は、相手に攻撃をさせて居場所を割り出すのが優先だ。


 そう考えた僕の目の前で、ぽかんとしていたNPC店員が爆発に吞まれた。


 ――――彼に復活(リスポーン)は無い。


 冷静になって原因を探る? 違う。今すぐブチのめすべきなんだ。

 僕の中の何かに火が付いた。


「ソローさん! 一足先に行きます!!」


 僕の両手には、ブラストソードと熱線銃(ブラスター)が握られていた。即座に無人機(ドローン)顕在化(アクチュアライズ)

 カフェテリアの椅子からテーブルに跳ねあがり、そこから壁を蹴ってさらに上へ。鍛え上げた跳躍力(JPG)を発揮して上へ。

 

「ちょっ――!? くそっ! オマエ!」


 ソローの声を後ろに、どんどん前へ進む。建物の屋上を飛ぶように跳ねていく。無人機(ドローン)も利用すれば、空中移動は難しくない。


 上からならホームタウンの様子がよく見えた。砲撃だけでなく、機甲兵器すらホームタウンに侵入してきているらしい。修理(リペア)成功した時によく見る多脚戦車や移動砲台がそこかしこに見える。

 そして、それを援護するように大量のプレイヤーとNPCが侵入してきている。

 そいつらがホームタウンを襲撃しているのだ。


 手に持つ銃が火を噴き、浮足立ったプレイヤー達をなぎ倒していく。

 阿鼻叫喚の光景だが、僕はその中であることに気付く。


 襲撃しているプレイヤーの攻撃は、効果をあげていない。攻撃不可のシステム表示と共に無効化されている。ただ、その勢いに煽られたNPCの攻撃が街や人々にダメージを与えているのだ。


 まるで濁った洪水のように侵入する敵軍の中で、幹部級のNPCやプレイヤーに囲まれた人物が悠然と歩いてくるのが見えた。


 ツインテールの少女の姿にして、その実最悪の戦鬼。


 ここまでやるのか、あんたは!


「師匠オオオオオオオ!!!!」


 ぶつけた叫びに、師匠が顔をあげた。

 ニヤリと笑うと、僕を無視して街の中心に向けて進んでいく。

 勝率なんてどうでもいい。壁を蹴る。師匠に向けて一直線に突き進んだ。周りを囲む幹部級が誰も反応できない速度。銃を上げるより、一刀を振るう方が早い!


 僕の身体が、壁にぶつかった。


「ッああああああ!?」 


 いきなり速度を失い、バランスが崩れた身体がきりもみしながら落下する。

 目の前にあるのは攻撃不可のシステム表示。誰かが空中の僕に攻撃を仕掛けたのだ。

 

 ありえない!

 このタイミング、この速度の僕に攻撃を当てられるはずがない。まるで攻撃を読まれたかのような迎撃。

 そんなことをできるプレイヤーなんて――――。


 いや、一人だけそんな奴がいた。

 僕の行動すべて、あますことなくカバーしている変な奴が。


 どこだかわからない路地に落ちた僕の目の前に、よく知った顔が立ちふさがった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ