第24話「略奪宣言」
ゲートを抜けて、最短距離を突っ切る。
焦ってもしょうがないとも思うが、ゆっくり行くことなど考えられなかった。
フィールドやダンジョンに居る村人を襲って、装備を得る。そんな人狩りみたいなことが許されるものか。
おっちゃんの人のよさそうな笑みが思い出される。
<フラオン移住区>
全力でここまで来たが、息も上がらないし汗もかかない。ただ、焦りだけが赤熱した炭を飲み込んだかのごとく、胸の底を焦がしている。
フラオン移住区は、いつもと代わりないようだった。道端で笑っている住民たちも、何かの機械を修理しちているおばさんも。普段通りの光景に見える。
「あれ……? ユニオンさん?」
ちょうど通りかかった娘ちゃんが、僕の名前を呼んだ。
不思議そうに、僕を見るその視線に思わず安堵の息をついた。何も変わりない。
それもそうだ。この村は最初に所持していていたフラチオン鋼を放出したあとは、のどかな一移住区でしかないのだ。機械を修理し、それをホームタウンに納品する。細々と生活している彼らは、それほど裕福ではない。襲われる理由などがないのだ。
思い返してみれば、おっちゃんの持っている武装も、店売りで下から数えたほうがいいような銃だ。
なんだか、考えすぎてたみたいだ。
娘ちゃんに勧められて、おっちゃんの家に寄る。
おっちゃんはリビングでリラックスしながらテレビを見ているところだった。
「おや、ユニオンさんじゃないですか。どうかしましたか? この辺の野良機甲兵器はこの前退治してもらったばかりですし」
「あー、ごめん。どうかしたってわけじゃないんだけどね」
おっちゃんはにこにこと僕を迎えてくれた。僕は笑みを浮かべる。
「まあ、ゆっくりしていってくださいよ」
「ありがとう、おっちゃん」
しばらくおっちゃんの家でこの地域のことで雑談をした。住人と雑談をすると、周辺の情報を得ることができる。このあたりで稼げなくなった住民が盗賊になっているだの、機甲兵器が活性化している地域があるだの、住人どうしのネットワークでしか手に入らない情報がいっぱい聞けるのだ。
ゆっくりとくつろいでいると、いきなりおっちゃんの家のドアが開け放たれ、シャルケとフェリンがなだれこんで来た。二人で狩りの途中だったらしい。臨戦態勢で油断なく家を中を見渡している。
「ユニくん! 何かあった!?」
「……どうかした?」
あー、そういえば緊急事態だと思って呼んだんだった。
ゆっくりとくつろいでいる僕たちを見て、シャルケとフェリンの頭の上に疑問符がいっぱい浮かぶ。
「いや、僕の思い違いだったんだけどね」
僕はここまでやってきた経緯を説明した。
住民が襲われていることは、シャルケはそれなりに知っていたらしいが、フェリンはよく知らなかったらしい。真剣な顔で聞いている。
「とまあ、そういうわけで、ここまで来たんだけど」
「んー、まあ、無事でよかった。最近ちょっと物騒だからね」
「……物騒?」
「うん。なんだかPK可能区域が――――」
フラオン移住区に、ノイズ音が響きわたった。
シャルケがしゃべりかけた途中で止める。この音は、拡声器?
『あー。あっ、あー、聞こえる? オーケー、聞こえてるな』
この声は、聞き覚えがある。
『いるのはわかってるぜ。ユニオンのクソ野郎がァ!』
ひび割れた大声量ががなりたてる。室内に居ても聞こえるということは、広域会話扱いなのだろう。
『おめえみてえな甘ちゃんじゃ、こんなことは思いつかねぇだろうな!』
――――ブリッツ。
あの顔が浮かび上がる。
あいつとは切れたはずだと思っていた。徹底的にやられないと懲りない奴なのか?
僕は思わず武装に手を伸ばす。
『さあ、復讐だ。いい顔してくれよ。期待してるぜ?』
<クラン<鉄血>による征服戦(略奪戦)が開始されます。陣営を選択してください>
…………は?
僕の目の前には、一枚のウィンドウが浮かびあがっていた。
ばっと周りを見ると、シャルケとフェリンの前にもウィンドウが浮かんでいる。
「何だ……これ?」
おっちゃんと娘ちゃんの前には浮かんでいない。だが、不安そうな顔をしている。おっちゃんは壁にかけてあったアサルトライフルを手に取る。マガジンを確認しながら、娘ちゃんに声をかける。
「アリーシャ、奥で隠れていなさい」
「でもパパ、ママがまだ外に!」
おっちゃんがひきつった顔でアサルトライフルの安全装置を解除した。
「私が呼んでくる。くれぐれもアリーシャは出て来るんじゃないぞ」
待て。待ってくれ。
僕はウィンドウを素早く読む。
<征服戦(略奪戦)>。クランが村や移住区、居住地帯に対して宣言することが可能。征服戦に勝利することで村の人材や資金を得ることができる。
宣言時にエリア内に居るプレイヤーには、陣営選択権が与えられる。
略奪サイドを選択した場合は、住民および防衛プレイヤーを一定数まで減らすことで勝利。
防衛サイドを選択した場合は、略奪サイドの全員をキルするか、エリア外まで逃亡させることで勝利となる。
少し長めのカウントダウンが表示される。タイマーはいつもの征服戦と同じ。やはり、これも征服戦なのだ。おそらくは、アップデートで追加されたもの。
顔を上げると、シャルケと目があった。彼女は力強く頷く。僕の思考などお見通しか。
こういう時、いちいち説明しなくていいところにシャルケの良さがある。
僕は『防衛サイド』のボタンを押し込んだ。ギルドに加入していなくてもいけるらしい。防衛サイドとして認定された。マップに住民の位置が表示される。
「ユニくん、やってやろう! 一人も逃がさないよ!」
シャルケがエネルギーキャノンを持ち上げて言った。
「……手伝う」
フェリンも地雷を持ち上げながら言う。それ怖いから室内では出さないようにしようね。
<鉄血>のメンバーがどれくらいいるか知ったこっちゃない。
対人戦の鬼、【軽業士】に喧嘩を売ったことを死ぬほど後悔させてやろうじゃないか。
「おっちゃん、娘ちゃんと一緒にここに居てください。僕らが見てきますから」
言うが早いか、僕は表へと飛び出していった。
<征服戦を開始します>




