第22話「機甲戦車アーマードライオネル」
大きな主砲が唸る。<フォースタートル>が一撃でひっくり返る。
キャタピラ音を響かせて機甲戦車が動く。僕たちの盾になるように目の前に来た。
機甲戦車アーマードライオネル。装甲には吼える獅子の紋章が描かれている。
味方表示で機甲戦車の名前がポップアップした。表示された装甲の耐久力はかなり高い。
<ファイブテンタクル>の撃つ小さなエネルギー弾程度ではかすり傷もつかないようだ。集中する砲火をものともしない。前面には装甲が追加されており、体当たり攻撃にも対応しているみたいだ。
主砲が火を噴く。さっきはエネルギー弾だったが、今度は実弾だ。着弾した衝撃波で<ファイブテンタクル>がまとめて吹き飛ぶ。
かなりカッコイイ!
剣や鎧とか、そういったものもカッコイイけど、やっぱり戦車やロボっていうのもカッコイイよね。
アーマードライオネルにはミミルさんとサクヤさんが乗り込んで操縦している。ニグティさんも乗り込むと、機甲戦車上部に設置されている機銃に取り付いた。
側面や後部には歩兵が取り付いて移動するための取っ手が付いている。僕とシャルケ、フェリンの三人はそこに取り付いた。
『よし、行くぞ!』
アーマードライオネルは豪快に前進。<ファイブテンタクル>を跳ね飛ばし、轢き潰しながら進む。砲撃をしようとした最後の<フォースタートル>はニグティさんの設置機銃で蜂の巣になった。
『耐久力は中型以上の主砲じゃないとさしてダメージは受けません。主砲はエネルギー弾と実弾と換装可能。相手の耐性に合わせて換装することで大ダメージを与えることができるのです!」
ミミルさんが熱く語る。こんな人だったんだ。たぶん、操縦しているのもミミルさんだろう。ものすごくうまい。どれくらい練習したんだろうか。
「ミミルさん、操縦うまいですね!」
『ええ! このためにフィールドの修理機械で練習しましたからね!』
『この征服戦は修理した機甲兵器が鍵だ。このアーマードライオネルがないと、クリアできん』
なるほど、確かに。
僕のマップには、無人機からの索敵情報が表示されているが、数が多い。工兵がいなければ数の暴力で押しつぶされてしまうというわけだ。
路地を進むアーマードライオネルは、宇宙船を目指してはいないようだった。どうやら他の廃棄機甲兵器も見に行くらしい。びゅんびゅんと景色が流れていく。
走るより速い速度を出せる乗り物はやはり貴重だね。
修理できる機械の残骸と一緒に、協力クランのプレイヤーたちも発見した。機甲兵器の群れに囲まれている。残骸の陰に隠れて応戦しているが、殲滅力が足りてない。
どうやら同じように修理をしようとして、やってきた機甲兵器の群れに襲われたみたいだね。
僕たちはアーマードライオネルを突撃させると、一気に蹴散らしていく。<トライポッド>の攻撃をかわし、再び懐にもぐりこんでブラストソードで攻撃。時間をかけずに潰す。
<フォースタートル>はニグティさんの機銃とシャルケのキャノンで破壊する。
残骸と<ファイブテンタクル>の間にアーマードライオネルをすべり込ませると、中からサクヤさんとミミルさんが飛び出してくる。
「無事か!」
「た、助かった! うちの工兵がやられてしまって……!」
その言葉にサクヤが力強く頷く。ミミルさんと共に残骸を修理しつつ、待機していた狙撃組にも移動するよう指示を出す。
「ユニオン! 【操縦手】は持ってるか?」
「あ、持ってます!」
「なら君がライオネルに乗れ! 彼らを連れて先に宇宙船に向かえ!」
え……?
僕が乗るの?
まわりを見渡すと、みんなが僕の方を見つめていた。しょうがない、やるしかないじゃないか。
僕はアーマードライオネルに乗り込むと操縦席に座る。同時に操作用の特別ウィンドウが表示された。
初心者ヘルプモードを選択すると、ハンドルが顕在化する。これで操作できるらしい。アクセルはフットペダルだ。
砲撃ボタン、換装ボタンも確認すると、僕は両手をハンドルにかける。
「よし! 出しますよ! ええと……」
『我々はクラン<四連星>、よろしく頼む!』
僕はフットペダルを踏み込んだ。獰猛なエンジンの音。キャタピラが回転する。
<ファイブテンタクル>を踏みつぶし、かき分ける。
「主砲――――発射ァ!」
発射ボタンを押し込むと、巨大な砲弾が発射される。空気を引き裂いて、<ファイアブテンタクル>の群れに着弾、吹き飛ばす。爽快だ!
途中曲がり切れずにビルの外壁を削ったり、壁をぶち抜いて突進したりもしたが、しばらく進ませるうちにコツが掴めてくる。
『ユニくん、聞こえる?』
「シャルケ、聞こえてるよ。どうしたの?」
外に張り付いているシャルケからの通信。僕はなんとか運転しながら返事する。
『宇宙船に入ったらすぐに後退。宇宙船から出ること。宇宙船に入ることがボスフラグになってて、すぐに出ないとライオネルが無条件に破壊されちゃうからね!』
「それ、どういうこと!?」
問いただす時間がない!
もうアーマードライオネルは宇宙船に突入する。アーマードライオネルが宇宙船の外壁を突き破って突入すると同時、赤いランプが点灯、不快な警告音を鳴り響かせる。
全力で後退……!
アーマードライオネルの向きを反転させると、入ったところからすぐに出る。
直後、宇宙船が爆発した。
背後から膨れ上がる爆発に、アーマードライオネルが揺れる。ハンドルにしがみつく。
外に張り付いているみんなは無事なのか?
『ユニくん、ボスが出た!』
いつの間にかつぶっていた目を開ける。そこには変貌したフィールドが姿を現していた。
爆発した宇宙船跡。
煙がたなびく破壊された宇宙船の瓦礫。巨大な鉄骨のようなものがそこかしこに刺さっている。
そのフィールドの中央に、一匹の巨大な蛇が身を起こしていた。
巨大な咢、花弁のように頭の周りに割いているのは、そう見える砲台だ。うねうねと動く蛇の尻尾は、巨大な機械と接続されていた。どうやらここから動けないらしい。
巨大な機械蛇のモノアイが光る。
<モノヴェノム>。ボスの表示がなされた機械の蛇は、口を開けて咆哮を放った。
『……来る!』
フェリンの声。いつの間にかアーマードライオネルから降りた<四連星>の人たちがライフルによる射撃を開始していた。
『クソ! グレネードは!?』
『ダメだ、射程が足りない!!』
アーマードライオネルの主砲なら、届く!
僕は主砲をエネルギーキャノンに換装。射角を合わせて照準する。
発射されたエネルギー弾は、狙いを外すことなく<モノヴェノム>の胴体に着弾する。
減ったボスHPは、ほんの少し。
「かたすぎでしょ!」
<フォースタートル>も一撃で蹴散らすアーマードライオネルの主砲が、まるで効かない。これだとプレイヤーの銃弾なんて、ダメージも入らないんじゃない?
僕はサクヤさんに通信を開く。
「サクヤさん! 駄目です!」
『ユニオン! ライオネルの主砲も効かないか!?』
『……私が行く』
「フェリン!?」
フェリンが走り出した。手に持っているのは高威力の設置爆弾。確かに相手に直接つけられれば、銃弾をはるかに凌ぐダメージが出る。
「それ、無茶でしょ!」
<モノヴェノム>の砲塔が向く。間一髪アーマードライオネルを間に滑り込ませることに成功。装甲を銃弾の雨が叩く。装甲耐久力がガリガリと削られていく。
マップに表示された、協力クランのプレイヤーアイコンが消えていく。このありえないほどの迎撃に、倒されていっているのだ。
『ユニくん、突撃しよう! この戦車の耐久力を信じるしかないよ!』
「……行こう。連れて行って」
ええい。どうなっても知らないからな!
アクセルを底まで踏み込む。キャタピラが地面を削る。一瞬のちに、勢いよく突撃。
こうなったら、あの<モノヴェノム>のどてっぱらに、このままぶつけてやる!
キャタピラは崩れた地形をものともせず、装甲戦車を突き進ませる。エンジンが吼えた。さながらそれは獅子の咆哮。
<モノヴェノム>の口が大きく開いた。口の中に、おぞましいものが見える。
――――瞳のごとき、レンズが。
視界が白く染まった。僕の身体は、アーマードライオネルごと一撃で蒸発した。
「えー、それじゃ、反省会を行うぞ」
<キャリバー>のたまり場で、僕らは沈んだ顔で座り込んでいた。
「……何あれ」
「いや、僕も初めてだったんだけど。クリアできるの?」
「ユニくん、サクヤさん何度も挑戦してるんだから。そんな風に言っちゃだめだめ」
ボス<モノヴェノム>相手に、<キャリバー>はあっさりと全滅した。
アーマードライオネルは一撃でオーバーキル。中にいる僕どころか、後ろに捕まっていたシャルケとフェリンも蒸発させた。
その後で修理した<ハインドP>で戦場に追いついたサクヤさんとミミルさんも例の砲撃でやられたという。
「近付けば主砲。遠距離からだと有効な攻撃が通らない。たぶん、倒す仕掛けがあるんだろうが、まだ誰も解明していない」
なるほど、確かにまだどのクランも攻略していない征服戦なだけある。このボス設定した運営会社は頭がおかしいんじゃないかな。
「何か情報があれば、ぜひ伝えてくれ」
経験値は入ったから、おいしいのはおいしいのだけど。
くそぉ。あれに勝てたら、かなり気持ちいいだろうなあ。
<ステータス・スキル>
名前:ユニオン
ジョブ:【工兵エンジニア】
勢力:なし
レベル:49 未使用ポイント2
スキル:【片手銃マスタリー】10 【近接武器マスタリー】10
【二丁拳銃】10 【装備重量軽減】10
【修理】1 【操縦手】1
【観測手】5
【無人機マスタリー】10 【無人機防御】4 【無人機索敵】5




