第21話「コンクエスト再び」
ログインしてフェリンが居れば誘うようになった。
たいていは僕とシャルケと三人で狩りにいくが、僕とぺアの時もあれば、シャルケとペアの時もあるようだ。
メイン武器が地雷というとんがったプレイスタイルだが、僕らは気にしていない。地雷の位置はパーティメンバーにはマップ表示されることに気を付ければ、巻き込まれ事故も少ない。
「そういえばフェリンはどんなスキルを取ってるの?」
「スキル……………」
フェリンはスキルを説明しようとしたのか口を開くが、口をへの字に曲げて黙った。たくさんしゃべらなければならないのが大変だったのだろう。
代わりにコンテナから地雷を取り出した。
「【地雷設置マスタリー】?」
シャルケの言葉にフェリンは頷いた。
次いで、いろいろコンテナから取り出して並べる。プラスチック爆弾に、浮遊機雷、果てまではEMP爆弾までごろごろ出て来る。
「……見事に爆弾ばっかりだね」
「……うん」
フェリンは並べた爆弾類をみながらうっとりとした顔になる。この様子だと狙撃手だと使える爆弾系のスキルはほとんど取っているんだろう。ちなみにレインコートに見えた服も、爆発耐性を備えた耐爆コートだ。
ほんと、フェリンはマニアだ。接近戦にこだわる僕が言えたことじゃないけどね。
僕たちと組んで狩るようになってから、フェリンの戦い方は変わってきていた。
今までは地雷を撒いて機甲兵器が引っかかるのをじっと待っているという気の長い戦いをしてきた。
今は敵に接近して地雷を配達するように撒きにいくスタイルをなっている。密着距離で僕が敵を引き付けているため、かなりの距離まで近付くことができるからだ。
もちろんサポートとしての役割も果たす。装甲を展開し、機甲モードになった足の遅いシャルケを守るように地雷を敷設したり、EMP爆弾で機甲兵器の照準をジャミングしたりと活躍をしている。
近付けば僕が、離れればシャルケが、気を抜けばフェリンの地雷が炸裂する。予想以上のハマり具合に、僕たちは次々とダンジョンをクリアしていた。
僕のレベルが47になった。サクヤさんからの連絡を受けたのはそんな時だ。
征服戦をやるけど来ないか、という誘いに、僕はありがたく乗ることにした。
いつものメンバーが待機場所へと集まり。今回はフェリンも一緒だ。シャルケが僕とフェリンの姿を見つけ、近くに寄ってくる。
「さて、今回の征服戦はまだ誰もクリアしていない新マップだ。クリアするのは無理だろうが、どんな風に進行するのか経験しておくことが大切だからな」
サクヤさんが出撃前のブリーフィングを始めた。<キャリバー>のメンバーがサクヤさんの話にぐっと集中する。
「新マップは市街地の中央に宇宙船が墜落しているマップになる」
サクヤさんが合図を送ると、ミミルさんが拡大した画像をウィンドウで出す。画質が荒いのは戦闘中に撮られた写真だからだろう。だが、どんなマップなのかはなんとなくわかる。
廃墟ビルが碁盤の目のように並ぶ市街地。その中央に巨大な宇宙船が突き刺さっている。マップの南には発電所、北西には巨大な鉄塔がそびえ立っているのが確認できた。
「北で戦う場合は鉄塔からの狙撃に気を付けろ。できることなら森造が先に場所を取ることができれば望ましい。あと……」
サクヤさんがウィンドウを操作してマップの数か所に丸をつける。
「このあたりに修理可能な破棄機甲兵器があると言われている。まあ、場所はランダムで変わっているかもしれないがな。とりあえず工兵班はそこへ向かう予定だ。ユニオンも頼む」
僕は頷いた。大した修理ゲージ増加量じゃないが、足しにはなるはず。
「アップデートでこの征服戦も細かい部分は変更されている可能性もある。調査のつもりで情報を集めろ。死んで覚えるんだ。いいな!」
「了解!」
<キャリバー>のメンバーから息のそろった返事に、サクヤさんは満足そうに頷いた。
|征服戦のカウントダウンが始まった。
カウントダウンがゼロになるのと同時、開始を告げるウィンドウがポップアップする。僕たちは戦場へと転送された。
廃墟の街は、微妙に砂をはらんでいた。荒廃した雰囲気が、僕たちを包む。
マップを開いてみると、どうやらマップの北に転送されたみたいだ。
「よし! 森造、COOLと共に鉄塔を確保しろ。相手クランの妨害があればすぐに連絡」
「アイヨ!」
「了解した……」
狙撃手の森造さんと突撃兵のCOOLさんがすぐに走っていく。
「ヨシモ、ブルームは宇宙船の索敵にあたれ」
ブルームさんがロボアームを上げて了解の意を示す。すぐにヨシモさんを伴って南の方へ走りだした。
「ちょっと大所帯だが、私達は移動だ。いくぞ!」
残った僕たちは一丸となって移動を始めた。
マップに印をつけたところまで、さほどかからず到着する。修理可能な機械の残骸はすぐに見つかった。かなり大きい。
すぐにサクヤさんとミミルさんが修理を始めるのを見て、僕も修理銃に持ち替えて手伝うことにした。
『相手クラン確認。今回も〝協力戦”ね。仲良くやるとしましょう』
ゲージが半分くらいまで溜まったあたりで、ヨシモさんから通信が入る。協力戦なので、出て来る機械兵器を倒せばクリアできる。
僕は無人機を展開すると、空へ飛ばす。レベルがあがった分、【無人機索敵】を5まであげてある。【無人機マスタリー】自体も上げているので、効果範囲も拡がっている。
見るとフェリンが楽しそうに地雷を撒いている。あのガスマスクの下はきっと笑顔なんだろうな。
アラートが鳴った。
無人機の索敵範囲に機甲兵器がひっかかった。中型が三体、大型一体、小型は無数。
「サクヤさん! 敵、来ます!」
「私とミミルは手が離せん! 迎撃!」
路地を曲がって機甲兵器が姿を現す。五本足の蜘蛛型機甲兵器<ファイブテンタクル>。小型の物でも犬くらいのサイズはある。それが脚をガシャガシャ言わせながら大量に迫ってくる。
「いっけぇええ!!」
シャルケが射撃した。完全チャージのエネルギーキャノンが炸裂。一撃で<ファイブテンタクル>を塵に変えていく。
路地を波のように迫る<ファイブテンタクル>は、フェリンの地雷を踏んだ。爆発が起こり、まるでおもちゃのように吹き飛ばされていく。上方に指向性が強い〝戦車殺し”と呼ばれる地雷だ。
フェリンは地雷が爆発する端から、地雷を投げて敷設していく。
<ファイブテンタクル>の一部は廃墟ビルの壁を伝ってやってくる。ニグティさんがアサルトライフルで撃ち落とす。反動で馬の被り物が震えるのがすごく気になるが、今は気にないようにする。
のっそりと路地の陰から、中型の機甲兵器が顔を出した。四本脚の<フォースタートル>。こちらを見るとキャノン射撃を行うために、砲撃レンズがガシャッと開いた。
そこに、森造さんの狙撃が突き刺さる。いい腕! 大きくよろけ、隙を作ったところにシャルケのキャノンが炸裂。<フォースタートル>は煙を吹いて沈黙する。
「もう少しだ! 耐えろ!」
サクヤさんの叱咤の声が響く。
通りの角の廃墟ビルが、いきなり崩れた。ぬぅっと大きな機甲兵器が身を乗り出してきた。太い脚の先端は棘になっている<トライポッド>。三脚の名前が示す通りのフォルムだが、大きさはビルの二階にも届く。
あっけにとられたのは一瞬。僕は駆け出した。
「フェリン! EMP!」
「……わかった!」
フェリンが両手でEMP爆弾を投げる。爆発と同時に、緑色に色付けされたEMPが波打つ。
EMP爆弾は、機甲兵器の動きを阻害する。
<ファイブテンタクル>が完全に動きを止め、<フォースタートル>の挙動がおかしくなる。
僕はその隙間を駆け抜ける。大型の<トライポッド>にはEMP効果が薄い。突きこまれる踏みつけ攻撃をぎりぎりで回避する。
――――ブラストソード!
エネルギーブレイドが猛威を振るう。十秒間の間に、脚を一本破壊、よろめいた胴体部分をなます切りにして撃破する。
<ファイブテンタクル>や<フォースタートル>の動きが激しくなってきた。EMPの効果が切れかけている。僕は急いでみんなのもとまで走って戻る。
「ユニくん、やったね!」
「細かいのが残ってるからね! 気を抜かない!」
シャルケとハイタッチ。すぐさま小型と中型の機甲兵器が動きだす。こちらも射撃しているが敵の数が多い。押し切られる予感に、焦りが生まれる。
数は脅威だ。一撃の威力が少なくとも、囲まれれば死ぬ。
大型を倒せても、これじゃやられる……!
「よし! 修理完了だ!」
サクヤさんが叫んだ。廃棄機甲兵器のポリゴンが一度爆散、集結して形を為していく。
そこに現れたのは、巨大なキャタピラを持つ機甲戦車だった。
「乗り込め! ここから私たちのターンだ!!」
サクヤさんは苛烈という表現ができそうな笑みを浮かべ、宣言した。




