第19話「賞金首」
手に入れた大量のフラチウム鋼はプロテクターにすることにした。なんとフラチウム鋼で造るプロテクターは軽い、防御力が高い上に【近接攻撃ボーナス】が付いていた。
この【近接攻撃ボーナス】は密着距離からの攻撃の威力が上がるというもので、ブラストソードを使う僕にとっては願ったりかなったりの防具だ。身にフィットするタイプなので、動きが阻害される感じもない。
僕はほくほくしながらホームタウンを歩いていた。
新しいアップデートを受けて、フィールドへ出るプレイヤーの数が増えた。
ホームタウンにも新しい居住区や村、ダンジョンの発見情報がたくさん届くようになってきた。
しかし、不思議なのは攻略サイトにあがったイベントやクエスト情報があまり使えないということだ。何が原因かわからないが、クエストやイベントが発見されて向かったらすでに無くなっていたり、違うクエストが発生したりと、安定しないところがあるのだ。
何回も受けられるクエストはレア扱いされ、情報を秘匿するプレイヤーも多い。実際僕もフラオン移住区の情報を公開しようとは思っていない。
そんなものだから、お金で情報を売る〝情報屋”なるものが出て来る状況になっていた。
情報が本当かどうかは実際に調べてみないとわからない。ガセ情報に騙されてお金を取られたという話もあがっている。
僕も気を付けなければ。まあ、僕以上にシャルケの方が騙されやすい気がするけどね。
「ユニくん、やっほ」
「シャルケ!? いつの間に!?」
いつの間にかシャルケが背後に立っていた。思わずびくっとしてしまう。
声には出てなかったよね。
「ユニくんがなんか悪そうな顔をしている間に、後ろから。んで、何を考えていたのかなぁ?」
「ななななななにも。うん、なにもないよ」
ぼくはぶんぶん手を左右に振って否定した。シャルケはしばらく訝しげな顔をしていたが、気にしないことにしたようだ。
「あ、それでね! ちょっと情報屋から聞いたんだけど、倒すとスゴイお金がもらえる敵がいるらしいんだ!」
「…………それ、騙されてない?」
「失敬な! とても仲の良い情報屋サンからの情報だよ! 嘘のはずがないよ! 絶対!」
「それで、情報料はいくらだったの?」
「二十万!」
すさまじく怪しいワードしかないが、とりあえず聞いてみることにしよう。さっきは騙されそうと言ったけど、さすがにそこまでは……ないと思いたい、うん。
<オティリアンロード433>。
シャルケに連れてこられたのはホームタウンからずっと南にある道路だ。ダンジョンや街をつなぐ道路エリアなのだ。PK許可区域なので、ちょっと気を付けておく必要があるだろう。
見た目は荒廃した二階建て高速道路といったところだろうか。地面の道路にはところどころ穴が開いており、上を走る道路も崩れているところが多い。
「ほんとにここ? 機構兵器すらいない気がするんだけど」
「うーん。ここって聞いたんだけどな」
シャルケがウィンドウを操作しながら答える。何を見てるんだろう。何か人型のが映っていたのがチラって見えたけど、あれが例のターゲットなのかな。
とりあえず僕も無人機を展開すると空に飛ばす。すぐに【無人機索敵】を発動、同時にカメラモードであたりを調べることにした。
やっぱりこのあたりには先制攻撃をしかけてくるような機甲兵器はいないみたいだ。大きなコンテナに長い四つ脚がついた輸送コンテナロボがゆったりと移動している。
あとはちらほらとコンテナを担いだNPCが移動しているくらいか。
マップにいきなり爆発反応が表示された。そして連続する射撃反応。
――――近い!
「シャルケ!」
「――――!」
シャルケがエネルギーキャノンを構えた。一瞬で装甲が展開する。
マップウィンドウを引き延ばす。ここからそう遠くない位置に断続的に射撃反応が見える。プレイヤーが射撃するとマップに表示されるシステムだ。索敵をしていなくても、射撃をすれば位置が割れる。
マップウィンドウには移動するプレイヤー反応が見える。
……何かを追いかけてる?
プレイヤー反応は僕たちの方に向かってきている。
一番最初に現れたのは、ガスマスクだった。オリーブドラブ色をした分厚いレインコートのような服を着ている。サイズが合っていないのか、かなり大き目だ。そでから手が見えないほど。背中にはプロテクターパーツに一体化している小さなコンテナを背負っている。
「…………?」
てっきり追いかけている機甲兵器なりが出て来ると思っていたのだけど。
ガスマスクの人は僕たちを見て驚いたように動きを止めた。動きから焦りが伝わってくる。
「ああああああッ!!」
「うわっ! シャルケどうしたの!?」
いきなりうるさいほどの大声を出したシャルケは、ガスマスクの人を指さした。知り合い?
「ユニくん見て!」
シャルケが僕の前に突き出してきたのは、さっきシャルケが見ていたウィンドウだった。
そこにはガスマスクの人の画像と、金額がでかでかと記されている。
その構図と言い、装丁と言い、どう見ても賞金首の張り紙だ。
倒したらお金がもらえるってそういうことなの?
でも、この人、プレイヤーだよね!?
僕は思わず賞金首ウィンドウとガスマスクの人を交互に眺めた。ガスマスクの人も僕たちが見ているウィンドウに気付いたようだ。わたわたと両手を振り回して叫んだ。
「違う……! 賞金首じゃ……ない!」
ガスマスクの人の後ろから、何人かのプレイヤーが現れた。ちょうどガスマスクの人を真ん中に挟んだ位置取り。
突撃兵が二人、機甲兵が一人。索敵範囲内には狙撃兵はいない。
「おっ!? 何だよ、横取りかよ!?」
「おい、こういう時はどうすんだよ」
「アぁ!? はやいもん勝ちじゃね?」
「ひっ……!」
ガスマスクの人がおびえたように、プレイヤーたちから一歩あとずさる。
「おい、やっちまえ」
「おっけー」
ためらうことなく突撃兵がライフルを撃った。ガスマスクの人がしゃがんだため、大部分はコンテナに弾かれる。だが、数発は命中。ダメージエフェクトが散る。
「ったく、うぜえ。おい、キャノンでコンテナごと吹っ飛ばせ。キルさえしちまえば懸賞金入るだろ」
「ういうい」
機甲兵がキャノンを構え、チャージを始めた。ガスマスクの人は覚悟を決めたのか、亀のように小さくなったまま動かない。
その光景に、胸をわしづかみにされたような気分になる。
「ユニくん、ごめん。こいつらムカつく」
機甲兵がキャノンを撃つ前に、エネルギーキャノンが火を噴いた。シャルケだ。
警戒していなかった機甲兵は一撃で消滅。ドロップアイテムを残して消えた。
「アぁ!?」
「テメ、何してンだよ!?」
残った突撃兵が僕たちに銃を向けて来る。
しょうがないなあ、シャルケは。こうなったら、やるしかないじゃないか。
僕はブラストソードと熱線銃を抜くと、円を描くように駆け出した。
決着は一瞬で着く。突撃兵の二人は接近する僕を狙ってライフルを撃つ。だが、初見で僕の速度を照準できるほどの腕はない。つられて横を向いたところをシャルケが射撃。泡を食ったところに僕が飛び込んだ。
ブラストソードのエネルギーブレイドを一閃。豆腐でも切るように一瞬で二人を切断した。
PK後のドロップアイテムを拾うと、僕はガスマスクの人を振り返った。
「一体何がどうなってるか、説明してくれたらうれしいんだけど」




