第16話「ボス:アンガーマインマスター」
エネルギーキャノンの光が迫る。
僕とソローは左右に別れた。飛び退いた瞬間に着弾。爆風をまき散らす。
戦闘モードに頭の中を切り替える。
ソローは身のこなしが軽い。危なげなくエネルギーキャノンを避け、近くの岩陰からアサルトライフルを連射。ヘッドショットを示すエフェクトが連続して上がる。
上半身は装甲でおおわれている。<アンガーマインマスター>の顔に当てるのはなかなか難しい。それをやってのけるとは、かなりの腕だね。
<アンガーマインマスター>はぐるりとソローの方を向く。チャンス!
僕は速度を上げた。岩を連続で蹴ると跳躍。このタイミングなら振り向かれる前に取り付ける。
まずはエネルギーキャノンの砲塔を潰す!
「お、オマエ馬鹿かァっ!?」
ソローが叫ぶ声が聞こえる。そりゃそうだ。いきなり飛び出して敵に向かっていくなんて、このゲームでは自殺行為。
ソローが援護のために身をさらして射撃する。ロックオンを引き付けてくれるらしい。
エネルギーキャノンが再び発射。ソローは緊急回避スキルなのか、思いっきり横へヘッドスライディングで避けた。
「キャノンのチャージは二十秒!」
「クソッ! 了解ィ!!」
僕は<アンガーマインマスター>の肩に着地した。思いっきり砲塔にブラストソードを突き刺す。エネルギーパックがあったらもっとダメージが与えられたのに。悔しい。
<アンガーマインマスター>が僕の存在に気付いた。腕を振り回して僕を振り落とす。
両手のドリルが唸りを上げて迫る。かろうじて回避。あれ喰らったら一撃でHPが吹っ飛ぶのは確実だ。
太い腕の下をくぐり抜けるようにして背後に回る。バックアタックいただきだね。
熱線銃の引鉄を引く前に、上半身が丸ごと半回転した。こちらを正面に捉える。エネルギーキャノンのチャージ光が見える。
「やば……!」
さすが機械というべきかな。こんなギミックはティターニアオンラインの時は無かった!
僕は反射的に逃げそうになる身体を無理矢理抑え込む。
ここで逃げても視界が開けているからキャノンで狙い撃ちされる。なら、ここは密着距離こそが正解だ。
「いっけええええ!!!」
僕は全力で前へ出た。キャノンは密着すれば射角が取れない。僕には当たらないはず。ドリルだけを見るんだ。
ダッシュからのスライディング。地面を滑りながら、<アンガーマインマスター>の広げた両足の間をくぐり抜ける。くぐり抜けるついでに、ブラストソードで斬りつけておくことも忘れない。
身を起こす。今度は一目散に前へ逃げる。
後ろから上半身が一回転するガキャンという音が聞こえる。
僕が岩陰に再び隠れると同時、連続でエネルギーキャノンが岩を揺らした。
「ギャハハハ! オマエ、馬鹿じゃねェの!! オマエ、工兵だろ!?」
「こういう戦い方しかやってこなかったからね。しょうがないよ!」
近くの岩陰に隠れていたソローが爆笑しながら言う。僕はしかめっつらで言い返した。
どんな職業であろうと、どんな戦い方であろうと僕の勝手だろう。
しかし、砲塔を潰せなかったのが悔しい。もうちょっとだったと思うんだけど。
ソローはひとしきり笑うと、涙をぬぐう仕草をした。
「だけど、好きだぜェ。そういう馬鹿」
獰猛に笑う。ソローの雰囲気が変わった気がした。より凶悪に、より猛々しくなった気がする。
ソローが岩陰から飛び出した。当然身をさらせば砲塔にロックオンされる。
ソローは連続で発射されるエネルギーキャノンを紙一重で避けながら、的確にアサルトライフルを射撃する。見事な命中率。僕がダメージを与えていた砲塔が火を噴いて沈黙した。
爆発ダメージでよろける<アンガーマインマスター>。ソローは懐から手榴弾を取り出すと放り投げた。<アンガーマインマスター>にぶつかると同時に爆発。ダメージを与える。
<アンガーマインマスター>は攻撃で錯乱したのか、届かない距離からドリルを振り回す。そのドリルがいきなり射出された。
「おォっと! その攻撃パターンは知ってるんだよォ!」
ソローは避けた。
ドリルが地面にめり込み、回収されていく。その隙にさらにアサルトライフルを撃つ。マガジン一つ分銃弾を叩き込み、すぐに岩陰に戻ってくる。
<アンガーマインマスター>は地団太を踏むようにジャンピング地震攻撃を繰り返しはじめた。ソローが手榴弾をさらに投げるが、今度は爆発してもダメージを追う様子はない。
「チッ。やっぱ硬ェ。無敵時間だ、ありゃ」
「慣れてますね。すごいです!」
「オゥ、ありがとよ」
ソローは嬉しそうに笑いながら新しいマガジンに交換。
<アンガーマインマスター>の行動パターンは掴んだ。僕も何かできないだろうか。考えるんだ。
手持ちの武器は熱線銃とブラストソード。ブラストソードは熱線銃のエネルギーパック切れでエネルギーブレイドは使えない。
ん? そうか!
僕は装備していた熱線銃を操作すると、弾倉を取り出す。エネルギーパックが一つ転がり出る。
僕は急いでエネルギーパックをブラストソードに叩き込んだ。
準備完了だ!
「ソローさん! 僕がもう一度行きますよ!」
無人機を展開。岩陰の逆方向から飛び出させる。
<アンガーマインマスター>はすぐに反応した、ドリルやキャノンを無人機に浴びせかける。だが、【無人機防御】のスキルを使い、無人機はエネルギーシールドを展開して耐える。
僕は飛び出した。短く前へ跳ねるように身体を飛ばす。
素早さと跳躍力に振ったステータスが力を発揮する。
行ける。思い通りに!
砲撃に耐え切れず無人機が破壊された。僕に振り向く<アンガーマインマスター>。その顔面をソローの銃撃が叩く。
飛ばされたドリルを避け、振るわれた腕を避け、僕は再び密着距離までたどりつく。
エネルギーブレイドが伸びた。あれだけ硬かった装甲を、やすやすと突き抜けていく。
返す刀で三回斬ると残った砲塔も破壊、ドリルも片方を損壊させることに成功。僕は<アンガーマインマスター>の膝を駆け上がると、跳びあがる。
頭の上から突き刺した。エネルギーブレイドが脳天からもぐりこみ、<アンガーマインマスター>の装甲を全損させた。
<アンガーマインマスター>がポリゴンになって爆散するのと同時、レベルアップの音が聞こえた。
「よっし、んじゃ俺ァ帰るわ」
僕が<アンガーマインマスター>の報酬をチェックしていると、ソローがタバコを投げ捨てながら言った。タバコは地面に落ちる前に小さなポリゴンになって消滅する。
「ごめんね。ボス報酬もらっちゃって」
「気にすンなよ。それよか、なんだよオマエの武器、ビームソードか。攻撃力高すぎだろ」
「【近接武器マスタリー】を10にしてるからだと思いますよ」
ソローが微妙な表情で言うのに、そう答える。
ボスの報酬は与えたダメージ量に比例する。僕が<アンガーマインマスター>に与えたダメージは普通では考えられない威力だった。ある程度は減らしていたとはいえ、残っていたボスのHPを全損させたのだ。
恐るべし、ブラストソード。まさにレア武器と言えるだろう。
あとでシャルケに自慢してやろう。悔しがる姿が目に浮かぶ。
「まあ、持ってたからってオマエのようの戦い方はできねェよ」
ソローはそう言ってホームタウンへと戻っていった。その前にフレンドリストに登録することができた。これで僕もシャルケ以外にフレンドリストが増えたぞ。
僕も一度ホームタウンまで戻るとするかな。




