第13話「ボス:砲塔蟹」
中央のドームでは、すでに激戦が繰り広げられていた。銃弾やエネルギー弾が飛び交い、反撃の銃撃が空に火線を描く。
ドーム内部はすでに破壊の嵐が通り過ぎたようになっており、その陰にみんな身を隠しているのがマップからわかる。崩壊したドーム、それがボスフィールドだ。
僕らがドーム入りしたのを掴んだのか、サクヤさんから通信が入る。
『ユニオンか! 遅いぞ!』
「鷹を倒してたもので!」
『なっ!?』
驚いたサクヤさんの表情が面白い。ぽかん、としたのも一瞬、サクヤさんは大きな声をあげて笑った。
『お前というやつは! 普通はそんなことはしないぞ?』
「しょうがないですよ。あっちが襲い掛かってきたんですから。それより――!」
ロックオンされたとわかった瞬間に、銃弾が飛んでくる。慌てて僕とシャルケは瓦礫の陰に身を隠した。
反応が早い! さすがボスキャラってわけだ。
「ユニくん。この瓦礫、こういうステージみたい。破壊されにくいみたいだね!」
「よし、じゃあとりあえず接近して姿を見てみよう」
他のギルドメンバーが攻撃、反撃で狙われている隙にちょっとずつ前進。近くまで寄ると、ボスの姿が見えてきた。
<Gキャンサー>
見た目は巨大な蟹。大きな胴体が四本のぶっとい脚で支えられている。胴体からは二本の鋏が生えていた。鋏に見えるのは形だけだろう。鋏の内側が帯電しているところを見るに、たぶんあれはボス専用エネルギーキャノン。命中すれば一撃で消し炭だろうね。
他にも胴体には大小さまざまな銃火器がくっついているのが見える。いくつかは壊されているものもあるが、まだ大部分が生き残っている。あれが潰されない限りは接近することもできないだろう。
「シャルケ、まずは敵の武装を削ごう」
「りょうかいりょうかいっと!」
シャルケが瓦礫から身を乗り出すと、チャージしたエネルギーキャノンを発射した。大きな弾が光の尾を引きながら<Gキャンサー>へと向かう。よし、直撃コース。
<Gキャンサー>の銃火器が一斉にエネルギー弾の方を向いた。一斉にそろう動きは、なんだか気持ち悪い。その銃火器が一斉に火を噴いた。エネルギー弾が相殺される。
「あんなのありなの!?」
『馬鹿者! 弾を無駄にするな!』
『砲撃や銃撃もあるていど無効化するみたいなんだよ。FCSを先に潰すのがセオリーだね』
サクヤさんの通信に続いて、森造さんの通信が届いた。
「FCSってなんですか!?」
『射撃管制装置。言ってみればあの迎撃火器を操っているシステムだね。たぶんアンテナみたいな感じで出てると思うんだけど。弾速の遅いキャノンだと相殺されちゃう』
あの銃火器を潰せるのは感知外からの狙撃くらいか。どうりで効率が悪い。
僕とシャルケは身を隠しながらサクヤさんの元までたどり着いた。サクヤさんはミミルさんと一緒に援護の弾丸をばらまいている。
ミミルさんが僕たちに気付いて、小さなコンテナを顕在化させた。【弾薬補給】のスキルだ。
「弾薬を補給しておいてね。もうちょっとしたら森造くんがFCSのアンテナを破壊できるはずだから、そこから勝負だよ」
「それまではあいつの動きのパターンを覚えておくといい」
マガジンを交換しながらサクヤさんが言う。俺とシャルケは頷いた。
じっと見ていると<Gキャンサー>の攻撃パターンが分かってきた。
気を付けるべきなのは主砲の二本の鋏エネルギーキャノン。
一度撃つとチャージに二分半というかなりの長いチャージだが、この巨大エネルギー弾はこちらが身を隠す瓦礫をも消滅させてしまう。そのおかけで<Gキャンサー>の周りはだいぶ開けている。
移動速度は遅い。武装の重さもあいまって、あまり動かないみたいだ。その代わり甲羅にたくさんついている迎撃武装がこちらを狙う。ガトリング、熱線銃、エネルギーキャノンとかなり豊富だ。
また、接近すると太い脚を使っての地震攻撃も行う。蟹の巨体がかなりの高さ跳躍して、地震を起こす姿は圧巻だ。その攻撃を引き出すために生贄になった馬のニグティさんはかわいそうなことになった。押しつぶされダメージで一撃死。
『よし、大型ボスと戦う場合は、まず相手のパターンを覚えろ!』
『ハイっ!!』
『射角、弾速、をできるかぎり素早く見極めろ!』
サクヤさんがギルドメンバーを教育する声が聞こえてくる。いやあ、ためになる。
ただ、このボスの攻略についてはティターニアオンラインの時とあまり変わりはないように思える。
ボスの動きや攻撃方法を覚え、安全地帯や回避方法を探してアタック。この懐かしい感覚、燃えてきた!
「でも、かなり堅いですね、あの蟹。残り時間も気になります」
「問題ない。もうそろそろのはずだ」
ずっと攻撃を浴びせられていた蟹の鋏が爆発を起こした。
本体への攻撃は迎撃されるが、鋏への攻撃は通っていたのだ。爆発を起こしながら根本からもげる。
「よし! よくやった! 行くぞミミル!」
叫ぶやいなや、サクヤさんとミミルさんが修理銃に持ち替えて走りだす。
一体何を!?
『ブルーム! ヨシモ! COLL! 蟹をそちらに引き付けろ!』
『ラジャー!』
『了解っ!』
わざわざ姿を見せて射撃をしはじめた三人に向けて、ゆっくりと移動をしながら<Gキャンサー>が引き付けられていく。
ボス戦ではこういった牽引も大事な要素だ。一つミスすると一瞬で消し炭になるけどね!
僕の位置からはサクヤさんの邪魔になる。今は見るのみだ。
<Gキャンサー>はじりじりと三人に引き寄せられていく。このままだと壁際に追い込まれることになる。サクヤさんは何を考えているのか。
サクヤさんとミミルさんは、先ほど爆発してもげた鋏に取り付くと二人して修理銃でリペアを始める。青い稲妻状のエネルギーが、ガンガン修理ゲージを溜めていくのがわかる。
修理が完了した。
そこに現れたのは<Gキャンサー>の主砲を、撃てるように改造した武装。
サクヤさんが主砲を持つ。でかすぎる主砲は、移動制限をかける。腰だめに構えた<Gキャンサー>の主砲が帯電していく。
『よく耐えた!!』
叫ぶと同時に、サクヤさんは主砲を発射した。
目を焼きそうなほどのレーザー光がドーム内を照らす。<Gキャンサー>の背後から直撃。
<Gキャンサー>がひっくり返った。わきわきと脚が宙を掻く。
『今だ! 総員攻撃!!』
言われるまでもない。
僕はいの一番に飛び出していた。姿勢を低く、地面を蹴り、素早さの限界まで速度を出す。
地を蹴って跳躍。思いっきり中心にナイフを突き立てた。同時に熱線銃も弾倉が空になるまで撃ち尽くす。
「ユニくん! のめり込みすぎ! 復帰しちゃう!!」
あれ? やりすぎた!?
僕を乗せたまま勢いよく元に戻る<Gキャンサー>。
このままだと潰される。僕は慌てて飛び降りる。
ズドォンと重い音を立てて、<Gキャンサー>が復帰する。
「あ、あはは……」
<Gキャンサー>のセンサーが光った。
安全地帯は! 安全地帯はどこ!?
思い出せ! 触手だらけのモンスターとも戦った。迎撃火器は見えない触手と思うんだ!
僕は吐き出される銃弾を避ける。銃弾より、銃口を意識。銃口が僕の方を向く動きを意識。
「――見つけたッ!」
迎撃火器の陰に埋もれるように、小さなパラボラアンテナみたいな装置を発見する。ナイフを突き立てるとあっさりと壊れた。これで射撃管制装置は壊した。鈍くなるはず。
まだ迎撃火器は死んでない。一斉に僕に向かって照準を合わせてくる。
「さっすがユニ君! 愛してる!!」
シャルケのエネルギーキャノンが迎撃火器をまとめて吹き飛ばす。空いた隙間にもぐりこんで回避。何発かは避けきれない。一気にHPがレッドゾーンへ。
『もう片方の鋏が取れた隙に、背中から脱出しろ! そのままだとひっくり返った時に潰されるぞ!』
ええ!?
でも、同じ行程でひっくり返して、ダメージ与えてフィニッシュという勝ちパターンが見える。鋏が爆発を起こしてもげる、その時に動きが止まるはず。
僕はナイフを突き立てると、壊れた機銃の陰に身を伏せる。
もうすこし、というところで<Gキャンサー>がいきなり大跳躍した。地震を起こすためのモーションだ。このまま乗っていたら、地震ダメージを受けてしまうかもしれない。
蟹はドームの天井付近まで跳びあがる。
僕は思わず天井の鉄骨に跳び移った。ぎりぎりで何とかしがみつく。
眼下を<Gキャンサー>が落下していく。
何だあれ……?
僕はもう<Gキャンサー>の方を見ていなかった。下からは砲撃や銃撃の音が聞こえてくる。だが、その音も、あまり耳に入ってこない。
なぜならば、僕は天井に隠されるようにして存在する宝箱オブジェクトを発見したからだった。




