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第12話「空中戦」

 銃声とエネルギー弾の発射音が廃墟となった街に響き渡る。

 僕はシャルケと共に、けっこうな数の<アーマードプロウラー>を倒していた。多くても三体くらいしかまとまって来ないので、安定して狩れている。

 途中で相手ギルドの人とすれ違ったりしたが、おたがい会釈をしあって分かれている。なんともほんわかしたコンクエストとなっている。


「ん……?」

「お? どしたの? ユニくん」

「いや、レーダーが……」


 突如、ミニマップから敵の反応がなくなった。不自然に静かな時間が出来上がる。

 考えが結論にたどり着く前に、サクヤさんから入電があった。


『全メンバーに告ぐ! 中央ドームにて敵ボス機体の出現を確認。大型四脚戦車!』


 僕はすぐにマップを確認する。全体マップによると、ここはかなり端っこのほうに位置している。中央まで移動するのにそれなりに時間がかかるなあ。


『とりあえず市街エリアに出ないように牽制する。市街エリアにいるメンバーはすぐにドームに来ること! でないと、鷹が来るぞ!』


「……鷹?」


 僕の疑問符に応えようとしたわけではないだろう。だが、目の前にポリゴンの欠片が集まり始めるのを僕は目撃した。何かが顕在化(アクチュアライズ)してくる。


 ソレが少しの風圧を伴って顕在化した。

 丸っこいフォルムにもかかわらず、威圧感しか感じない。こちらよりはるかに大きな巨体。突き出たウィングには、丸いミサイルポッドと空対地ミサイルが搭載されていた。片翼に四発ずつ、計八発。頭頂部には巨大なブレードが円盤に見えるほど高速回転して、その巨体を浮かせている。


 ――戦闘ヘリだ。


「こんなのって、あり?」


 戦闘ヘリの上に、敵機甲兵器を示すマーカーと、<ハインドF>という名前が表示される。その胴体下部に設置されているガトリング砲が回転するのに僕達は気付いた。

 僕とシャルケは即座に近くの建物に避難する。壁という壁を土砂降りのような弾丸が穿ったのはその直後だった。

 ガガガガガという音が、壁を削るようになぶっていく。


「怖い! 怖いよ! これ壁抜けないよね!?」

「ど、どうだろね?」


 状況は最悪だ。おそらくこれはボスの取り巻きだろう。ボスがドームから出てきたら、この戦闘ヘリ<ハインドF>と一緒になって襲ってくるという想定なんだろう。サクヤさんたちがボス機を押さえてくれているから、最悪の事態は回避できている。

 しかし、この戦闘ヘリから逃げ切るか倒すかをしないと、中央のドームまで行けない!


 建物の外からローター音が聞こえる。さっきの遭遇でこちらがロックオンされただろう。近くを捜索しているのだ。


 建物の二階、割れている窓から<ハインドF>に熱線を射撃する。巨体な分はずすほうが難しく、命中するが、よろける様子もない。ダメージが入っているのかもわからないが、豆鉄砲みたいなものなんだろう。


「私がっ!」


 シャルケがエネルギーキャノンを発射する。緑色のエネルギー弾が空を切り裂いて<ハインドF>に命中した。命中エフェクトが見事な飛沫を上げる。<ハインドF>が一瞬空中でよろけたが、すぐに姿勢を取り戻した。


 ガトリング砲の横についている、レーダーポッドが僕とシャルケの方を向いた。あれってたしか戦闘ヘリのセンサー類が集まっている……。


 考える間もなく、<ハインドF>のミサイルが発射された。なぜかいきなり上昇。そこから急降下。僕達に一直線に向かってくるのが見えた。おかえしとばかりに、迷いなく一直線で迫るミサイル。


「おおおおおおお!?」

「きゃあああ!?」


 僕とシャルケは全力でその場から離脱する。

 空対地ミサイルが、ズドッと鈍い音を立てて地面に着弾、爆炎を撒き散らす。衝撃波に一瞬背中が浮く。爆圧に押されるようにして、数メートルは転がったか。

 僕の視界は<ハインドF>の胴体下部に付いているガトリングガンが回転するのを捉えていた。


「シャルケ、こっち!」


 シャルケと一緒に廃ビルに逃げ込む。銃弾の雨が廃ビルの壁をたたいたのはその直後だった。大量の銃弾を受けて、崩れるかもしれないと思うと、冷や汗が出る。

 ちらりの体力ゲージを見ると、七割がた減っている。シャルケのほうはまだマシだが、ミサイルの直撃をもらえば一撃で消し飛ぶだろう。


「あれでボスじゃないっていうのは卑怯じゃない!?」

「そんなこと言われても!」


 ちらりと外を窺うと、その瞬間銃弾が叩き込まれる。僕はあわてて顔を引っ込めた。

 いつまでもそうしているわけにはいかない。動きが止まっているのはまずい。

 <ハインドF>がローター音を響かせながら廃ビルから離れていく。


「……あきらめた?」

「――――違う!」


 僕はシャルケの手を引くとフロアの奥にあった階段を駆け上がる。二発目のミサイルが一階を直撃したのは直後だった。爆風の衝撃に耐えながらさらに階段を駆け上がる。


 どうやってビル内の僕たちを捕捉しているのかはわからないが、ビルの外からミサイルが次々と飛来する。四発目のミサイルが壁を穿つのを背後に見ながら、僕とシャルケは屋上に飛び込んだ。


 視界が一気に広がり、曇った空が僕らを出迎えた。


「屋上! もう逃げられないよユニくん! どうするの?」


 僕はシャルケの手を放すと、屋上の縁に向かって全力で駆け出す。疾走しながらナイフと熱線銃(ブラスター)をホルスターから抜いた。両の手に重みを感じる。力を感じる。


「ここで倒すんだよ! 頼むよ、シャルケっ!」


 ローター音はすでに聞こえている。せりあがるようにして、<ハインドF>の巨体が上昇してくる。向こうもこっちをロックオンしているが、この高さなら僕にも手が届くぞ!


 ガトリングが回転を始める。僕に狙いをつけているのがわかる。

 僕は目の前のフェンスに向かって跳躍、フェンスの縁を踏み台にして、さらに跳躍した。

 <ハインドF>より、さらに高く!


 胴体下部に取り付けられたガトリングは、左右はともかく上下に動かすのは限界がある。ガトリングで僕を撃つためには、機体自体を傾けなければならない。

 空中で傾く<ハインドF>。ガトリングが宙を跳ぶ僕にひたりと合う。


「――――お腹、もらうよぉーっ!!」


 最大チャージされたエネルギーキャノンが、<ハインドF>の曝け出された胴体に直撃した。シャルケはどんどんエネルギーキャノンの弾丸を叩き込んでいく。命中するごとに揺れる巨体。明らかにダメージを受けている。


 <ハインドF>は逡巡した。与えるダメージ値が高いプレイヤーを狙うべきか、距離が近いプレイヤーを狙うべきか。


 ロックオンを切り替えるその隙に、僕は<ハインドF>の巨体に張り付いた。ローターに身体をまっぷたつにされるか一瞬ひやりとしたが、大丈夫だった。運がいい。ローターにあたり判定は無い。

 僕はこれ幸いと巨体にナイフを突き立てて振り落とされないようにする。着弾エフェクトがしぶきを上げる。


「―――――――!!」


 <ハインドF>の苦悶の声が聞こえた気がした。


 零距離熱線(ブラスター)


 一撃でフロントガラスが粉みじんに割れる。パイロットは誰もいなかった。やはり無人兵器なのだろう。

 狂ったように飛び回ろうとするが、シャルケの連射によってうまく機動できないようだ。この密着距離であれば、<ハインドF>の武装は役に立たない。

 ――『ハインド殺し』の完成だ。


 七発目の熱線(ブラスター)が、翼を貫通してミサイルに誘爆した。これ以上はだめだ。

 僕は<ハインドF>を蹴ると、その反動で廃ビルに空いた穴に向かって飛び込んだ。どこかぶつけたのか物理ダメージをもらう。だが、成果は出た。


 シャルケのエネルギーキャノンがとどめとばかりにリアローターを吹き飛ばした。


 バランスを崩し、きりもみ回転しながら落下していく。地面に激突し、一瞬巨大な火炎を撒き散らす。


 経験値とアイテムを入手したことを示す効果音が僕の耳に聞こえた。倒したんだ。

 口から長い息を吐きながら、廃ビルの床に座り込む僕。シャルケが屋上から急いで降りてきた。


「あー……、きっつぅ」

「弾丸ほとんど撃っちゃったよ、ユニくん」

「生きてるだけもうけでしょ?」

「うん! まさか倒せるとは思えなかったよ。もう人間の動きじゃないね!」

「いや、それほめ言葉じゃないから」


 わけのわからないシャルケの言葉を聞き流しながら、僕はログを確認する。未鑑定武器。どうやら近接武器のようだ。このコンクエストが終わってホームタウンに戻るまでは何かわからないだろう。


「あの<ハインドF>、中ボス扱いなんだ」

「もお、強かったからね」


 サクヤさんが鷹、といっていたことを思い出す。この<ハインドF>が鷹だとすると、ボスはどれほどの強さなのか。

 ちょっとわくわくしながら、僕はマガジンの交換を行った。


「よし、行こうシャルケ。僕もボスの四脚戦車ってのが見たくなってきたよ」

「うん、行こう行こう!」


 僕の言葉に、シャルケは満面の笑みでうなずいた。


 



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